第2話 シェリー
数千人は入れるのではないか、と言える程沢山の席がある“講堂”というホールに辿り着いた。
そこで全員が先生達に荷物を預け、席に座った。
「1年生は全員いますね!誰か置いていかれてるのを見たという生徒は今すぐ私に申し出てください!良いですか?今すぐです!」
誰もいないようで、先生はホッと息をついた。
「それでは、キーパーンソン校長先生。お願いします。」
舞台の方から出てきたのは、髪という髪が全て無くなっていて頭部が照明により輝いており、黒いローブを羽織ったおじいさんだった。
「新入生諸君。初めまして。私は校長のシューマス・キーパーンソンです。よろしくお願いします。ではまず初めに、教頭先生からお話を頼みます。」
後ろで手を組み、ヨチヨチ歩いている校長先生が舞台上の椅子に座った後、教頭先生と思わしき40代の男が立ち上がった。
黒く硬そうな髪に少しだけ白髪が混ざっていた。
「えー、1年生のみなさん。まずはご入学おめでとうございます。私は教頭のマージン・カーワッテルーです。私からは一つ、皆さんにプレゼントがあります。」
その言葉に何人かが「腕時計?」「財布?」「ネクタイ?」などと反応した。
「残念ですが、全員分の腕時計などを用意出来るほど、私には金がありません。いや〜ここの学校いくら働いても金が」
「教頭先生。」
「すみません。」
何人かがクスッと笑う。
「ですから、今日の為にとあるものを用意してきました。……それでは、聞いてください。……『始まりの春』」
アイリス達新入生は全員「え?」「は?」と思わず反応してしまった。
先生達は「またか」という本音が顔に出ている。
カーワッテルー先生は杖で演奏隊の楽器を出し、リズムに乗って横揺れしている。
「あの日〜見たあの景色は 僕の心を震わす〜」
歌は意外と本格的なもので、3分ぐらいあった。
アイリスは「入学式で歌披露する先生なんているのかよ」とツッコんだ。
「えー、私からは以上です。」
まさかの歌だけだった。
次は講堂まで案内してくれた女の先生が立って、マイクの前まで歩く。
「続いては私から。本校で副校長を務めます、メイニー・ウールサイです。新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。
7年間の学びの中で色々な事を経験すると思いますが、それらはいずれ君達が大人になった時、一人前の魔法使いになった時、必ず役立ちます。
ですから、本校でたくさんの思い出を作って、それを大切にしてくださいね。ですが!規則を破る事は認めません。私からは以上です。」
拍手が起こる。
カーワッテルー先生の時とは打って変わってみんなが盛大に拍手を贈っていた。
校長先生が再びマイクの前までヨチヨチ歩く。
「じゃあ最後に私から。まずはみんな、入学おめでとう。このサンライトに選ばれた事を、どうか誇りに思って欲しい。君たちはこれから、生活に役立つ簡単な魔法から、相手を攻撃する危険な魔法まで全てを学ぶ。魔法を使いこなせるようになるのは良い事だが、魔法で誰かを傷つけるような事をしてはいけない。魔法は誰かを傷つける為に使うのではなく、誰かを助ける為に使って欲しいと私は思っている。
……君たちは、このサンライトを卒業した偉大な先輩たちを知っているだろう?卒業生ではないが、在校生として、君たちと1番年が近くて最も有名なのは、4つ上の先輩だ。最強の魔法使いと謳われる“七流星”の一人、“水の流星”ことアドニス・スターマジック君だ。」
“七流星”、“水の流星”がサンライトにいる。
この事実だけでほとんどの生徒がザワザワしている。
誰もが興奮している中、アイリスは違った。
怒りで眉を顰め、拳を握りしめている。
胸の奥が痛んだ。
「彼は本校最速の速さでこの魔法界に名を馳せた。色々あって、アドニス君はほとんど学校にはいない。これは特別に許可を出しているから、君達には理解して欲しい。」
ほとんどの生徒がコクコクと頷く。
キーパーンソン校長先生はそれを見て笑顔になった。
「良かった良かった。では、私からはここまで。……おっと!1つ大事な事を忘れていた。君達は今日から早速寮生活が始まる。寮はクラスごとに分かれているから、クラス分けを発表しよう。これは、高等部卒業まで変わらないから、新しい仲間達と仲良くしなさい。全学年、3クラスずつある。では、1年A組から。担任の先生は、魔法物理学教授のネザン・ケーペキ先生。では一番から。ソリア・アエント。リッキー・アリバー。……」
名前を呼ばれた新入生達が、Aと書かれた旗を持つ担任の先生の元に集まる。
アイリスはA組、B組で呼ばれず、C組なんだなと消去法でクラスを確認した。
C組も一人一人名前を呼ばれると思っていたが…
