第1話 魔法の始まり
全ての人間が魔法を使いこなせると言われている魔法界。
そこにはたくさんの魔法学校、魔法の店、魔法の家があった。
たくさんの子供達が魔法を使って遊んでいる様子は、この世界がいかに平和で幸せが溢れているか、よく分かる。
国中がたくさんの人のたくさんの笑顔で溢れ、温かさに満ちている。
だが、そんな幸せも長くは続かなかった。
国で一番有名な魔法総合研究所のリーダーが亡くなった数ヶ月後、後に魔王と呼ばれる悪の存在が生まれたのだ。
魔王は国の最も北にある王城を乗っ取り、国を支配した。
王様や女王様、王族達はどこかに逃げてしまった。
魔王の支配が始まって五年が経ったが、その力は衰える事なく伸び続けている。
ヘリウッド村に住んでいるアイリス・スターマジックは、白い洋館風の家で近所の人に面倒を見てもらいながら1人暮らしをしていた。
「……はぁ、来月から中学生か。」
雲一つない青空を見上げながら紅茶を飲む。それがアイリスの最近のモーニングルーティンだ。
「あと1週間で入学式だけど、どこの学校から入学許可証が届くんだろう……」
魔法界では、中学生になる者は入学式の約1週間前に入る中学から入学許可証が郵送される。
今日は郵送期間の初日だ。飲みかけの紅茶を一気飲みし、ソファから立ち上がる。
「ま、いずれ分かる事なんだし。食器洗っちゃお〜。」
朝ごはんの食器をキッチンに持って行き、水をかける。
スポンジに洗剤をつけたところでピンポーンとインターフォンが鳴った。
後で洗おう、と切り上げて玄関へ向かう。
「はい、どちら様ですか?」
「郵便でーす。サインをお願いします。」
ペンを渡され名前を郵便屋さんのメモ帳に記入する。
「ありがとうございましたー!」
元気よく挨拶していった郵便屋さんに手を振り、渡された封筒を見る。
____________入学許可証について
何度も繰り返し読み、「本当なんだ、読み間違いじゃない!」と確認すると、アイリスは嬉しさで飛び跳ねたくなった。
封を思い切り破きたい衝動を抑え、少しずつ丁寧に開ける。
中には同じサイズの紙が何枚か入っていた。
魔法学校には中高一貫の所もあり、そういう学校は全てAランクの学校に分類されている。
学校にはA、B、Cの順にランクがあり、Aランクの学校ほど魔力の強い魔法使い達が選ばれる。
だから入れるのは将来有望な魔法使い達、という事になる。
ちなみに、魔力というのは毎年新学期が始まると健康診断の最後に行われる、“魔力検査”というもので分かる。
“魔力検査”とは、水晶玉に手をかざすだけで自分の魔法の容量、技術、属性など全てが分かる大事な検査だ。
特に重視されるのが容量で、これが多い魔法使いほどAランクの学校に選ばれやすい。
Aランクの学校で特に有名なのは、イェリング魔法学校、フォーレッジ魔法学校、そしてサンライト魔法学校だ。
この3つの学校は、魔法界で名を轟かせた多くの偉人を輩出している。
アイリスは「……お願い!できたらAランク!ダメだったらBランク!」と、いまさら神頼みしてもどうしようもないのに祈りのポーズを取った。
気が済むまで祈り続け、封筒の“入学許可証”と書かれた紙を指先で摘んだ。
「よーし、私なら大丈夫。」
アイリスは目を瞑った。
「私の7年間の学校生活は_______!?」
勢いよく紙を引っ張り出し、目をカッと開いて学校名が書かれている箇所を探す。
あった。
____________サンライト魔法学校
「……え。」
驚きでむしろ冷静になっているアイリスは数秒後、「サンライト!?私がサンライト!?」と大喜びし、近所のブラウンおばさんに伝えに行った。
「ブラウンおばさん!お邪魔します!」
「もー誰?今の時間は忙しいのよ。今は二日酔いの旦那の嘔吐物を処理してって…アイリスちゃん、どうしたのよ?」
ブラウンおばさんはなぜか草抜きをする時の格好のまま出てきた。
