第9話 廃校舎編·真と謎
「お前ぇ誰だ?何者だ!?」
レントはそう言いアイリスを庇うように前に立った。
黒いマントを羽織った男はそれを見てフッと笑った。
「おやおや……大切なガールフレンドを守る為に前に立つ勇敢な男……面白いですねぇ。今の時代は11才でそういう付き合いを始める人もいるんですか。勉強になりますね。」
ガールフレンドという言葉にアイリスが反射的にレントから離れようとするが、レントは「離れたらどうなるか……分かってるよな?」と声のトーンを今まで一番落としてアイリスを脅した。
「顔は見えないが今まで以上に凄いドSの顔をしているんだろう」とアイリスは思った。
「まぁそんな話は置いといて。では問題です。女子トイレに籠っていた男の子はどこに居るでしょう?」
「そんなくだらねぇクイズに乗るかよ。さっさとアイツの場所を教えろ。」
「口が悪いボーイフレンドですねぇ。ガールフレンドの方はさぞかし困っているんでしょう……」
「はい、本当にコイツ口が……って、ガールフレンドじゃないですよ!!」
男は「照れない照れない。何事も素直でいるのが大切です。」と言い笑った。
「それよりあなた方、男の子の事はもういいんですか?」
「な訳ねぇだろ。さっきも言った筈だ。アイツの場所を教えろ。」
「それは残念でしたね。私からは何も教える気は無いので。まぁ……1つだけでしたらヒントを教えてあげましょう。」
男がそう言った時、ピピピピピピという機械音がトイレに鳴り響いた。
「あら、また残念。帰る時間が訪れてしまったようです。花嫁の人形から逃げてる皆さんの姿、面白かったですよ!ではさようなら。またお会いしましょう!」
男は杖を取り出して何かを高速で唱える。
次の瞬間、男は跡形も無く消え去っていた。
だが、最後にこんな言葉が聞こえた。
「お会い出来て光栄です、アイリス様。私はヴェルディと申します。」
その言葉にアイリスはゾッとした。
なぜ自分の名を知っているのか。
レントも疑問に思ったらしい。
「お前ぇ、あの男と知り合いか?」
「そんな事ある訳無いでしょう?」
「ふーん……」
アイリスは何か大きな影が近づいてきているような気がしてならなかった。
「えぇ!?謎の男に会った?」
「僕達がいない間に!?」
レントと2人で廃校舎を出たアイリス。
外はもう真っ暗だった。
「シェリーとオカルターさんはどうして女子トイレから出てったのよ?」
「だって〜アイリスとイケテールが二人でコソコソ話してたから、ついに進展するのかなって思って、2人だけの空間にしようとクソマージメ君も呼んで先に廃校舎を出てったのよ!」
アイリスは「もう勝手にして。」とシェリーの恋愛いじりを無視する事にした。
「レント〜聞いてくれよ!」
チューニはさっきからレントに話しかけ続けているが、レントは何も言わないし答えなかった。
「悪かったって僕も思ってるから〜!」
「そういえばメーチャ君はどこに居たの?」
「メーチャではない。キョークドだ!!」
「それが、トイレでゴキブリを発見して叫んだ後、逃げる為に校舎中を走り回って最終的に寮に帰ったらしいんだ。」
アイリスはレントが何も応じない理由やその気持ちが分かったような気がした。
「メーチャ君、今はそっとしておいた方が……」
男子トイレだけでなく女子トイレも探したが、見つかったのは手帳とビー玉のみでその上、正体不明の男に出会い結局寮に帰っていたとなると、アイリスはイケテールが可哀想に思えてきた。
すると、寮の玄関ドアが開いて、校長先生が入ってきた。
「こ、校長先生!?」
「どうしてここに?」
「廃校舎に入った生徒がいると話を聞いてな。巡回ご苦労だった。」
「恐れ入ります!」
「ところで、用があるのは……そうそう、イケテール君とスターマジックさんなんだが……」
「ここにいます!」
「お〜!それは良かった。2人には話があるから、ちょっと着いてきてくれないかい?」
「勿論です!」
2人が校長に続いて入ったのは校長室だった。
「早速本題に入ろう。2人は今日、廃校舎の女子トイレで不審な男に会ったのかい?」
アイリスとレントは驚いた。
校長先生はあの場にはいなかった筈なのに、なぜその事を知っているのかと。
「この部屋は校舎の様子をモニターで見れる。そこにあるテレビでな。」
校長先生の視線の先には小さなテレビが置いてあった。
「寮の様子は見れないが、廃校舎の様子は勿論見れる。」
アイリスはそこで「ん?」と疑問が出来た。
「じゃあどうして男が現れた時……」
「おい雌ブタ!」
「いいんだよ、イケテール君。そう思うのは普通じゃ!」
校長先生は2人を見た。
「……話が逸れるが、イケテール君。ビー玉を拾ったじゃろう?」
「あぁ……はい。」
レントはハンカチに包んであるビー玉を出した。
「色が付いておる……」
「校長先生?どうしたんですか?」
「これは、簡単に言うと魔王側の人間が必ず持っているビーだ。このビー玉に色が付いているなら、そいつは魔王に認められた魔法使いというになる」
「魔王に認められた、魔法使い……?」
「そうじゃ。魔法界には最強だと謳われる七流星がいるじゃろう?魔王側にもそういうのがあるんじゃ。“七つの天星”と呼ばれておる。」
「じゃあ、今日会ったあの男は……」
「そうじゃ。“七つの天星”の一人じゃろう。それも厄介な闇属性の魔法使いだ。」
「属性?」
「それは4年生になったら詳しくやる予定じゃ。楽しみしなさい。じゃあイケテール君はもう戻って良い。スターマジック君とはもう少し話したい事があるからのぉ。」
「分かりました。失礼します。」
校長先生と2人きりという状況にアイリスは緊張が加速した。
「もう遅い時間だ。本題に入ろう。……スターマジックさん、聞いて欲しい。今日、なぜ君が“七つの天星”と会ったのか、理由は分かるか?」
アイリスは不審な男を思い出す。
「……はい。魔王は私を、自分の手元に置いておきたいんでしょう。」
「……おそらくそうだ。そこで絡んでくるのが……君の兄のアドニス君だ。」
「え……?」
アイリスは予想外の人物に驚いた。
「なぜ兄が?」
「君の家族というのは勿論だが、君には頼みたい事があるんだよ。」
「頼みたい事ですか?」
「……彼を戻して欲しい。」
「え……?」
アイリスは困惑した。
兄の何を戻すというのか。
「彼は勿論、魔王側ではない。だが……彼は、何もかも忘れてしまっているように見える。」
心当たりのある言葉に、アイリスはドキッとした。
「……彼の心を、戻してほしい。」
「彼はいつか、自分を止められなくなる。」
その言葉にアイリスは「……もう手遅れですよ。」と言いたかったが、「分かりました。」と笑みを浮かべた。
「彼を、___魔王を、頼むぞ。」
アイリスは憎き兄を思い浮かべながら寮に戻った。




