第2話 ハエに液体をかけると
「先生助けて!!死んじゃう!!」
「大丈夫です。死にません。」
「アァァァァこっちに来るぅぅ!!!来るな、来るな!!あっち行け!!」
教室は阿鼻叫喚の渦に巻き込まれている。
もう授業など誰一人として聞いていない。
それは、たった1匹のハエから始まった。
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「え〜以上の事から、フォルメ性の銅とアジン性の銀は質量の比は何をしても変化しません。」
アイリスは黒板に次々と書かれていく説明や図を写す事に集中していた。
魔法物理学の授業はネザン・ケーペキ先生が担当しているが、この先生はC組全員に「重度の潔癖症の先生」と初回授業から認識されていた。
その潔癖症ポイントはいくつもある。
1つ目はどんな時でも手袋を嵌めている事。
普通に手汗で臭くならないかと思うが、アイリスは気にしないようにしていた。
2つ目は生徒に貸した教科書の表紙などを除菌シートで拭いたり、それが返される時に手袋を取って自身の手も消毒をしている事だ。
手袋をしているんだから消毒なんてしなくても良いじゃない?と思うが先生には何か思う事があるのだろう。
アイリスはそこについても考えないようにしていた。
板書を写し終わり、アイリスは先生にバレない程度に体を伸ばした。
「午後の授業は眠くなるわ〜」とあくびを堪える。
すると突然、リーズが話しかけてきた。
「ね、ねぇアイリスちゃん。アレって……」
「どうしたの?」
彼女の指の先を追うと、そこには右へ行ったり左へ行ったり忙しなく飛んでいる虫がいた。
黒かった。
リーズは泣きそうになりながら「ア……アレって……」と震えている。
「蜂だよね!?」
「いやハエだねぇ。」
みんなも何となく存在に気付いているのかチラチラと視線をハエに送っている。
どうやらハエはふよふよ飛んでいって、一番前に座っていた女の子の手に着地したらしい。
「イヤァァァ!!!誰か取って!!誰かぁぁ!!」
女の子はパニックになっていた。
ハエのついた手をブンブン振り回している。
たかがハエ、されどハエだ。
「そんなに騒ぐんじゃないわよ。」とアイリスは他人事のように思っていたが、女の子の手から旅立ってきたハエが自分の近くまで飛んで来たらノートを使って防御していた。
女の子が叫んだ事をキッカケに教室内はザワザワしていった。
それがキッカケで窓側の一番後ろの席で昼寝をしていたレントも「何だ?」と体を起こした。
「君達!落ち着きたまえ!!ただのハエだ。害を与えてくるような事は何もしない!」
クソマージメは大声で言ったが騒めきは収まらない。
ハエは皆に見守られながらレントの机に着地した。
レントは「何事かと思ったらハエかよ。睡眠時間が無駄になったじゃねぇか。」と無視してもう一度寝ようとしていたが、突然、何かを思いついたのかニヤリと笑った。
アイリスはその笑みを見て、嫌な予感しかしなかった。
「ちょっとアンタ、何か変な事企んでないでしょうね?」
「安心しろ。もう企み終わっている。今から実行するから黙ってろ。」
レントはポケットから黄色の液体が入った小瓶を取り出して、ハエにそれをぶっかけた。
「イケテール君!何をするんだ!」とクソマージメが言い終わる前にハエからは謎の黄色い煙が発生していた。
「アンタはまだ謎の液体を隠し持っていたの!?」
「別にいいだろ。持ってたって。」
「いや良くないから言ってるのよ!アンタの場合、大体変な事にしか使わないから!」
煙が薄まり、液体をぶっかけられたハエの姿が現れた。
それは……蜂に進化していた。
「アァァァァ!!蜂蜂蜂!!」
「イケテール!なんて事するんだ!!」
クラスのあちこちから悲鳴が上がる。
「誰か!!外に追い出して!!」
「無理よ!!出来ないわ!!」
「父ちゃんなら触れるのにぃぃ!!」
たった1匹のハエが原因で全員授業を投げ出して身を守る事に専念しているこの状況。
ちなみに、アイリスはハエはまだ大丈夫だが蜂となるともう無理だった。
「あぁもうイケテール!!アンタのせいで授業崩壊してるじゃない!!」
「蜂如きでそんなに騒ぐなよお前ぇら。」
蜂はみんなの叫び声に刺激されたのかブンブン飛び回っている。
「ぶんぶんぶん はちがとぶ お池のまわりにのばらがさいたよ ぶんぶんぶん はちがとぶ〜」
「アンタそんな呑気に歌ってる場合じゃないわよ!さっさと教室から追い出して!」




