第13話 衝動
「道子。ここまでわかってなお、その顔、その態度ってことは、解決はしてないって事でいいわね」
メリッサはそっぽを向いたまま、何かに気が付いたように視線だけ私の方に向けて言う。
「『殺したい』。違う? こうして話してる間も貴方、ずっと剣の柄に手を置いたまま。気づいてた? あと気付いてないようだけど、あんたの笑顔。人を食い殺しかねないぐらい獰猛なのよね」
「……」
気づいてはいた。泥棒に対して剣を向けて、剣を納めてもなお、私はすぐに抜剣できるように柄から手を離せずにいた。
「ゼウス様。これはどう説明する気で? 意志は変えられないという結論をつけるのであればこれは、道子が元々持っていた性質となるんですが」
「それは……」
「私ならこう解釈します。道子は元々の世界で精神的に圧迫されていた。その中で攻撃性が無意識に高まっていた。殺したことで解放されたその衝動が、力を得て、暴走している。ただ、さっきの泥棒の一件や受け答えを見る限り、本人の性格は元々は人を守りたいとする善人でしょう。だから、折り合いをつけるのに……寄生体を排除するという名目で人を殺せるのは『都合がいい』。そう、思い込もうとしてる」
気づけば私はメリッサに剣先を向けていた。なんで……
「そう。それが貴方なのよ、道子。善人ぶろうとしても無駄。人を殺して開け放たれた衝動は、自分にとって都合の悪いものは全部、殺して処分してしまえばいいと囁く。そうでしょう? ……先に言っておくけれど、この世界でも殺しは基本的に重罪。まあ、ゼウス様に買われる前の私とか、テリッサとか、ヴィエラとか。人として認められてなかったんだけどね」
私をあざ笑うかのように自分の過去を話すメリッサ。貴方は一体何を考えているのよ。
次の瞬間、メリッサは二本の剣を抜き、私の剣を払いのけた。
「昨日負けたのは悔しかったのよね。ねえ、この状況で貴方は私を斬れるのかしらね? 昨日は木刀だったけど、今日は真剣……この状態で、全部わかった状態で。本当の貴方の覚悟を見せて」
「め、メリッサ! いい加減にしてって! 何で? 何でそんな、下手したら死んじゃうかもしれないことばかりするの? やめようよ! せっかく、せっかく」
「うるさい、アリッサは黙ってなさい!」
メリッサは怒気を強めて駆け寄るアリッサを払いのけると、私に対して斬りかかる。
キンッ、キンッ!
昨日と同じ剣筋。重さ。違うのは音だけ。私は……この剣で同じことをするの?
キンッ、キンッ!
「どうしたのよ、真剣じゃ、やっぱり斬れない? 顔に出てるわよ」
キンッ、キンッ!
同じ剣筋が続く。……おかしい。理由はどうあれ全てが上と認めた相手に対して、こんな単調な攻撃を、メリッサがし続けるだろうか?
「余裕な顔になってるわね、むかつく奴。ほら、さっさと動きなさいよ! 覚悟がないなら、今からでも遅くはないわよ? 王にやっぱりやれませんって泣きつけばいいの! 殺しは解決方法の一つでしかないんだから!」
ガンッ、ガンッ!
メリッサの剣の重さが変わった。……メリッサが、何を言いたいのかが分かった。不器用すぎて……少し、意地悪な答え方をしたくなった。
ガンッ! ブンッ!
メリッサの剣の一撃目を弾いた直後、私は体を半歩ずらして避ける。そして、下からメリッサの首へと剣を真っすぐに向けて切り上げ、止めた。メリッサに口を挟ませないぐらい早く、私は口を開いた。
「自分や人を守るために、相手を殺す覚悟なんて絶対的に必要はない。そう言葉で言えば?」
少し意地悪な笑みを見せてメリッサに言うと、メリッサも同じように少し意地悪な笑みを見せる。
「自分がどうしたいのかわからないような人間に、言葉で伝えて効果ある?」
「ない。でも、周りが迷惑そう。ここ、訓練室でもない、ただの個室だし」
私は剣を鞘にしまい、剣の柄から手を離す。そしてアリッサとゼウスを見た。私はきちんと、普通に謝るのにふさわしい顔が出来ているだろうか。少し不安になりながら頭を下げる。
「ご迷惑おかけします。これからも」
「……え? これから、も?」
アリッサが戸惑うので、私はちらりとメリッサを見た。
「やらない保証は一切ない」
「ねえ、やめて? やめようよ! 言葉にしようよ言葉に! 二人だけで何で剣を交えて話すみたいなことしてるのかわからないけど! やめて、道子の言う通り、私全然わからないよ!?」
「……解決、でいいのかい?」
「どうなの?」
今度はメリッサがちらりと私を見る。
「さあ? わからないけれど……少しは、すっきりしたかもしれない。今、殺す殺さない、正しい正しくない。その話をしても……後悔しそうだなって思った。気が付けて良かった」
「そう」
そう言ってメリッサも剣を納める。
「でも断言してあげる。それは一生ついて回る。付き合い方を覚えられるといいわね。この世界で。さて、朝食後の運動にしては激しすぎたけれどこれでおしまいとして。ゼウス様、仕事、始めましょう」
「はぁ……そうだな。まずは、情報を取りまとめて、どこへ向かうかを決めようか」
「……アリッサ、って呼び捨てでもいい?」
「え? ああいいよ。私もそうしてるし。っていうかメリッサには呼び捨てだったし、もう呼び捨てにされてなかったっけ? で、何、道子」
「そう、だった? だったらごめんなさい。また今度……メリッサがいない時に。メリッサの事を少し教えて」
その私の言葉を聞いてアリッサの安心した笑顔を見てようやく、私は自分をきちんとコントロールできていなかったことに気が付けた。
今初めて、旅のスタートラインに私は立ったのだ。




