第14話 仮説
私達は改めて個室の椅子に座る。メリッサは肘をついて少し面倒臭そうにしていた。
「はぁ……ようやく、本題に入れるね。さて、道子くん。寄生体『パラメテノイド』。そして……それを元に作られた人工寄生体『パラメテローダ』の話をしよう」
今まで、寄生体グランバール個体と呼んでいたものと、クロウディウス個体と呼んでいたものの名前が突然開示された。
「どういうことですか。何故、名前が決まっているのなら言わなかったのですか?」
「お、怒らないでくれたまえ。これは正式名称ではない。私がそう名付けてそう呼んでいるだけなんだ。この大陸でこれについて調べているのは私と国王グラム様ぐらいなもの。普通に暮らしている一般人はそもそも寄生体という存在自体すら知らない。昔からいた怪物に種類が増えただけ……程度の認識だ。ただ場所によっては……神、という認識もあるがね」
「そ、そうそう。あのね、リーダーの下で働いてるのは、私とメリッサだけじゃないんだけど。パラメテノイドについて色々聞いたのは私達も数か月前の話なんだよ。それまでは隕石が怪物化させた変種……ぐらいの所までしか聞いてないの」
秘密主義にも程がある。外部にならまだ理解はできる。でも何故身内であるアリッサやメリッサにまで伏せたのか。
「グラムは君に、その。必ず話すといった、友人の話があるだろう? えっと、それなんだ。それが大きく関わっていて、確証が得られるまで話せなかったんだ」
「ふーん。それで。惚れて買った女まで巻き込んで失くしたわけ」
「だから、メリッサ……それは結果論であって……それにその……」
「何? また何か隠していらっしゃるんですか、ゼウス『様』」
そういえば。ゼウスに対するメリッサの態度は護衛としてはあり得ないぐらい刺々しい。これは、早めにアリッサから事情を聞く必要性はありそうだ。
「とりあえず……君がグラムに討伐を約束した寄生体達。これは、結論から言うと十年前この世界に落ちた隕石そのものなのだ。いや、『星』という生き物に寄生して、隕石の形をして降ってきた。が正しいかな。おそらく、同じことをこの星にもするだろうと推測されている」
「……あの。その場合ですと、先にそちらを何とかしなければならないのでは?」
「寄生ルールがある。この寄生ルールに基づくのなら。まだ、こちらは時間がある。こちらをしっかり対処しなければならない。故に、他の要因を先に排除しなくてはならないのだよ」
物事には順序がある……まあ、理屈は納得してあげないわけではない。
「寄生ルールというのがだね、その生き物の体液と同化できた割合が一定の割合を越えた時に寄生が成立する……そしてその割合は少なくとも五割よりも明らかに上であることだけはわかっている。実際、一体だけで自分よりも大きな個体に寄生しようとした個体が、失敗して死んだ事例がある」
「どういうことですか?」
「生き物の多くは体液の半分を失えば死ぬものだ。それと同じ現象が起きた。小さな個体が同じ生き物の大きな個体に寄生を試みている現場に出くわしたことがある。研究のため、そのまま見ていたら、大きな個体の方はやがて意識を失った。しかし、小さな個体がそのまま体液を流しこみ続けた所……流し込みすぎて、死んだ」
え? 自分の命を顧みることなくやったということ? どういう状況下なのかにもよるが……私は黙ってゼウスの話を聞き続けた。
「流し込まれていた個体の方は流れ込みが収まった途端、目を覚ました。その個体を調べても、寄生体の反応はなかった。この事例からわかることは、寄生体は本体になる前に本体が死ねばまとめて死ぬということ。生き物の性質を変えるわけではなく、その生き物の体液という形で存在し続けているということ。共生、という生態と言えばいいのだろうか」
なるほど。寄生が成立した時点で、ようやく宿主を本体にできる……しかし、宿主が死ねば自分も死ぬ関係になる……ということなのだろう。だけど、矛盾もある。
「しかし、自分の命を捨ててまでやらないといけないのは不自然です」
