第4話 ドジと犬猿の仲
「みなさん、おはようございます!早速ですが、今日から授業が始まります。どの授業も真剣に取り組んでください。宿題の提出率とテストの成績によっては、休日の補習授業に参加してもらう事になりますので。授業の復習はしっかりしてくださいね!」
翌朝。
朝礼で授業や宿題、テストについての説明が行われた。
ゴーリラ先生は「詳しい事は各教科の先生に従うように」と言い、教室を出てった。
入学してからまだ2日という事もあって1年C組の教室は静かだった。
授業は自由席のため、アイリスはシェリーの隣に座った。
「シェリー、1限目って何だっけ?」
「呪文学よ。魔法の杖が必要だわ!持ってる?」
「大丈夫、全部揃ってる。どんな事をするのかな。」
教室のドアがガラガラッと開き、長い髪を三つ編みにして丸眼鏡をかけた小柄な女が入ってくる。
教科書を両手で持っていて、緊張しているのかうっすら頬が赤くなっていた。
「は、初めましてっ!リっリーデオ・リトルシャイです!こここ今年1年間、呪文学の担当をさせていただきま“ちゅ”!」
「(噛んだ)」
最後の最後に噛んでしまった恥ずかしさからか、リトルシャイ先生はさらにパニックになっていた。
おそらく、みんな先生が噛んだ事に気付いているだろう。
「よっよろしくお願いします!」
勢いよくお辞儀をし、アイリスは拍手をしようとしていた。
だが、勢いが良すぎたためリトルシャイ先生は教卓にゴンッと頭をぶつけてしまった。
リトルシャイ先生がぶつけた箇所にはヒビが入っていた。
「教卓に頭ぶつけてヒビができるなんて、どれだけ石頭なんだよ。」と、アイリスはリトルシャイ先生の頭の硬さに少し引いていた。
「あわわわわ、ごめんなさい!教卓にヒビを入れてしまうなんて……!」
「教卓にヒビを入れてごめんなさい。」なんて謝罪生まれて初めて聞いたわ、とアイリスは思った。
1人の生徒が挙手をして言った。
「あの、先生。授業を始めて欲しいのですが……」
いやいやいや、この状況ならまずは先生の頭の心配をしてあげようよ、とアイリスは思った。
だがしかし、授業開始の本礼が鳴って5分以上経過しているのも事実だった。
「そ、そうでした!早く始めないと時間が無駄になっちゃいますもんね!失礼しました!」
リトルシャイ先生は教科書を開いた。
「えーと、サンライトには護衛学という同じく呪文を使って技を出す授業もありますが、この呪文学の授業では攻撃魔法や防衛魔法は習いません。私達の生活に役立つ呪文を習います!じゃあ、教科書の六ページを開けてください!」
リトルシャイ先生はとりあえず落ち着いたようだった。
「今日の初回授業では『服や食器、部屋などあらゆる物の汚れを落とす呪文』を習います!」
リトルシャイ先生は「これが役に立つんですよ、本当に」と呟いている。
生活に役立つ呪文を習うとは聞いていたが、こんなに本格的な呪文だとは思わなかった、とアイリスは感動していた。
それもそのはず、サンセット魔法学校に入るまではほぼ一人暮らしをしていて、全ての家事を毎日欠かさずしてきたアイリスにとっては1つの革命が起きたと言っても過言ではないのだ。
洗濯や食器洗いの手間が省ける。
アイリスは「リトルシャイ先生、ありがとう。」と心の中で感謝を伝えた。
「ではみなさん、杖を構えて!『杖よ、服の汚れを落としなさい!』と唱えてみてください!」
リトルシャイ先生は杖をヒョイと振りながら呪文を唱えた。
みんなもそれに従って次々と呪文を唱える。
アイリスも『服の汚れを落としなさい!』と唱えた。
元々汚れていなかったため、ちゃんと効果はあるのか確かめられなかったが、一瞬杖の先が白く光ったのが分かった。
「みなさん上手ですね!教科書六ページの他に七ページにもこの呪文の詳しい説明が載っているので、読んでくださいね!テストに出しますよ!」
先生がそう言って教室を出て行くと同時に、1限終了のチャイムも鳴った。
ちなみに、リトルシャイ先生は出て行く時に「ワァァッ!」と転びそうになっていたが、床には何も落ちていなかったので何に躓いたのかアイリスは気になった。
アイリスとシェリーは立ち上がり、ロッカーに入れてある次の授業の教科書を取りに行った。
二人は朝、授業が始まる前に教室に来て全ての教科の教科書やノートをしまい込んだのだ。
アイリスがシェリーに「私、呪文学の授業に感動した。」と語っていて余所見していたその時。
ドンっと誰かにぶつかった。
「わっ……すみません。……って、あ。アンタなの?」
「それはこっちのセリフだ。雌ブタ。」
「だから雌ブタじゃないわよ。私はアイリス・スターマジック。人間よ?魔法使いよ?クソ野郎。」
「オレもクソ野郎じゃねぇ。レント・イケテールだ。」
アイリスが落としたペンダントの件で少しは仲の改善がされたかと思いきや、全くそんなは事なかった。
入学式翌日の時点で一部を除くクラスの全員に「あの二人は犬猿の仲だ」「混ぜたら危険」「関わらせるな」と認知されている有名な二人が、また喧嘩しそうになっているこの状況に、ほぼ全員がヒヤヒヤしていた。
「へぇ。イケテールの家なんだ。イケテールってラストネーム、拭いきれないナルシスト感が滲み出ているわね。」
「スターマジックも中々スゲェよ。自分達は他の家とは違うとか自惚れてそうだな。」
二人の間に火花が散る。
「マズい。これは何とかしなければ、「やめろよ」とか注意しなければ。」とクラスの一部の生徒は考えるが、まだ出会って2日の相手にそんな事を言う勇気は無かった。
そこで、誰かがアイリスと仲の良いシェリーに声をかける。
「おい、ゴットマネー!あの二人をそろそろ止めろよ!」
「ダメよ。あの二人なりに少しずつ進んでるのよ!邪魔しちゃいけないわ。」
「邪魔とかそういう問題じゃねぇよ!お前何考えてんだ!?そろそろ次の授業も始まるし……」
いい加減誰かが介入しなければアイリスとレントの喧嘩がまた始まってしまう。
その時だった。
「君達、いい加減にしないか!?」
全員がその声の主を見る。
眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな男の子だった。
「入学早々、騒動に繋がりかねない事をするのはやめてくれ。クラスのみんながヒヤヒヤしているんだ。先輩や先生方に目を付けられるような事をするのは、あまりオススメしないぞ。」
その言葉に、アイリス達を除く生徒達が「よく言ってくれた!お前は勇者だ!」「ありがとう、本当にありがとう!」と心の中で男の子に感謝した。
アイリスとレントはお互い相手を睨んだまま席に着いた。
教科書を読み気を紛らわそうとするが、集中出来ない。
アイリスはシェリーに「シェリー、アイツは本当に何なの?」と愚痴を垂らした。
シェリーは楽しそうに「まぁまぁ、時間の問題よ。恋っていうのは難しいのよ。」と答え、アイリスに「ごめん。アナタに聞くんじゃなかった。聞く相手を間違えたよ。」と返されたのだった。
すると、ドアが開いて先生が入ってきたのと同時に授業開始のチャイムが鳴った。




