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ミナの次なるコブルー対策は… (第77、78話)

大商人バンリオルは、奴隷を使った商品を排除すべく、国王に直訴する。それに腹を立てたルーガン商会は、バンリオルを亡き者にしようと攻撃をしかける。

カイルはバンリオルの護衛として、ニーボルンと共にバンリオルを守るため、知恵を働かせる。


カイルは魔法具トーチでバンリオルの寝室に隠れている影をみつけて、それをおびき出す方法をニーボルンに指示した。


初めてお読みになる方は、下の用語集をご覧ください。


 ニーボルンはそれを聞くと、(わかった)と唇で言い、音を立てず少し戻って、階段の下あたりに立った。そして、いきなり叫ぶ。


「か、火事だ~!! 火事だぞ~!!」

 そして、走り回る。


 敵が仕掛けた作戦を利用して、火事のフリだ。


 カイルはトーチに目を戻すと、そのマーカーはすこしびくついた。火事だと聞いて、部屋に戻る者などいない。ターゲットはもうこの部屋には来ないのだ。


(こいつは潜むのをあきらめて部屋から出る。テラスか? ドアか?)


「火事だ~!!」と叫びながら、ニーボルンは外に出た。彼はテラスに回るはずだ。


 遠ざかる声に安心したのか、マーカーは動き出した。


 ガタンと家具が音を立てる。何かにぶつかった。そして、姿が見えた。扉に向けて走ってくる。

(逃すものか!)


 カイルはその男が扉を抜けようとした瞬間、剣を捨てて、思い切り腹を蹴った。

 剣を使わなかったのは、主人の部屋を血で汚したくなかったからだ。


「グワッ」と叫び声をあげて、男は倒れる。そこを拘束する。

 その男の胸から、封蝋の付いた指示書が転げ落ちる。その封蝋はルーガンのものだ。


 その日、3度にわたるルーガンの執拗な攻撃は、やっと終了したのだった。



 チェスコブの協力を得て、後日、ルーガンは証拠を元に拘束された。これで、ひとまずはバンリオルの身は安全になるだろう。


 しかし、ルーガンがいなくても、ルーガン商会の活動は続けられる。奴隷を使う国との貿易に関しては、後は国王の判断にゆだねるしかない。


 バンリオルはその後もいくつかの会合に出席し、奴隷を使う国との取引の危険性を訴え、商人たちとの話し合いを重ねて、王都を離れることにした。


                  * * *


 タンブリーから帰る馬車に乗り、バンリオルが何事もなかったように隣の番頭と話をしているのをカイルは黙って聞いている。いつもどおりの商売の話だ。


(商売という方法で、奴隷を無くす、侵略を無くすという夢を掲げて働く男。それはどんな戦士よりも英雄的行為なのだろうな…)


 カイルは心の中で思った。


「君たちが守ってくれるだろう? 私たちは皆ひとつのチームなのだ。私があんなことを言えるのも、君たちがいてくれるからだよ」


 バンリオルが「エビーナの招き」で言った言葉を思い出す。


(ひとつのチーム…。バンリオルが世界を動かす仕事に、俺も貢献しているということか…)


 自分が彼を完全に守ることができれば、バンリオルは言いたいことが言える。それは彼に一つの力を与えるのと同じことだ。


 自分にはできないことをするバンリオル。そして、彼にはできないことを自分がすればいいのだ。もし、そうできるならば、こんなにうれしいことはない。


 戦うという意味が、魔物を狩っていたころとはまったく違う。今のそれは何かの主張であり、未来への前進だ。


 カイルはラフカーンに憧れて、魔物狩りの世界を飛び出した。そして、いつのまにかバンリオルという、一人の英雄を支える仕事ができている。


 カイルはフッと笑う。

(人生はおもしろい。一瞬先は未知だ。だからこそどうにでも変えられる)

