第8話 聖騎士
手繋ぎ事件の翌日。
アイリスは朝早くに教室に行き、自分以外に誰もいない1人の空間を味わおうと1限が始まる1時間前に寮を出た。
「いや〜朝早く起きるのはやっぱいいわね〜!」
アイリスは出発する直前、「待ってアイリス!私を置いて行かないで!!」と手を伸ばすシェリーをガン無視し、寮の外からでも聞こえるシェリーの「アイリスゥゥゥ!!!」という叫び声を聞きながら校舎まで歩いたのだ。
1年C組のドアをガラッと気持ちよく開けた。
「朝早くの教室はきっと静かよね!」
「貴様、何者だ!?」
誰もいないはずの教室から声が聞こえ、アイリスは「ウソ、私より早い人間がいるなんて!」と驚いた。
自身の右目を腕で隠しながら現れた男の子に、アイリスは「何だコイツ」と目がスンッとなった。
「あの〜……右目大丈夫ですか?どうしたんですか?」
アイリスはそう言って男の子の腕に触った。
「貴様、何をする!!」
「いや普通に右目が心配なだけなんだけど。」
「たった今封じたばかりの邪悪な呪いが解き放たれてしまうではないか!!」
「いや何なんだよそれ。邪悪な呪いって何!?」
「貴様、我に向かってそんな口を聞くのか!!」
「だってクラスメイトだし。」
「え、そうだよね。1年C組の教室にいるって事はそういう事なんじゃないの?」とアイリスは不安になる。
「じゃあ名前聞いてもいい?」
名前を聞けば分かるかも、とアイリスは考え男の子に聞いた。
「貴様……まぁ良い。今回だけだがな。特別に我の名を教えてやろう。」
「ありがとうございます?」
「我の名は……我は、天より参りし神の使い!!闇の悪魔を討ち倒す聖騎士!チューニ様だ!!」
「……わー凄い凄い。」
アイリスは察した。
コイツは真の厨二病だと。
「聖騎士なのは分かったから、名前を教えてくれない?」
「チューニ様だ!」
「だから名前を」
「チューニ様だ!」
「本名でって言ってるんだよ。」
「すいません。」
天より参ったパラディンとやらはコホンと咳払いをした。
「我は……チューニ・キョークド。この世の秩序を守り、世界の崩壊を防ぐのだ。」
「あ、うん。分かった。」
アイリスはもう何も考えない事にした。
「我に名前を聞いたからには、貴様も名乗る義務がある。」
「……そうだね。私はアイリス・スターマジック。これからよろしく。」
そう言ってアイリスが握手しようと手を出す。
「……貴様。」
「握手。ほら、手出して。」
チューニは「え」と感動したようにアイリスの手を見つめた。
「僕と握手してくれるの?」
「え?逆にこの流れで握手しない事ある?」
「えっあっいや……今までの学校だと僕の事、誰も相手にしてくれなかったから。」
「え?どうして?」
「その変な口調と台詞やめろってみんなに言われて。」
「あー……うん。」
「僕は世界を救うためパラディン(パラディン)として神に選ばれたんだって言ったんだけど、誰も信じてくれなくて。」
いや普通は信じないからそんな事、と思ったがアイリスは口にはしなかった。
「でも、君は信じてくれて、今、凄く……その、嬉しいんだ。」
チューニは照れながらそう言った。
アイリスはなぜか馬鹿にされている様な気がしたが、見逃す事にした。
「……好きなように呼んで。」
「え?」
「だから、私の事を好きな呼び方で呼んでよ。」
「何で……?」
アイリスはチューニの目を見て言った。
「私達、友達だから。」
「……!」
「アイリスでも、スターマジックでも、何でも良い。」
チューニは笑顔でコクンと頷き、「じゃあ」と言った。
「同胞で。」
「やっぱ取り消しで。あとそれ男。」
この学校にはおかしな奴しかいないのか、とアイリスはこの先の学校生活を思いやった。




