第6話 救世主の登場
「ちょっと!何するの!?」
呪文のせいで体が勝手に動いてしまう。
アイリスはレントに「早く呪文を解いて!」と言うが
レントはハッと笑っただけだった。
「オレを揶揄った罰だ。あ、ちなみにこれは相手の嫌がる事を本人の意思とは関係なくやらせる呪文『ルクセス』だ。」
「なんてクソな呪文をとっくに習得してんの!誰に教わったのよ!ていうかアンタ本当にクズでドSでノンデリ以外の何者でもないじゃない!」
「ちなみに効果は数時間。早く切れるか遅く切れるかは相手による。じゃ、楽しめよ。オレはお前の楽しそうな姿をこの目に焼き付けておく。」
「アンタ目も腐ってるわね!これのどこが楽しそうに見えるのよ!?私を見て!嫌がってるようにしか見えないでしょ!?」
アイリスは「嫌だ」と抵抗するが、体は操り人形の様に勝手に動いている。
アイリスの嫌な事が分かったのか、その動きが止まった。
「あーあ、止まっちまった。結構面白かったのになぁ、お前の踊ってる姿。」
「アンタいつか絶対殺す……って、え?……ん?」
「どうした?……って、おい、ちょっと待て。」
二人の頭は、一瞬真っ白になった。
アイリスはレントの隣まで歩いて、そのまま止まる。
「え?嫌がる事ってこれだけ?コイツの近くに立つって事?何だ、大した事ないじゃん。」とホッとしたのも束の間、アイリスはレントの手を取り、そしてそのまま握った。
なぜかレントの手も勝手に動き、アイリスの手を握った。
つまり、二人は手を繋いだのである。
「……はぁぁ!?アンタ離しなさいよ!何でアンタまで手握ってくるの!」
「知るか!!体が勝手に……!!ていうか最初に握ったお前ぇが離せ!!」
二人はお互いに手を離そうとするも、磁石のS極とN極のように引っ付いていて離れなかった。
クラスの全員がこの状況を見つめているのも相まって、二人は余計パニックになった。
その視線の中には、好奇のものもいくつか含まれている。
ちなみに、ミテール先生は「私は何も見ていない」と知らないフリをしている。
「アンタが離せば済む問題なのに、どうして!!」
「だからオレに聞くな!!……待て、コレはお前自身が嫌がる事をお前にやらせる呪文だ。」
「何度聞いてもクソみたいな呪文ね。」
「つまり、オレと手を繋ぐのが嫌だからこのような状況になったと。……オレ巻き添え喰らってんじゃねぇか!!オレだって嫌だわこんなの!!」
「急にうるさくしないでよドS。」
「お前を苦しませようとしてかけた呪文のせいで、こうなるとは……」
レントはガックリと項垂れた。
その様子にアイリスは目を見張る。
「え、反省してるの?」
「あのドSノンデリクソ野郎が?」とアイリスは信じられないものを見ているようだった。
「次はもっと別の、周りを巻き込まないアイツ一人だけ苦しむ呪文を使おう。よし、そうしよう。」
「反省してたと思ったら全然違ってた!……っていうかこれを解く呪文は無いの?」
「……無いな。オレの知る限りなら。」
「え……」
「残念だったなぁ。」
レントはニヤニヤしながらアイリスを見た。
「アンタねぇっ……攻撃呪文を取得するならそれの解除呪文も習得しときなさいよ!!」
アイリスはミテール先生を見た。
「先生、この馬鹿がかけたクソみたいな呪文、解く方法は、何も……無いんですか……?」
ミテールは黙って俯いている。
「……申し訳ないですが、今の私の実力、そして魔法使いとしての技量だと……出来ないです。非常に残念ですが……私も、出来る限りのことはしてみますが……」
「いやそれ医療系ドラマとかでよく見るヤツ!カッコつけてないで、お願いします!これは本当にふざけてないんです。コイツはふざけたけど、私はふざけてないんです!」
「……残念ですが、ミス・スターマジック。私はほぼ全ての呪文は網羅しましたが、これだけは……『ルクセス』だけは……ちゃんとやっていなかった……!」
「……先生?」
アイリスの頭に?が浮かんだ。
「私が授業をサボってドーナツを食べていたばかりに……!」
「いや何ちゃっかり授業サボってんですか!マジでふざけんなですよ!!」
「サボるタイプだったのぉ!?」とミテール先生の学生時代に驚くアイリス達1年C組。
そんなアイリスの肩を、この空間でミテール先生の過去に対し、大して驚かなかった数少ない人間の一人であるレントがトントンと叩いた。
「……そんな騒ぐなよ。数時間すれば効果は切れる。だから落ち着け。」
「誰のせいでこうなったと思ってるのよ!!全ての元凶であるお前が言うな!!」
ハァー、とアイリスは溜め息を吐く。
数時間で手は解放されるとはいえ、自由に動けないのは困る。
ミテール先生はどこから取り出したか分からない超分厚い呪文辞典で『ルクセス』の解除方法を調べている。
誰もどうすればいいか分からず途方に暮れている中、アイリスは「もうコイツとは絶対に関わらない。」と誓っていた。
その時だった。
「スターマジックさん達!僕ならその呪文を解除できるかもしれない!」
みんなが一斉にその声の主を見る。
アイリスは神を見つけたような気がした。
神と同等の価値があるとアイリスに感動されている救世主は、休み時間にアイリスとレントを止めた男の子だった。
「本当に!?このクソ呪文を知ってるの!?」
「あぁ。何年か前に本で見つけたんだ。『ルクセス』っていうのは特に難しい呪文の一つなんだ。だから、解除呪文も難しいとされている。」
「オレ以外に『ルクセス』を知ってる奴がいるとは、驚きだ。」
「読書が好きだからな。二人とも、手を出してくれ。」
二人は繋いでいる方の手を差し出した。
「本当にありがとう……名前、何て言うの?」
「ディーゴ・クソマージメだ。」
「クソマージメ君……!感謝しきれない!今度、お礼を渡すね!」
「その事は今はいい……いくぞ、『トリシス』!!」
「待ってください!!」
クソマージメが呪文を唱えるのとミテール先生が制止したのは同時だった。
「見つけました……!『ルクセス』の呪文……!『ルクセス』は相手の意思とは関係無しに相手の嫌がる事を、相手自身にさせる難易度の高い呪文。習得しやすいのは、心が腐っていて人をいじるのが好きなドSの人間。」
「アンタさりげなく悪口言われてるけど。」
「オレは天才だからな。難易度が高いだろうが関係ない。」
「解除方法は主に2つ。1つは数時間で効果が切れるのでそのまま放置。もう1つは……『トリシス』という解除呪文!」
この言葉でほぼ全員が「クソマージメ!!よくやった!!」「お前は神だ!崇めるべき存在だ!」とクソマージメを褒め称えた。
「だがしかし!!……『トリシス』は効く場合と効かない場合がある。効く場合は、相手だけが嫌な事を相手自身でしている時。効かない場合は……呪文をかけた本人も巻き込まれている時。後者の場合で『トリシス』を唱えると……事態がもっと悪化するそうだ!!」
全員が一斉にアイリスとレントを見る。
「先生!それもっと早くに見つけてもっと早くに言ってください!!」
「お前、離れろよ。動きにくい。」
「動きにくいのはこっちもよ!」
時すでに遅し、だった。
アイリスとレントは先程よりもっと距離が近づいていて、互いの身体がくっついている状態。
そして、手の方は恋人繋ぎへと進化していたのだった。