 そして、自分が自分の道を変えたことに心からの満足を感じるのだった。




第78話 ミナ、涙目の入札会




 ミナが若草宮に帰ると、侍女が客が待っていると告げた。留守の間に邸宅の中でミナを待っているのは、ミナの家族しかありえない。


「カイルね?!」

 ミナは思わず全身で喜びを表して、2階に駆け上がる。レディとしてははしたないのだが。


「カイル!」

 カイルは窓際に立っていたが、ミナが飛び込んでくると、ぎゅっと抱きしめる。


「おかえりなさい。元気ね?」

「ああ」

「よかったわ。ちゃんと顔を見せて」


 そう言って、ミナはカイルの左の頬に右手を当てて、左手で前髪をよけた。

 そのミナの顔を間近に見て、カイルは満足する。


「カイル、少し大人っぽくなった」

 カイルは笑った。


「俺、もともと大人だからな。ミナはちゃんとわかってない」

「う~ん。大人っぽいっていうか…。ちょっと自信がついたかんじ?」


 侍女がお茶を運んできたので、二人はテーブルにつく。


「…かもな。俺、バンリオルのところで働いて、すごく満足してるんだ」

「そうなの?」


「ああ。危険だけど、…仕事にやりがいがある」

「そうか。それはすご~くいいことね! そうだ。カイル、手紙とユーリカ油、ありがとう」

「ん…」


 カイルはちょっと顔を赤らめた。彼としては、あの最初の一言を書くのに、ずっとためらっていた。彼のささやかな告白だ。それを受け入れてもらった気がして、うれしかった。


「ミナはまた危ないこと、してないか?」

「え?! してないわ」


「ほんとか? 領主にのしかかられて投げ飛ばすとか、ないよな?」

「あ、あれは…ちょっとした遊びよ。もう二度とないから」


「そうだ。こんど、ミナにあれを教えてもらいたい」

「なにを?」


「その、ブドー? アイキドーってやつ」

「ああ、あれ? いいわよ。カイルでも投げちゃうから」


 えへっとミナは笑った。いつもは大人っぽくふるまうミナも、カイルの前では少女なのであった。

「ああ。楽しみだ」

 カイルは、王都での緊迫した日々が遠い過去になっていく気がした。


                  * * *


 コブルー体制はセグリオとバラントンの担当となっている。

 そして、セグリオの後ろには王弟レオストがおり、バラントンの後ろにはアンドリオンがいた。彼らは最終責任者であって、実務はセグリオとバラントンが行う。


 すでに自由都市宣言から半年経ち、低税率の実施と、標準箱の採用はかなり進んだ。

 そして、8月から採り入れた月額制の優先権もすでに3カ月実施され、好評を得ている。


 次の政策は、宿泊施設の充実だった。これがなければ、他国の商人が留まらず、港が守られないのだ。


 ミナは知っていた。

 どんなに攻撃的な国であっても、その国の民がある外国に滞在すれば、その外国は攻撃しにくくなる。自国民が滞在する土地を攻撃することは、国の威信を損なう。


 あけすけに言えば、自国民が異国で人質化してしまうのだ。


だから、敵対的な国だからと言って、その国の人間を追い出そうとすると、そのほうが戦争のリスクが高まる。


 実際、アラゴンキアはグリダッカルの民の入国を禁止しているので、ブリアはまだ侵略の危機に怯えている。つまり、ブリアの敵国、グリダッカルの民でさえ、このブリアに留めておけば、ブリアを攻撃しにくくなるということだ。


 とはいえ、これは治安が守られてこそである。その治安対策を先にするのが大切なのだ。


 もちろん、理想は敵国だけでなく、各国の民をコブルーに留めることだ。

 もし、その中の一国がコブルーに手を出せば、他の国は自国民が殺される可能性があるので、各国は激怒するだろう。それはコブルーの平和を守る抑止力となる。


 それがまだ、宿泊施設不足のために、実現できていなかった。

 今までは交易量がそれほど多くなかったからだ。


 しかし、今や自由都市宣言から5か月過ぎ、税率は5%、標準箱を使い、爆発的に取扱量が増えた。そして、3カ月前には大量の法官、警備兵が投入され、治安が良くなっている。

 いまこそ早急に宿泊施設を作る必要があった。


 標準輸送箱もかなり充実してきたので、そろそろ人夫が余る。失業した人夫が騒動を起こさないように、次の仕事を提供する意味もあった。


 ミナは領地の建築部の技術者と話し合いを重ねて、コブルーの宿泊施設建設計画を作り上げた。



 コブルーに行くことを禁止されているミナは、アンドリオンの名の下でバラントンとセグリオをタンブリーに呼んで会議を開き、コブルーの土地を宿泊施設用に売り出し、その入札会を開催してくれるように、二人に頼んだ。


 その条件は、1年半以内に宿泊施設を完成させられる事業主に、土地を8掛けで売り、取得税を無税とする、ということだ。


 価格競争型ではなく、事業提案型の入札を行う。どんな宿泊施設を建てるのかを競わせるのだ。


 もちろん、それができなかったときのペナルティーを用意したり、建物を必ず建てさせるための保証金を出させたりと、いろいろな工夫をしなければならない。


 正直、コブルーの土地は余っていたのに、今までは宿泊施設を建てようとするものがいなかった。しかし、この半年で貿易量は2倍に届きつつある。これなら、宿泊施設を求めるものは増えるだろう。それを見抜ける業者に来てほしい。


