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計算しつくされた入札会の交渉術 (第81話)

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で起業する。ミナの賢さに気づいたブリア領主アンドリオンはミナを行政顧問に迎えた。ミナは、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。その第二段階として、外国商人が泊まれる高級宿の入札会を開催した。すると、癖のある商会ばかりが入札してきて…。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


 ここで、ミナが口を出す。


「まあまあ、セグリオ卿もコーハラルも、そのような怖いお顔はおやめくださいませ。コーハラルの案はわたくしはとても買っております。


 特に、この瀟洒な外観。本当に美しいですわ。実際に建ったところを見てみたいと思わせますわ。確かに、大商人たちにとってはこのような宿は理想でしょう。


 しかし、セグリオ卿がおっしゃるように、ブリアの主権が守られる必要がございますので、多少の譲歩をしていただければ、わたくしどもも多少の譲歩をさせていただきたく存じます」


「ほう、そちらの譲歩とは?」

 ボマンドが眉を動かした。


「コーハラル商会が入札していらっしゃいますのは3区画分。そのうちの一番広い4番区画をご提供いたしましょう。ここは港からは少し遠いですが、風光明媚な場所。


 しかも港の喧騒から離れた静かな良い土地ですわ。富裕層には望ましい場所ですわ。それに…」


 ミナはもったいつけて一呼吸置く。


「この周囲にはまだ土地がたくさんございます。ですから、ここを拠点に、いずれは海外の富裕層の社交場をおつくりになることもできますわ。


 すると、コーハラルの評判は海外にも広まることでしょう。いかが?」

 

 これは「良い警官、悪い警官」の手法だ。ミナが「まあまあ」と間に立つ良い警官役をやり、コーハラルをほっとさせるのだ。


「なるほど…。確かに、この4番区画はもっとも欲しい場所です。ここがいただけるならば…」

 とボマンドも心を動かした。


「あと、こちらが譲歩できるのは、多少の工期の遅れです。


 設計図を多少書き直していただくことになりますから、その分2か月の余裕を差し上げたいと思います。また、工期完了の期日は実際の営業開始日とさせていただきます。


 ですから、たとえば外構や庭などの整備は営業後に整えても構いません」


 ミナはできるだけ優し気に言った。


「ふむ。それはまあ…ありがたいですな。しかし…」

 と、ボマンドを考え込む姿勢を見せた。


 そこでミナはもう一言付け加える。


「確かに、こちらの条件は厳しいかもしれません。なにしろ、世界初の自由港を育てようとしているのですから、どうしても慎重にならざるを得ません。


 ですが、その厳しい審査を乗り越えて、第1回目の入札で受注したという貴商会の名誉は、このコブルーの歴史の1ページを飾るものとなるでしょう」


 とどめだ。


「うう…。かしこまりました。では、一度持ち帰らせていただきます」

 とボマンドは頭を下げ、ドアに向かった。


 ミナたち3人は「ほぼ決まった!」と思い、にんまりとした。


「ひとつ、確認させていただきたい」

 ドアの前で突然ボマンドが振り返り、3人ともウグッと顔を引き締める。


「周りの土地の入札会をされるときには、間違いなく当商会にお声がけをいただきたい」


「かしこまりました。それはお約束いたしましょう」

 とミナが微笑む。


 ボマンドは満足したように部屋を出ていた。


「ふう。演出が見事に決まりましたな」

 見ていたバラントンがフフッと笑う。


 セグリオは渋い顔を見せ、ミナが微笑むのは最初から決めた演出だ。

「はい。これでコーハラルはなんとかなりますね」

 ミナもセグリオもホッとしていた。


 交渉術は、ある意味演劇だ。配役を決めておき、ドラマチックに見せて、相手が勝利したと思えるようにしなければならない。


 その実、ブリア側は領土も権限も譲っていない。主権は一切揺らいでいない。


(国際港として、外国人を許容することと、コブルーが主権を渡さず支配すること。このバランスが難しい…)

 ミナは気持ちを引き締めた。



 次はバンサラーのクッシャリエ商会である。


 今度はバラントンの番だ。ここでは、追加条件を一切提示しない。


「遠方よりお越しいただき、誠に恐縮ではございますが、ブリアとしましては、この度、貴商会の落札の見込みはないということを申し上げたい。これ以上、お時間をいただきますのも失礼かと思い、先にお知らせさせていただきます」


「な、なんと! なにゆえでございましょう?!」

 クッシャリエの代表、ザッカリムは驚愕の顔をして、バラントンに詰め寄る。


「ご存じとは思いますが、この自由都市のかなめは法なのです。逆に言えば、法を守る者は歓迎されます。しかし…」

 バラントンは言いにくそうに言葉を濁す。


 ザッカリムはもう一歩詰め寄るように身体を乗り出した。「さっさと言え」と言わんばかりに。


「そちらの宗教では、法の上に教義が立つとのこと。とすると、法と教義が異なる場合、教義を優先させるのは当然のこと。


 それが良い教徒と言うものでございましょう。たとえば、盗みをした者に対してどのような処罰をするかとか、二者の争いごとをどのように解決するかとか…。


 そのような場面で食い違いがあれば、法は守られません。ですので、自由都市としては、お断りせざるを得ず…」


「な、なんと…」

 ザッカリムは絶句した。


「なにをおっしゃいますやら。確かに教義は大切ですが、そのような食い違いなど、めったに起こるものではございますまい」

 ザッカリムは納得がいかない様子だ。


「いや、今まではなくとも、これからはわかりません。なにしろ、国際港として、コブルーには各地から人が集まります。どんなもめごとが起きるかわかりません。そのときに問題となるくらいならば、いっそのこと…」


 バラントンは額の汗を拭く素振りをする。

「むむむ…。これは非情な…」


 ザッカリムは唇をかみしめ、悔しさを満面に表す。そして、ミナとセグリオを見た。二人とも、悲愴な顔をしてザッカリムを見る。


「な、なんとかなりませぬかな…」

 すがるように二人に言う。


「むむ…。ヒーズリー教徒の方々がお困りなのは理解できるのですが…。儀式、禁忌や祈りは問題ございませんが…どうしても、教義が…。

 いや、失礼。すばらしい教義であることは理解しておりますが、アラゴンキアとの相性となると…」


 セグリオが気の毒そうに言う。


その二人の顔を交互に見ながら、ミナがザッカリムに声をかける。


「あの…。若輩者のわたくしごときが申し上げるのもなんですが、固い教義をお守りとはいえ、多少は融通が利くところはございませんの? …たとえば、アラゴンキア内に限り、教義よりも法を優先する…とか?」


「そ、それは…わたくしの一存では…」

 とザッカリムが汗を拭く。


「わたくしどもは、宿の仕様そのものは特に問題があるとは思っておりません。ただ、やはりその…教義の部分が…」

 とミナは首を傾げて、残念そうに言う。


「いや、それは確かに…」

 ザッカリムは何かを言いたくて、言えない。逡巡している様子だ。


仕事の難しさを痛感するミナ。最初から前途多難で、心が折れそう…。なんとか交渉術を駆使するが…。

相手も海千山千…


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用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。のちのブリア侯行政顧問

セグリオ… 王都から派遣された商務官僚

バラントン … ブリア領主から派遣された補佐官

コーハラル … 入札するアラゴンキアの商会

ブリア …このコブルー港のある領地

ボマンド … コーハラル商会代表

バンサラー … 港の対岸にあるアーガリア大陸の国。

ヒーズリー教 … バンサラーの宗教で禁忌が多い

アラゴンキア …ミナの住む国


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