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元海賊の商会、ミナを「ねえちゃん」呼ばわりする (第81、82話)

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で起業する。ミナの賢さに気づいたブリア領主アンドリオンはミナを行政顧問に迎えた。ミナは、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。その第二段階として、外国商人が泊まれる高級宿の入札会を開催した。

2つ目の入札商会はクッシャリエ。特殊な宗教を持つ国だ。

3つ目の商会トガリアは、代表が元海賊というとんでもない商会だった。いったい彼らは何を思って入札してきたのか…?



このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


「いやいや、ミナ殿。教義を破れとはいくらなんでも無理難題。代表もお困りではないか。国にも申し訳が立ちますまいよ」


 セグリオがミナに向かって気の毒そうな表情を見せる。


「そうでございましょうか…」

 ミナもそれに応じる。


 ザッカリムはミナとセグリオのやり取りを聞いて、思わず声を上げる。


「いや、確かにそちらのおっしゃることも一理あります。では、もし教義よりも自由都市の法が上に来るということをお約束すれば、宿の許可がいただけるので?」


「ええ。わたくしは、ヒーズリー教徒のみなさまに、コブルーに来ていただけることを楽しみにしているのでございます。


 ですから、バンサラー専用ではなく、ヒーズリー教徒専用ということであれば、許可を出したく存じますわ」


 とミナはニッコリした。


「か、かしこまりました…。ぜひ、検討させていただきますので、お時間を少々いただければと存じます」


「ええ、もちろんですわ。ただし、落札会は4日後でございますので、ぜひ、それまでにお考えくださいませ」


「あ、それから、公開布教もご遠慮願おうか」

 とバラントンが付け加える。


「そうですわね。布教をするとなると、他の領地や国々からも、危険性を疑われる可能性がございます。ですから、ここは安全圏をお勧めいたします」

 そう言って、ミナはニッコリした。


「か、かしこまりました。では、この件、持ち帰らせていただきます…」

 そう言って、ザッカリムは辞した。


 しかし、彼は扉の前で立ち止まった。

 だが、振り返らない。

 そして、低くつぶやく。


「……これは、教義の解釈に関わる問題でございます」


 部屋がみな沈黙する。

「もし誤れば――私は祖国に帰れませぬ」


 3人は黙っている。

 ザッカリムは振り返り、ゆっくり頭を下げた。


「ですが…商いの道を閉ざすこともまた、民を苦しめます」

 そして去っていった。



第82話 トガリア商会の思惑



 次に呼ばれたのは――トガリア商会である。


 応接間の扉が開いた瞬間、空気が変わった。


 入ってきたのはあの入れ墨の大男。トガリアの代表、ジオルダンだ。

 年のころは30過ぎだろうか。腕を組み、ゆっくりと歩く。まるで戦場を踏みしめる兵士のような足取りだった。


 後ろには、例の目の鋭い男が控えている。補佐役だろう。だが発言する気配はない。


 トガリアの2人は椅子に座らなかった。立ったまま、3人を見下ろす。

 しばらく沈黙が流れる。


 セグリオが咳払いをした。

「……着席されては?」

「立った方が話しやすい」


 腕組みをしたまま、低い声でジオルダンは言った。相変わらず3人を見下ろしたままだ。


(この人……威圧感がすごい…。これはまるでグリフォンね)

 ミナは腹式呼吸で息を整えた。


「ふむ」とため息をついて、セグリオが書面を開く。


「では、追加条件を述べる」

 セグリオは静かに読み上げた。


軍事拠点化の禁止

私兵は10人以下

防衛時は港湾局または王命に従う

港湾防衛協力義務


 この男の望むところではないだろうと3人とも思っていた。


「私兵は禁止だと…? じゃ、どうやって砦を守る?」


「砦の建築ではない。宿だ」

 セグリオはうんざりしたように言った。


「お、そうだったな。宿だ。どっちでも同じだろ? 敵から守らなきゃいけないんだからな」


「あの…」

 ミナは素朴な疑問が浮かんだ。


「あなたは誰がこのコブルーを襲うと考えていらっしゃるのですか?」

「ねえちゃん、…いや、失礼。顧問さんよ。決まってるじゃねえか。グリダッカルだよ」


「えっ、グリダッカル?」

「当たりめえよ。何を寝ぼけてやがるんだ?」


「言葉を控えよ!」

 バラントンが厳しく言う。

「もちろん、港の防衛の件はそれなりに考えておる。それは軍の仕事であって、商会の仕事ではなかろう?」


 ジオルダンの言葉にバラントンがイラッとしたのがミナにもわかった。


「いやいや、わかっちゃねえな」

 ジオルダンは首を振り振り言う。


「軍ってのはすぐには動けねえ。上の命令を待たなきゃいけねえからな。大量の武装した船団が沖に見えたとき、どうするんだ? 王様に尋ねるのか? 


