第四章 自分で選ぶということ 第二話
毎日14時10分に更新いたします。
『婚約解消』
「……なぜだ」
初めて、彼の声が揺れた。
ディアナは静かに答える。
「やっと、読まれなくなっただけです」
ハーバルが顔を上げる。
「何を――」
「昔の私は、すぐ顔に出ていたのでしょうね」
彼女は微笑んだ。
「だから今日は、少しだけ練習してきましたの」
その言葉に合わせるように、 少し離れた場所でフォースが静かに頷いた。
温室で。
応接室で。
鏡の前で。
彼は何度も、ディアナに言ったのだ。
――視線を動かさないでください。
――呼吸を乱さないで。
――本当に見せたいものほど、隠すのです。
そして最後に、 こう付け加えた。
――相手が読むのは、あなたの心ではありません。
見せられた“反応”です。
ディアナは、 それを覚えていた。
ハーバルは紙から顔を上げた。
「……何をした?」
その声は、初めて硬かった。
いや、正確には違う。
それは問いではなく、 “あり得ない”という否定だった。
自分が見誤るはずがない。 読み違えるはずがない。
ディアナは、 ただの侯爵令嬢だ。
あみだくじの本質も、 人の視線の癖も、 まだ完全には知らないはずだ。
――なのに。
彼は、 たしかにそこを見た。
彼女の視線。
呼吸。
わずかな沈黙。
そして選んだ。
選ばされたのではない。 自分で選んだと確信していた。
その“確信”ごと、 崩れていた。
ディアナはすぐには答えない。
ほんの一瞬、彼を見つめ返す。
そして思い出す。
温室で。
応接室で。
何度も繰り返された言葉。
――見せたいものを見せようとしてはいけません。
――読まれるのは心ではなく、反応です。
そしてもう一つ。
――「読み取られる前提」で動けばいい。
彼女は、それを“少しだけ”練習した。
ただそれだけだ。
視線を、わずかに“ずらす”。
選ばせたい場所ではなく、 “見せたいと思わせる場所”へ。
それだけで十分だった。
ハーバルは、そこを読んだつもりになった。
彼女を見下していたからこそ。
まだ自分に届かない段階だと、 無意識に決めつけていたからこそ。
その判断だけが、唯一の誤りだった。
ディアナは静かに言った。
「それが、私の気持ち……そしてこの場での決定事項よ」
ハーバルが目を見開く。
「……何?」
「ずっと、こうだったのでしょう?」
彼女はまっすぐ彼を見る。
「私は選んでいたつもりだった。 でも、本当は違った」
部屋中が、彼女の声を聞いていた。
「あなたは私に選ばせていたんじゃない。
選ばされたと、思わせていただけ」
破天荒幼女トーシャ! 〜達人級異世界転生者は今日も平常運転で世直し中〜
https://ncode.syosetu.com/n8341me/
同時期公開しております。
よろしければ、ご覧になって、スカッとしてくださいませ。




