初めての入札会はとんでもない連中ばかり…(第79話)
ブリア領は敵国グリダッカルに狙われているコブルー港を持っている。コブルーを守るため、ミナは、コブルーを自由港にすることを領主に提案した。自由港にするためには、各国の商人を呼び込まなければならない。そこで、宿を増やすため、ミナは宿の入札会を開催した。
初めてお読みになる方は、下に用語集がありますので、ご参考に!
そんなことをして過ごしているうちに1月になり、コブルーの入札会が開催される。
さすがにこの日にはミナもコブルーに行かざるを得ない。
冬なので、フード付きのマントをすっぽりとかぶれば、移動中は姿を隠せる。護衛はゾーイ以下、4人がついている。
バンリオルは王都の住宅建設で忙しいため、今回の入札はしないと言っていた。
入札会は港湾局の大広間で行われた。長机の上にはいくつかの設計図、土地配置図、保証金証書などが並べられている。そして、バラントンとセグリオが左右に座り、ミナは中央に座っている。
設計図は、前もってタンブリーの建築部の官僚たちが精査をして通ったものだ。保証金証書も財務部が確認している。
それを提出した者たちが入札会に入ってくる。最初に入ってきたのはアラゴンキアの商人たちだった。
だが――
次の瞬間、空気が変わった。
頭に黒いケープを巻いた異国商人の一団。
腕に刺青を持つ大男とその一団。
「コインを加える鷹」の紋章がついたベレー帽をかぶった男たちは、隣国イルマランの銀行家の一団。
ミナは一瞬、目を見開き、唖然とした。
(……え? こ、この人たちも入札者?!)
思わず隣のセグリオを見る。彼も官僚と一緒にちゃんと入札希望者を書類で確認したからだ。セグリオが小声で言う。
「……参加資格は満たしております」
「そ、そうなのですね…」
(そうよね…排除できない…)
参加資格にはアラゴンキア人であることとは書いてないのだ。自由都市を目指す以上、ルールに従うものは誰でも受け入れなければならない。
(でも、最初からこんなにバラバラじゃあ…)
まず、イルマランの銀行家が資料を見ながら言う。
「うちは4区画すべてに入札しております。土地代金は即時支払い可能です。
事業計画案には自信があります。大商人が満足する豪華な建物の設計図を準備しております。
必ずや落札して見せましょう」
その言葉は穏やかだったが、つまり金でこの港を動かしてやる、という意味に聞こえた。
次は黒いケープの外国商人たちだ。彼らはアーガリア大陸の国、バンサラーの商人だ。
「我らが建てるのは、我が国の商人専用宿です。入札するのは2番区画です。ここは緑も多く、眺めもいい」
専用宿とはつまり、自国の治外法権区画を作るということではないか?
(ダメ。絶対…)
ミナは心の中で✖をつくり、にらむ。
冬にも関わらずむき出しの腕に入れ墨のある大男は、元海賊だと自慢気に言った。それを聞いて場が凍る。気の強いミナもさすがに密かに震える。
しかし、刑を終えているので、入札には問題なく参加できる。
彼はじろりと周りの入札者を見回す。その目が「どけどけ!」とでも言いたげだ。
「俺らがつくるのは、嵐にも火にも盗賊にも負けねぇ宿だ。港も守れる」
セグリオがミナに彼らの設計図を差し出して、設計図に防壁構造と、避難用に地下通路が書かれているのを指さす。
彼らの入札希望の土地は1番区画と3番区画だ。3番区画は少し高い土地で、しかも港を見下ろすので、設計図には塔がある。彼は言い終わると、他の入札者をにらみつけた。
(ぐぐぐ…。これは宿屋ではないわ。小さな要塞よ。ここに海賊の基地でも作るつもり?!)
ミナは唸った。こんな状況になるとは予想していなかった。
(国際港を甘く見た。失敗だわ…。助けて。どうやって進めたらいいの?)
港湾局広間での入札会に集まった人々は険悪だった。
入札者たちは互いに距離を取って座った。同じ机に座りながら、決して視線を合わせない。まるで戦場の前線だ。
ミナは涙目だ。
(こ、こんなはずじゃ…)
プレゼン感覚で始めたこの入札会だが、事業提案型入札など、実際にやったことのないミナには、この国際港コブルーの入札会は想像以上の困難な出来事に見えた。
ミナは悟った。
(これは宿の入札じゃない…港の支配権争いだわ。下手をすると逆に港が奪われる)
ブルっと身震いする。誰を選ぶかで港の勢力図が決まる。国際関係が変わる。これは建築ではない。政治そのものだ。
ミナは、自分が商業ではなく政治の世界にかなり足を踏み入れていることに、今更ながら気づいた。意図したつもりはなかったのだが。
しばらく誰も言葉を発しなかった。全員がこの場の責任者である彼女が何を言うか待っていた。セグリオもバラントンも、ちらちらとミナを見た。
ミナは勇気を出して立ち上がる。ここで言わなければならないことがある。
ゆっくり右から左へ聴衆を見回しながら、その隙に腹式呼吸をして、自分を落ち着かせる。
そして、ミナはよく通る声で言った。
「お集まりいただき、ありがとうございます。わたくしはブリア侯行政顧問、ミナでございます。この入札は土地の価格は決まっております。価格ではなく事業を提案していただく形の入札です。つまり…」
ミナはそこで一呼吸おく。
「…この港に最も利益をもたらす計画を出した者に土地を売ります。土地は4区画。複数取得もありえますが、最大4者のみが土地を獲得します。今日は、皆様の詳しい説明をお聞きしたいと思います」
そう言って、力尽きたようにどさっと座った。
エレガントに座る心の余裕がなかった。レディにはあるまじき失態であるのだが、立ち上がって、震えずに声を張り上げただけでも自分を褒めたかった。
ミナは責任者である重荷を全身に感じて、真冬にも関わらず、汗ばむ。
一癖も二癖もあるある参加者たちは、鋭い目でミナをじろじろと値踏みし始めた。
その視点が痛い。
(くく…。た、助けて…。若輩者の私にはムリ…)
頭の中には弱音がうずまいていた。
異国の人々が集まる港には、さまざまな思惑の人々が集まる。
ミナはその危険性にやっと気づく。
ミナは、それらを采配する能力があるのか?
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用語集
ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。ブリア侯行政顧問
コブルー アラゴンキア国ブリア領にある港
ゾーイ … ミナの護衛の騎士
ボリック・バンリオル … 大商人にして、諜報部を持つ
セグリオ … ミナと共に働く官僚
バラントン … ミナと共に働く官僚
タンブリー … ミナのいるブリア領の中心地
アラゴンキア…ブリアのある国の名