「えーC組。今まで呼ばれなかった生徒は、Cと書かれた旗の前に集まってください。時間の都合と……私がトイレに行きたい為、C組は省略します。」
その言葉でC組のほぼ全員が「時間の都合上というか自分のトイレ事情でC組は省くっておかしいだろ!入学式なんだから名前くらい言えよ!」と思った。
「あー教頭先生、1番近いトイレはどこだったかな。」
「校長先生、すぐそこの1番扉を出たらあるでしょう。いつも言ってますよ?」
「あーすまない。」
キーパンソン校長先生は「トイレトイレ」と呟きながら講堂を出て行った。
「ではみなさん!残念ながらC組だけ省かれてしまったので自己紹介します。1年C組の担任を務める、リンジャー・ゴーリラです!1年間よろしくお願いします!」
ゴーリラ先生はワンピースを着ていた。
「これから寮に向かうので、道を覚えながら着いてきてくださいねー!」
寮の建物は校舎を出て50m程先の場所にあった。
全て4階建で、1年C組の寮は1番前の列の右奥にあった。
「聞いてー!これから、皆さんには一旦部屋に行って、制服に着替えて、夕食を食べてもらいます!部屋は二人一部屋でペアの子がいると思うから、この間にお話して仲良くなるのが良いとオススメです!じゃあ15分後にもう一度ここに集まってください!」
みんながゴーリラ先生からルームキーのカードを受け取り、ペアの子を探した。
アイリスの脳内にはペアの子を探すという概念が無く、部屋番号の確認をして部屋に向かった。
401と書かれているので四階へ向かう。
階段を上り終えて401号室の案内を見る。右折してすぐの所にあったので覚えやすく、ありがたかった。
「今日からここが、新しい我が家」
アイリスはルームキーをセンサーにかざし、カチャッと音が鳴ったのを確かめてそっとドアを開けた。
部屋は二人部屋にしてはもの凄く広く、10人くらいで集まってパーティーが出来そうだ。
トイレとお風呂も確認し、クローゼットや棚、テレビ、そしてキッチンも備え付けられている事に
アイリスは感動を覚えた。
寝室はシングルベッドが2台横に並んでいた。
バルコニーも付いていて、アイリスは「もう一生ここに住みたい」と昨日までいた愛しの我が家への恋しさはすっかり忘れたようだ。
ベッドの下に置いてある2台のトランクを開ける。
1つは講堂で預けた衣類などの荷物。
もう1つは学校側が用意してくれた制服や教科書、筆記用具、ノートなど授業で使うものだった。
制服を取り出したその時、ドアか開く音がした。
そして「わぁ!素敵な部屋ね!」という声と共に寝室のドアが開いて同室の子と目が合った。
金髪ロングでハーフツインにしている、可愛らしい子だった。
「あ。あなたがアタシと同じ部屋の子?アタシ、シェリー・ゴットマネーって言うの。あなたは?」
「アイリス・スターマジックです。よろしくお願いします。」
「スターマジックって、“七流星”の方と同じ名字ね。ひょっとして、お兄様なの?」
アイリスはその名に対する怒りを全く出さない事に専念し、笑顔で言った。
「まぁね。もうここ数年会ってないけど。」
「そっか。“七流星”の方はみんな仕事で忙しそうだもんね。」
「アイリスって呼んでも良い?」「アタシね、チョコレートが大好きなので!だから、親にダメって言われたけど持ってきちゃったんだ!」と、察してくれたのか分からないが、別の話題を振ってくれる
シェリーの優しさが、アイリスにとってはとてもありがたかった。
アイリスは「あなたがそう言うなら私もシェリーって呼んでいい?」と聞き、2人は早速仲を深めた。
「あー良かった!アイリスが同室で安心した!アタシ、同室の子と仲良くなれるか不安だったんだよね〜」
「それは私もよ、シェリー。……あれ、そういえば、先生が15分後に集まってって言ってたよね?今、何分経った……?」
「……確かに。え、結構ヤバくない?制服着替えて下りるんだよね?待って、先生がそう言ってたのは17時45分で、今が55分でしょ?……ヤバいわ!急がなきゃ遅れちゃうわ!初日から遅れるなんて何としてでも避けなきゃ!」
アイリスとシェリーは急いで制服に着替え、ルームキーを持って部屋を出た。
よりにもよって4階だから階段をダッシュで降りなきゃ間に合わない。
アイリスはさらにスピードを上げ、最後の踊り場まで辿り着いた。
だがこの時、もっとスピードを落としていればと彼女は後々後悔する事になる。
アイリスが駆け降りてるその時
「アイリス危ない!!」
アイリスが「え」と思った時にはもう遅かった。
階段を踏み外し、落下している。
しかも階段のすぐそばには男の子が立っていて アイリスに気付いているが咄嗟の事で避けようと思っても体が動かなかった。
__________________ぶつかる。
次の瞬間、二人の頭がぶつかり合う鈍い音が聞こえた。