「ああ、だから同じ発祥の個体が集まって寄生させているか、もしくは本体が生きているなら本体の中で増殖して、また体液が増えた時に追加することで寄生成立までもっていっているんだろうね。この事例については私がずっと監視下に置いていたからそうせざるを得なくなったのだろう」
なるほど。それならわかりやすいかもしれない。となると……
「星という規模になれば多くの寄生体が必要になる……ということですね。なるほど。増殖する仕組みが爆発的な増え方でない限りは、十年だったらまだ大丈夫だろう、という意味なわけですね」
「そういうことだ。隕石自体は被害をもたらしはしたが、広大な海からしてみれば小さな存在だった。まだ余裕はあるだろう。だから、このパラメテノイドを人工的に改造した……パラメテローダをまずは何とかしなければならない。今回の、ギルバードの件。一対一の事例からグラムに報告していたことと食い違ってしまった。これが改造個体だからなのかそれとも他に条件があるのかで話が変わってくる」
それについては、私は一つの仮説の入り口を持っているように感じた。
「例えば。例えばパラメテローダは元々は大きな一つの個体だとすれば……女性だけでなく、他に忍び込んでいた動物や、それこそ寄生体に乗っ取られた人間がいたなら。ギルバードさんにこっそり体液を注入して気を失わせて、数で押した可能性がありますよ」
そう。鳥。鳥は複数個体で女性を襲っていた。あれは、複数個体で寄生体を押し込んでいた。グラムやゼウスはそれぞれに寄生している寄生体にグルーピングがあってそれが一致しなくてはならないと考えているようだが……人工物なら話は別ではないだろうか。
「あり得る、ね……パラメテローダについてはそれは大いにあり得る。パラメテノイドを複数体弄るなんてこと、あいつだって出来はしないだろうし、従えるという特性を考えれば……頂点となる個体から生まれた同一個体……ある。あるね」
「ゼウス様。それで? それが確定して? 何ができるわけなんですか?」
メリッサが腕組みをして問いかける。そのやる気がない反応にゼウスは困りながら答える。
「頂点個体となるパラメテローダがどこにいるかを調査する。それが指揮している個体と同一であるなら一石二鳥ともいえる。おそらく行動的にハーゲルン国内に居るのだろうが……調べるために、隣国へ行く準備を整える必要がある。数日、待ってくれるかな?」
「数日、ですか?」
「ああ。気になる報告が一つあってね……さっき、神という話を出しただろう? それは……そうだね。アリッサとメリッサにもわかる様に言おう。アレアからの報告なんだ。数日前に届いていたのだが最近は忙しくてね。報告の分析した上で返事を返してから発ちたい」
『アレア』という単語が出た瞬間。アリッサとメリッサが驚いた表情を見せた。
「あの、アレアが? 報告文に、神? アレアが? 嘘ですよね、リーダー?」
「そんな想像上の生き物に縋るような子じゃありませんよあの子。他の誰かが強くそう言ったとしても多分そんな表現は使いません。それ本当にアレアですか?」
「いや、落ち着きたまえ……彼女の報告では、隕石を神だという山の一族がいるらしい。彼女に任せた仕事内容から山の一族という単語が出てくることに違和感はない。その一族の人間が、隕石を神だと言ったという内容だ。それに……ヴィエラの件とも一致する事例が書かれている。調べる必要があるから数日待ってほしいと言ったのだよ……」
「ああ、そういうことなら……もう! リーダーはいつも肝心なこと隠すから勘ぐっちゃったじゃないですか!」
そう言ってアリッサがゼウスを軽く肘打ちしていた。
どうやら、彼の部下の中で新たな事例を発見した報告があって、さっき私に話してくれた内容はその事例を含めてくれたもののようだった。少しだけ、見直した。隠し事が多すぎると思っていたから。
「とにかく、とにかくだ。三日以内にはここから発とう。私が調査を継続している間に、道子くんにこの世界の常識を教えて……最後にグラムからきちんとあいつの話をしてもらってから、発つ。いいね」
告知:第2章はここまでとなります。次回連載再開は12月頃の予定となります。同シリーズの連載は引き続き行っておりますので、今しばらくお待ちください。




