第7話 全ての原因はお前だ
「……どうしたんですか、その手は。」
「先生、何も聞かないであげてください。」
護身学の授業が終わって数時間経っても二人の手が離れることはなかった。
担当の先生達に「何があった。」という顔をされたが、クソマージメを含むクラスメイト達が「何も聞かないであげて。」と話したことで、不思議な顔をされながらも何とか乗り切った。
昼休み、クソマージメ君はアイリスとレントの元にやって来た。
「君達にはとても申し訳ない事をしたと思っている。何と言えば良いのか……」
「良いのよ、気にしないで。クソマージメ君は何も悪くないわ。」
「だが……!気にしないでと言っている人程気にしている事が多いんだ!」
「クソマージメ君、それは言っちゃダメなやつ。何て反応したら良いか分からなくなるから。」
シェリーは微笑みながらツッコんだ。
「はっ……そうだった!すまない!!カツアゲでも何でもして良い!!だから、気にするな!!」
「カツアゲの方が後で気にしちゃうから。」
クソマージメ君は本当に申し訳無さそうな顔をして土下座をした。
いややめて、その姿勢にその言葉は端から見れば私達がクソマージメ君に何かしてると思われちゃうから!とアイリスは焦っていた。
シェリーはアイリスの席まで来ていて、アイリスとレント二人を眺めている。
「まぁ二人とも、これは神様からのご褒美だと思って……」
「いつ誰がこの状況に喜んでたか聞いていい?」
レントは「ハァ。」と溜め息を吐いた。
「全く、こんな事になるとはねぇ。よりにもよって相手が雌ブタじゃ、やりたい事が出来ねぇじゃねぇか。」
「だからアンタ誰のせいでこうなったと思ってんのよ。」
「イケテール、やりたい事って何なの?」
シェリーが首を傾げた。
「決まってんだろ。ミテールの愛用している水筒に毒を塗りたくるんだ。あ、勿論中だぜ?水が入ってる方。」
「何だって!?ミテール先生を殺害するだと!?」
「そこまで言ってねぇ。腹痛と下痢で苦しんでいる姿をこの目に焼き付けるだけだ。」
「だとしてもアンタが相変わらずクソな事には変わりないわ。」
入学二日で既にアイリスにドSノンデリクソ野郎と認識されているイケテール。
今までの会話を聞いていたクラスメイト達は、ある意味イケテールを尊敬していた。
クソマージメは「イケテール君、一体、ミテール先生が何をしたって言うんだ……やめてくれ!」とレントに縋りついている。
アイリスは「アンタ、流石に人を殺すのは……」と汚物を見るような目でレントを見た。
「流石に殺しはしねぇよ。腹痛と下痢作用のあるシレンオオバチの毒だ。」
「そもそも何でそんな物騒な生き物の毒を持ってるのよ。」
「オレの家で育ててる。」
「アンタの家はどうなってんのよ。」
レントは「何も聞くな。」と言う目でアイリス達を見た。
ちなみに、シレンオオバチの毒は魔法界一の下痢作用を持つ「生き地獄を味わう毒」として知られている。
シレンオオバチ自体が非常に危険な希少種で入手困難という事は有名な為、アイリスはレントの家について何も聞かないことにした。
「イケテール君、どうしてミテール先生にそんな事をするのか教えてくれないか?」
クソマージメはレントの前に立った。
レントは「お前、分かんねぇの?」と呆れている。
「アイツのせいでオレはこんな雌ブタと手を繋ぐ事になった。これはアイツがオレ達に『リデルゴ』を習わせようとしたのが間違いであり、全ての始まりだったんだ。」
「アンタが『ルクセス』とかいうクソ呪文を使ったのが全ての始まりに決まってるでしょう?人のせいにしない。というか何なの?被害を受けてるのはこっちよ!私の方!それに、昨日から雌ブタ雌ブタって呼んで、アンタ、私を何だと思ってんのよ!」
「雌のブタに決まってんだろ?」
「そのまんまじゃない!いい?私は人であって、一人の魔法使いなの!」
「へ?アンタ人間だったの?雌ブタじゃないなら馬と鹿のハーフだと思ってたんだが。」
「それ要するに馬鹿ってことよね?ブタの次は人じゃなくて馬と鹿のハーフなの?というかそうだとしたらアンタ今まで人間じゃないヤツと話してた変なオッサンって事になるわよ?」
「アァ?誰がオッサンだ?オレはまだピチピチの11才だ。」
「心は明らかに11じゃないでしょ。そのドS心はどこでどのように育ったか逆に知りたいわ。」
「そんなこと言って、素直じゃないねぇお前ぇ。ミテールの授業の時はああ言ってたが、入学式の日はこう思ってたんだろ?オレの顔がカ……」
「そんなこと思った記憶、全くないんだけど。思ってたとしても100%本心じゃないわ。」
「えーなになに?アイリス、そんな事思ってたのー?」
シェリーがニヤニヤしながら聞いてきた。
「ほら、面倒なのが関わってきちゃったじゃない。」とアイリスはレントを睨んだ。
突然、コホン、と咳払いが聞こえた。
「君達、話が脱線している。イケテール君が毒を盛るのを阻止しなきゃいけないだろ?我々3人で。」