 ここから何日もかかるんだぞ。返事が来る頃にゃ、港は占領されちまっている」


「ちょっと待て。グリダッカルは船団など持っておらぬ。だからこそ、このコブルーを狙っておるのだろう?」


 セグリオが口を出す。

「チッチッ、甘いな。グリダッカルが他の国を動かして、船を出させることくらいできるんだぜ」

「……」


 3人は顔を見合わせた。


「あの…。あなたはその計画をご存じなのですか?」


「あのな、ねえちゃ…顧問さんよ。俺たちゃ、自慢じゃねえけど、元海賊だぜ? もちろん全員じゃない。頭のいいやつもいねえと商会なんかできねえからな。


 だけどよ。船乗りの世界には、裏ってもんがあるんだよ。どこの国がどんな準備をしているかっていう情報が入るのは当たり前だろ。なにせ、船乗りがいなきゃ、船は一ミリも動かねえんだからな」


「つまり、その計画があることを知っていると…」

 セグリオは恐る恐る聞く。


「しょっちゅう計画されて、挫折してやがるけどな。どこの国だって、自分ところの海軍を簡単に動かしたくはねえ。


 だから、グリダッカルは必死に船乗りと傭兵と船を集めてんだよ。

 だけど、船乗りはグリダッカルみたいな海のないやつらに使われたくねえんだよ。


 だが、金を出されれば、動くやつもいる。だから、いつ本当になるかわからんぜ」


「そ、それは大変なことではないか!」

 バラントンが血相を変える。


「だから言っているだろ、じいさん。港に砦がなきゃ守れねえってな」

「じ、じいさんだとぉ?!」


 バラントンは身を乗り出し、青筋を立てそうなくらい腹を立てた。


「こんな侮辱は初めてだ! 私は領主補佐官だぞ」

 ソファにどさっと座り直し、額の汗を拭く。


「バラントン卿、落ち着かれよ」

 セグリオが慰めるような目で言う。


「本当に元海賊なのですね。その言葉遣い、いたしかたございませんね」

 そう言って、ミナはクスッと笑った。


「おっ、ねえちゃん、わかっているじゃねえか」


 嬉しそうに言うジオルダンを見て、ミナはこの大男を少しかわいく思った。

 確かに、彼は他の言葉遣いを知らないだけなのだ。


「そんな脅威がございますのに、なぜこのコブルーにわざわざ宿を建てようと?」

「いい質問するな、ねえちゃん」


 すっかりねえちゃん呼ばわりだが、ミナは平気である。ニコニコして素直な表情で、ジオルダンの言葉を待つ。


「俺はな、侵略者ってのが大嫌いなんだよ。海賊の俺が言うのもなんだけどな。


 昔は俺だって、まともな船乗りだったさ。だがよ。長い航海を終えて国に帰ったら、国がなくなっちまっていた…。わかるか? 


 俺の国は侵略されちまって、なくなっちまったんだよ。俺には帰る港がなくなった」


「まあ…」

 それは悲しい話だった。


「それはどこの国なのだ?」

 セグリオが尋ねた。バラントンはショックのせいでまだ口を利かない。


「ドーハイって国さ。アーガリアの東の小さな国だ。そこを襲いやがったのはモーガダイ。


 知ってるだろ? ヨーカイダの国さ。スリマラビヤの東の大国だ。


 ドーハイのちょうど真北にあってな。船の大群でやってきて、襲いやがったのさ。


 グリダッカルはその最強の船団を借りようと交渉中だ。だが、モーガダイは条件が合わないと言って、断り続けている」


「そ、そんなことが?! これは一大事ではないか!」

 バラントンもさすがにすねている場合ではなかった。セグリオと顔を見合わせる。


トガリアは港の乗っ取りを企てているのか、それとも救世主なのか…


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。のちのブリア侯行政顧問

セグリオ… 王都から派遣された商務官僚

バラントン … ブリア領主から派遣された補佐官

ブリア …このコブルー港のある領地

バンサラー … 港の対岸にあるアーガリア大陸の国。

ヒーズリー教 … バンサラーの宗教で禁忌が多い

ザッカリム…バンサラー国クッシャリエ商会代表

グリダッカル … アラゴンキアを狙う北の隣国

アラゴンキア …ミナの住む国

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