第12話 付与
「アリッサ。貴方が彼女の話を聞いてあげて」
「え? ねえ、突然どうしたのメリッサ。らしくないけどらしいこと言って」
「うるさい。黙ってやりなさい」
「え、ええ~……でも、私、道子に聞きたい事って元の世界がどんなだったのかとか、みんな黒髪なのとかしかないよ?」
……らしくないけど、らしいこと? そして、私に聞きたいことが向こうの世界の事? アリッサの今までの流れからして似つかわしくない緊張感がない発言に戸惑う。メリッサは何故、彼女に私と話すよう指示を出すのかもわからない。
「メリッサ。どうしてアリッサが相応しいと思ったのか理由をだね」
「ゼウス様は小難しい事を色々知っておりますので。彼女の答えを持ち合わせているでしょうが。今の彼女に必要なのは、おそらくすり合わせです。黙ってアリッサに任せてればいいんです」
「う、うむ……」
メリッサの威圧にあっさりと屈するゼウス。最初に会った時の威厳ある雰囲気が壊れているが、もしかしたら彼は元々、こうして女性陣の尻に敷かれているのかもしれない。
「それで。アリッサの質問に対して貴方はどう答えるの」
相変わらず冷たい目で私に問うメリッサ。ただ、その冷たい目の中に今まで感じていたような嫌悪の色は感じられなかった。
「えっと……元の世界はもっと沢山の機械に囲まれていました。日常生活にも多くの機械があって離れた所に連絡を取りあう機械とか、服を洗う機械とか。私のいた国では、基本的には人を殺したら、名目上は理由によっては罰せられないこともあります。ですが……社会的にはどのような理由であれ、殺しは殺しとして扱われます。それもあって、争いは避けるべきものと教えられてきましたね」
「へぇ~! あれ? でもそうなるとどうして道子はそんな世界で人を殺しちゃったわけ?」
…………
「アリッサ……」
メリッサは、すぐにそれが私が気にしていることだと気が付いた様子で、アリッサに向けて呆れた顔を隠さず見せていた。
「え? ダメだった?」
「まあ、いいわ……で、ゼウス様。私が聞きたかった事が、早速聞き出せたんですけど、ゼウス様はいかがで?」
「そうした中で人を殺すという選択が取れる人間だからこそ選ばれたということか」
メリッサは頭を抱えるような仕草を見せて、呆れていた。
「何で気づかないの……争いを避けるべきと教えるような国で育った人間が。どうして。こんなに戦えるのか。変では?」
「ああ、確かに。すまない、召喚の理由を重点に考えてしまっていた」
「あっ! 本当だ、矛盾してる! え? 道子って特別な訓練とか受けてたの?」
「い、いえ……た、ただその……」
これを言うべきかは悩んだ。身を守るために、人を殺すにはどうしたらいいか、調べたことがあるということを。
「道子。話して。今ここに居る私達が貴方の世界へ行く方法などないのだから誰も貴方が話したことを貴方の世界で話すことなんてできないでしょ。貴方がどうして殺したのか。殺すために何をしたのか。これらを話せるのは貴方の世界では貴方だけなのは変わらない。気にせず話して大丈夫」
「そうだね。私達がそっちの世界に行く方法があるならともかく、そっちの世界って魔素がないんだよね。あれ、違うんだっけ? 魔素がない世界じゃないと魔素がない人間って生まれないの? リーダー?」
「それは面白い研究かもしれないが今するべき研究ではないな……寄生体による危機が去った後にでもじっくりとしよう。それで、どうなんだい?」
「……訓練は、受けていません。ただ、その。私は、理不尽な暴力を受けてその……自分の身を守るにはどうしたらいいのかって、調べてるうちに……人を殺すにはどうしたらいいのか、調べてました……」
「理不尽な暴力……ね。内容は聞かない。身を守るために力を欲した気持ちもわかる。それを恥じなくていい。人を殺せばほぼ確実に罰せられる世界で、それでもなお、貴方に殺しを選択させた、貴方を追い詰めた相手が悪い」
メリッサがそうハッキリと言うと、なんだか、私の心の奥にあったものが少し、軽くなった気がした。
そして、メリッサは私に改めて真剣な顔で言う。
「その上で。その知識だけで戦えるの?」
「いえ……」
「なら、この世界に召喚された時に起きた異常はそこ。そうですよね、ゼウス様。ゼウス様の得意な分野ですよ」
「メリッサ、今日は特に当たりが強いな……だがそうだね、召喚されて戦えるようになる、という事例はなかったわけじゃない。原理はわからないが、召喚された際に召喚主の願いが叶えられるよう、召喚された人間に必要なモノを与える仕組みになっている可能性がある。君の場合、この世界を寄生体によってもたらされた危機から救うこと……戦うことがほぼ必須だ。だから、不足していた経験を補うように付与された……あたりか」
ゼウスの説明は理にかなっていた。召喚した人物が、願いを叶えられない人物であるなら儀式自体の有効性が問題になり使われることはなくなる。願いを叶えられる人物になるよう、転移中に能力が付与される……これなら、納得はできる。
「え? だったら別に殺したことがない人でも良くない?」
「おそらく、それは付与できないのだろう。記憶の改ざんが必要になるだろうからね。原理的に同じであれば、本人の意思が関与する部分も同じだろう。流石にそこには手が出せないということであれば『殺す覚悟を持つ人間』の中から道子くんが喚ばれたのは道理にかなう。召喚の儀式で手が出せるのは、技術的な部分だけなら全て説明はつくだろう?」
「つまり。知識や身体能力においては元々貴方は素質があった。私に勝てた理由も、経験が与えられたものだから……良かったわね。天然物の化け物じゃなくて養殖物よ」
「メリッサ、その言い方は……」
自分で望んだものじゃない。メリッサはそう慰めてくれようとしているように感じた。私が感謝の言葉を伝えようと思って、笑顔でメリッサの方を向くと、彼女は顔をしかめた。
「経験の差ということであれば、まだ勝てる」
そう言ってぷいっとそっぽを向く。
その行動が嬉しかった……だけどそれと同時に、彼女をギルバードのようにしたくないという感情が生み出した言葉が、私の中から漏れ出した。
――護るために、殺さないと