「いやそれ本人の前で言ったら無駄になるでしょ。でもイケテール、流石に今日起きた事だから、今は持ってないわよね?」
「安心しろ。ちゃんとポケットに入っている。」
「いやそれ安心できないから!そもそも何で今持ってんのよ!」
「いざという時のためだ。役に立つだろ?」
「危害を加える事にしか役立たないよ。」
クソマージメはレントの言葉に驚きすぎて声が出なかった。
「イケテール君!君は僕と同室の筈だ!僕の目をどうやって掻い潜ったんだ!?」
「いやアンタ同室だったの!?毒の存在に気付かなかったの!?」
「ぐっ……すまない。怪しい物が無いか目を光らせていたんだが……緑色の液体が入った小瓶しか見つからなかったっ……!」
「いやそれ明らかに怪しいヤツでしょ!!疑えよ!中身調べとけよ!!」
「え、お前あの小瓶を見つけてたの?中々やるね。今まで誰にも見つからなかったのに。物探し世界選手権で優勝したオレん家の家政婦でさえ無理だった。」
「いや何だよその世界一くだらなさそうな選手権は。そんな大会あったのかよ。」
「イケテール、家ではどこに置いてたの?」
「本棚だ。」
「何でそんな分かりやすいところに置いたのに見つからなかったのよ。」
「うちの家政婦は気付かなかったんだ。本棚には色んなモンを置いてたからな。本の方が少なかった。」
「いやそれ本棚の意味ある!?本棚の役割何か知ってる!?絶対役割果たせてないよね!?」
「1番上の棚に置いていた。そこには手錠、首輪、あ……」
「いやもういいわ。何も言わないで。」
「入学して2日。こんな奴とこんな事になるとは思ってなかった。」とアイリスはこれから平穏な学校生活を送ることは出来ない、もう戻れないと悟った。
___3時間後。
アイリスとレントの手は無事に離れ、アイリスは手を自由に使えることの素晴らしさを実感した。
「やったー!シェリー、アイツとはもう二度と関わりたくないわ!」
「そんなこと言っちゃって。本当は楽しかったんじゃないの?出会って2日で好きな男と……」
「あれ、そういえばアイツ、手が離れてからすぐどっかに走ってったけど。どこに行ったのかな。」
「イケテールの事ならアイリスと手を繋げた事に興奮して……って、あれ?なんだか嫌な予感がするわ。」
その時、「誰かぁぁぁぁ!!!!」と叫ぶ声が廊下中に響き渡った。
「この声……」
「クソマージメ君よ!行きましょう!」
二人が行こうとする前に本人が登場した。
「スターマジックさん!ゴットマネーさん!大変だ!イケテール君とミテール先生がいなくなった!!」
「え!?」
「まさかアイツ、本当にミテール先生の事を……」とアイリスは察した。
「急いで探そう!まずは職員室!!」
「ああ!!」
「ええ!!」
3人は放課後の人気の無い静かな校舎を走り回った。
まだ道を覚えきれてない為、職員室まで辿り着くのにかなり時間を食ってしまった。
「失礼します!あのっ、ミテール先生はいらっしゃいますか!?」
焦ってノックをするのを忘れてしまったが、今はそれどころではない。
ミテール先生のお腹がかかっているのだ。
「ミテール先生なら先程……」
「先程!?」
「教職員専用の寮にお帰りになられましたよ。今日は特番があるからって」
シェリーがアイリスの横に並んだ。
「あの、顔色や気分が悪そうじゃなかったですか?」
「全然。何ならいつもより穏やかだったよ。」
3人は「間に合って良かった。」と安堵し、職員室を出てった。
「私達も寮に戻りましょう。」
「そうだな!授業の復習をしなければ!」
「クソマージメ君、本当に偉いね。……って、何アレ。」
アイリスが指差した先には、床に這いつくばっている大きな塊があった。
「アイリス、あーゆーのとは関わらない方が…って、イケテールじゃない!何してるのよ。」
レントはさも悔しそうな顔をしていた。
アイリスは見たく無いものを見た、という顔をしている。
「クソっ!職員室にミテールがいないか確認したら「つい先程お帰りになりました。」って言われた。後少し速かったら…!アイツが苦しむ姿を見れたのに…!」
レントは「次は別の方法で復讐してやる!」と悪巧みをしているようだった。
「イケテール君。この毒は僕が預かる!」
「お前……いつの間に……!」
「同室の者として、物騒な物を校舎に持ち込ませることはさせない!」
「クソマージメ君…!」
アイリスとシェリーはドSの悪巧みを阻止しようとするクソマージメに感激した。
「クソマージメ……お前、そんな事したらどうなるか分かってるよな……?」
社会的に殺すぞ、というレントの言葉にアイリスとシェリーはえ?とクソマージメの方を見た。
「僕は構わない。だって、それが僕という人間だからな。」
「ちょっと、社会的に殺すって、クソマージメ君が何をしたって言うの?」
「そもそも何でそんな事をアンタが知ってるのよ?ていうかアンタの方が社会的に死んでる気がするんだけど。」
レントは何か考えたようだが、「同室だからな。今は知らなくて良い。後でのお楽しみだ。」と言い、去ってしまった。