 コブルーの評判はこれからなのだ。


「建物は少なくとも4棟。1棟あたり50室以上。レンガ造りで作っていただきます。


 規格建材を用意しましたので、これを使って設計図を描いていただきます。

 設計図が良いもの、そして、保証金を払える者から、入札していただきます」


 ミナは二人に説明した。資料を見せて、細かい建物の条件を示す。

 バンリオルに提案した簡易プレハブ式をここで応用する。


「なぜレンガ造りなのですか?」

 とセグリオが不審がる。


 セグリオは王都の人間なので、そもそも家というのは石造りだ。

 とはいえ、港の宿泊施設はあくまでも短期滞在だから、木造りで十分ではないかと思う。


「石造りは建設に時間がかかります。レンガは石よりも速く建設できます。工期は石造りの半分で済みます。さらに、木造よりも堅固ですし、防火の機能もあります。

 港は風も強くて火事が起きやすく、木造では火事に対応できません。


 それに、レンガは木造よりも高級感があり、大商人にも満足していただけるでしょう。

 できるだけ、大商人に長期滞在していただくのが、この街の安全を守ることにつながるのです」


「なるほど…」

「しかし、レンガは崩れやすいのでは?」とバラントンも訝しげだ。


「そこはモルタルで固めて強度を高めます」

もちろん、一番良いのは石造りなのだが、港町では石を運ぶのに時間がかかり、建設期間は3年はかかる。それでは遅すぎるのだ。


「ふむ。わかりました。では、それでいきましょう」


 意外にもこの二人はミナの意見を重視してくれ、しっかりと実務レベルで実行してくれるのだ。


 こうして、10月末には、選定された土地4か所と、細かい条件が港湾局で告知された。入札会は2か月後。入札希望者は急いで設計図を描き、事業提案書を書かなければならない。


 しかし、とにかくこちらも急いでいるので、時間の余裕はない。設計図を描くのに慣れた業者だけが参加するだろうとミナは思った。


                    * * *


 11月と12月は、ミナはエカーリアを教育しながら農民支援制度のための役人たちを募集し、教育する仕事をしていた。

 それに加えて、カイルに合気道を教えるのだ。これは、ミナの楽しみとなった。


 ミナはまず、お針子を呼んで自分の袴や足袋を作らせる。足袋は必須だ。なにしろ、高貴な女性は足を見せてはいけないのだ。素足などとんでもなかった。


 お針子は見たこともないものを作らされて困惑していたが、ミナが何度かやり直しをさせて、なんとか着られるものができた。そこまでに2週間かかる。次は訓練場だ。


 若草宮の玄関広間の床の上に、古びた絨毯を2枚敷き、臨時の道場とした。稽古が終わると絨毯を片付けて元の広間に戻す。カイルと二人だけの稽古なので、これで十分だろう。


 ここで、カイルに合気道を教えるのだ。


 最初は呼吸法、足運びからだ。それから受け身を教える。それから基本の型だ。カイルは身体ができているので、きっと早く覚えるだろう。


 ミナも、久々に対人での稽古ができるので、これは良い機会だった。

 ときどき侍女たちがこっそり稽古を覗いていたが、それは無視することにした。


現代にも通じる防衛論。敵国の旅行者もいざと言う時には人質の価値が…。


さて、次回は宿の入札会がとんでもないことに…。


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。

カイル … ミナの恋人、バンリオルの諜報員

ニーボルン … バンリオルの護衛隊長

トーチ … 索敵の魔法具

ルーガン … 奴隷を使う安い材木を輸入する商会

チェスコブ … 王都警備隊長

ボリック・バンリオル … 大商人にして、諜報部を持つ

タンブリー … ミナのいるブリア領の中心地

エビーナの招き … 大商人の会合

ラフカーン … ブリア騎士団長

若草宮 … ミナの住むブリア城内の小さな宮殿

ユーリカ油 … カイル特製の万能薬

コブルー アラゴンキア国ブリア領にある港

セグリオ … ミナと共に働く官僚

バラントン … ミナと共に働く官僚

レオスト… アラゴンキアの王弟殿下

アンドリオン … ミナが住むブリア領の若き領主

アラゴンキア…ブリアのある国の名

グリダッカル…アラゴンキアの北東にある敵国

エカーリア … アンドリオンの妹

農民支援策 … ミナが始めた野菜買い取り事業


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