第1話 薬を作ろう
アイリス達がサンライト魔法学校に入学して約1ヶ月が経った。
10月の秋晴れはとても気持ち良く、外で遊びたくなる日もたくさんあった。
「え〜では、これから魔法科学の授業を始める。今日は初めて実験をするので薬品が体に触れないようによく気をつける事!!」
4限目の授業は魔法科学だった。
担当のティレン・テンサーイ先生は実験プリントを片手に生徒達に指示を出した。
「まず始めに、4人グループに分かれてもらう。自由だと争いが起きかねないのでこちらで今から適当に決めようと思う。」
「先生!」
「何ですか?」
「他の授業では既に一年間固定の二人一組のペアが決まっているのでそちらを利用したらどうでしょうか!」
クソマージメは先生の負担を軽くしようという善意で言ったが、アイリスとレントにとっては悪意でしかなった。
「ミスター・クソマージメ。有益な情報をありがとうございます。では、ここにくじ引きの箱を用意したので、ペアの代表を決めて引きに来てください。」
「おいクソマージメ。お前ぇふざけんなよ?他の授業でも似たような事を言ってたよな。」
「クソマージメ君、アナタがそういう人だとは思わなかった。」
「二人とも、授業で関わるだけだ!!私情を入れてはいけない!!」
「入れたくなくても私情ってものは入っちゃうんだよ!」
アイリスとレントが手を繋いだ護身学の授業以降、他の授業の先生が「あ、もうペアが決まってるのね!」「ありがたい。ミテール先生に感謝しなくては。」と護身学の一年間固定のペアを利用しだしたのだ。
アイリスとレントは「いやいやいや!色々な人と関わるために他の人が良いと思いますよ!」「オレ達がペアになったら何が起こるか分からないんで。」と言ったが先生達が「時間が勿体無いのでそうしましょう!」と二人の意見をガン無視した。
ちなみに、護身学の後の授業は物理学だったが、ペアワークをする時にクソマージメが「先生!護身学の授業で一年間固定のペアを決めたのでそれを使うのはどうでしょう!」と言った事が全ての始まりだ。
「ミスター・イケテール、ミス・スターマジック!早く代表を決めなさい!」
二人はキッと睨み合ったが、先生が「ミスター・イケテール、来なさい!」と言った事でアイリスは勝負に勝ったような気がして嬉しかった。
「同じアルファベットが書かれたボールが2個入っている。同じボールを引いた別のペアと一年間固定の4人グループになるので、4人で纏まって座りなさい。」
「あのドSとはもう離れられないが、もう一つのペアがあの個性的なイツメンでなければ案外平和かもしれない。」そう思ったアイリスは数十分後にその考えも打ち砕かれる事を知らなかった。
_______数十分後
「……これは何よ。」
「何って、見れば分かるだろ。“失恋の痛みを和らげる薬”だ。」
「いや確かにそれ作れって言われたけどさ。」
アイリスは鍋の中でコトコトいってる液体を見て言った。
「これのどこが薬よ!!どっからどう見てもクリームシチューじゃない!何がどうなったのよ!!」
「知らねぇ。混ぜたらこうなった。」
「どう混ぜたらそうなるのよ!!人参とかじゃがいもなんて入れた覚え無いわよ!!そもそも牛乳なんて用意されてなかったでしょう!?」
鍋の中にはトロトロの白い液体と人参、じゃがいも、鶏もも肉が入っていた。
「ごめんね。この馬鹿のせいで実験が大失敗になって。」
「……そんな事ないよ。僕たちのグループはまだマシな方だと思う。」
アイリスは「え?」と首を傾げる。
「そこのグループはもっと酷いから。」
アイリスは男の子が指差したグループを見た。
そこにはクソマージメ、チューニ、シェリー、リーズという見覚えのあるメンバーがいた。
「ちょっとクソマージメ!これは何よ!?」
「ぐっ……すまない。メーチャ君から少し目を離していた間に……」
「メーチャではない。キョークドだ!!」
「アナタ何をしたの!?」
「フッ……闇の王を毒殺する為に呪文を……」
「毒殺しようとしてビーフシチューが出来るのは何なのよ。」
鍋の中を覗くと、ビーフシチューが出来上がっていた。
「……シェリー達のグループも失敗したんだ。」
「あ、アイリス!!聞いてよ、薬を作ろうとしたらビーフシチューが出来たのよ!アイリスのグループはどうだった?」
シェリーはアイリスのグループの鍋の中を覗いた。
「あのドS馬鹿のせいでクリームシチューが出来上がった。」
「……アタシ達の所よりずっとマシじゃない!」
「クリームもビーフも大して変わらないよ?」
「色の話よ!」
「お、クソマージメのところもシチューが出来たのか。」
「違う。ただのシチューではない。僕達はビーフシチューだ!」
「いやそこ否定しても意味無いと思うけど。」
レントは「何でシチューが出来たんだろうな。」とチューニと話している。
「アンタはどんな混ぜ方をしたのよ。」
「普通に混ぜたぜ?時計回りに。」
まだ授業終了まで20分程時間があるのでアイリス達はもう一度作る為の準備をした。
「まだ時間があるから急いでもう一度作ろう。まず、その痛み止めの薬と惚れ薬を水と一緒に混ぜる。」
アイリスはレントにやらせると何が起こるか分からない為、この段階は自分でやることにした。
薄ピンクの液体が出来上がった。
「次に、その液体が沸騰するまで中火で火にかける。」
ゴポゴポいい出したので火を弱火にする。
「最後に、時計回りにゆっくり混ぜる。」
アイリスはレントにヘラを渡し、混ぜさせる。
「すると……」
「薬が完成。」
先程とほぼ変わらない液体が出来上がった。
「クリームシチューじゃない!なんで!?どうして!?」
「オレに聞くな。お、マッシュルームとブロッコリーも加わってるぜ?」
「そこはどうでもいい!」
アイリスは「何が違うの!?」と実験プリントに書いてある手順を確認したが、間違いは見つからなかった。
すると、二人の背後から声が聞こえた。
「今は調理実習の時間ではありません。魔法科学の時間です。何を入れたんですか?」
「テンサーイ先生!手順通りに進めたんですけど、なぜかクリームシチューが出来ちゃって……クソマージメ君のグループはビーフシチューが出来てました。」
「それは置いといて、どうしてじゃがいもやブロッコリーが入ってるんですか?」
「知りません!イケテールに混ぜてもらったんですけど、毎回こうなるんです。どうしてでしょうか?」
「それはこっちが聞きたいです。薬を作ろうとしてシチューが出来た生徒は見た事がありません。あなた達が第1号です。」
アイリスは「そんな!」と言いたくなったが、そもそも薬を作ろうとしてシチューが出来る方が珍しいのだ、いや、おかしいと気付いた。
「……もう良いです。今回は仕方ないですが、次回からは気をつけるように。」
「いや何に対して気をつけるんですか。」
丁度チャイムが鳴った為、授業は終了となった。
「あ、雌ブタ。良い事を教えてやる。今日の実験が失敗したのは、オレが今朝『作った液体が全てシチューになる薬』を飲んだからだ。じゃあな。」
「……アンタのせいじゃないのぉぉぉ!!!」
アイリスはレントの後を追った。