「おばさん!旦那さんの処理の最中にすみません。旦那さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、というかアイツの自業自得だね。早くアル中になって痛い目を見れば良いんだよ!」
「何か言ったかぁ!?ウッ……」
ブラウンおばさんの家の中から旦那さんの声が聞こえた。
大丈夫そうでは無いと思うが、おばさんが言うのなら大丈夫だろう。
「まぁまぁ……そうだ、聞いてください!入学許可証が届いたんです!!」
アイリスはまだ興奮が抑えきれない様子だった。
「そーかい。それは良かったねぇ。……で、どこだったのよ?」
「そ、れ、が……サンライトでした!」
「……えええええ!!?何だって!?今、サンライトと言ったかい?本当だね!?」
「はい!嘘じゃありません、本当です!」
ブラウンおばさんは滅多に見せない優しい笑顔をして、私の頭を撫でた。
「良かったねぇ……お母さんも、お兄さんもさぞかし喜んでいるだろうよ。サンライトって事は、来週からはもういないんだね。おばさん、寂しいわ。」
アイリスはお兄さん、と言われた時に少し表情を曇らせた。だが、普通の人が見たら気づかないだろう。
「……私も寂しいです。でも、手紙書きます!だから、大丈夫ですよ!」
アイリスはブラウンおばさんの手を取りながらそう言った。
―――1週間後。
「気をつけるんだよ!良い学校生活を送りなね!!」
「はい!ありがとうございます!ブラウンおばさんもお身体にお気をつけて!」
アイリスにとって、1週間は長くも短くも感じられた期間だった。
必要な物は全て学校側が用意してくれているので、アイリスが持っていくのは着替えと魔法の杖とお金だけだった。
村を出て駅に向かい、「サンライト魔法学校前」までの切符を買う。
電車は予定通りに来た。
車内は空いていたため、アイリスは外の景色が良く見える席に座った。
前までたくさんの人で賑わっていた町の屋台は年中閑散期だ。
町の中央にある噴水の周りも誰1人として人がいない。
これも全部、魔王の支配のせいだ。
アイリスが小さかった頃は、公園や広場では魔法を使った遊びが大人気で、見るのも楽しかった。
でも、魔王の支配が始まってからは「外での不必要な魔法の使用を禁止する」と魔法の外での使用を規制され、魔法使い達は憩いの場を無くしてしまった。
アイリスは誓った。
必ず魔王を、___を、討ち取ってみせると。
アイリスは時計を見て、まだ2時間以上着くまでに時間があると確認し、昼寝をする事にした。
________「次は、サンライト魔法学校前です。お降りの際は、足元にお気をつけ下さい。」
そんな車内アナウンスが流れ、アイリスはハッと顔を上げた。
「そんなに時間が経っていたのか。荷物をまとめなくては。」と立ち上がり、車内をグルッと見渡す。
すると、2時間前の光景が嘘のように人で溢れかえっていた。
ほとんどが子供だった。
「サンライト魔法学校前。サンライト魔法学校前。足元にお気をつけ下さい。」
駅に到着し、みんながドア付近にギュウギュウ詰めになる。
アイリスも遅れないように荷物を持って列の最後尾に並んだ。
「……ここが、サンライト魔法学校。」
アイリスは校舎を見上げ、思わず息を呑む。
校舎は通っていた小学校の三倍くらいの横幅で十回建だった。
グラウンドは向こう側の柵がよく見えないくらい広い。
あまりの凄さにポツンと立っていたアイリスは「1年生はこちらへ来てください!案内は私がします!!」という鋭い声で我に返る。
こんな広い校舎で迷子になったら一生帰れないかも、とアイリスは慌てて先生の元へ走った。
「これで全員ですか!?では行きますよ!!私に着いてきてください!!」
耳がキンキンするほどの大声は、金髪のショートカットの女性だった。
青と白が混ざったネクタイを着けていて、眼鏡をかけていた。
厳しそうだな、うるさい人だなとアイリスは思った。




