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狙われたのはバンリオルか、それとも… (第77話)

大商人バンリオルは、材木を扱っていた。そこへ、ルーガン商会が、奴隷を使って材木を切り出す国から安く材木を輸入し始めた。バンリオル商会は危機に立たされる。

奴隷を使って安くするというやり方に怒りを覚えたバンリオルは、国王に進言し、「奴隷を使う国からの輸入の制限を」と願った。それに腹を立てたルーガン商会は、バンリオルに報復しようとたくらむ。


カイルは、バンリオルの勇気ある告発に感動し、バンリオルを守ることに今まで以上の熱意を込めるようになった。


初めてお読みになる方は、下の用語集をご覧ください。

 カイルは少し考えてから言った。

「あのおかげで、俺たちは倉庫行に防御を集中するだろう。それが奴らの狙いなら?」


「つまり、防御が薄くなる別のところを狙うかもしれんと?」

 ニーボルンが険しい顔になる。


「そういうことだ」


「ふむ…。なるほど。旦那様の命ばかりが狙いとは限らんな」

 ニーボルンは頷いた。


 ボリック・バンリオルに家族はいない。両親は引退してゆったりと保養地に住んでいる。商会の跡継ぎはボリックの子ではなく、いとこがなる予定なのだ。そのいとこは今アラゴンキアにはいない。


「狙うとしたら…」


 カイルとニーボルンは顔を見合わせた。


                   * * *


 翌々日、バンリオルは朝から、河岸の近くにある王都郊外の材木倉庫に向かった。

 コブルーから船で運んだ初めての規格材の材木の状態を確認するためだ。


 馬車を広場に止め、そこから倉庫へ歩く。このあたりは各商会の倉庫が並ぶ、倉庫街だ。

 カイルは少し離れたところで、目立たないように隠し持ったトーチを確認しながら、目に見えない敵はいないかをチェックする。


 ニーボルンが率いる5人の護衛の男たちが、バンリオルの周りを取り囲みながら歩いていく。


 ニーボルンはバンリオルの倉庫の入り口に立ち、大声で言う。

「倉庫内の者は全員、入り口まで旦那様を出迎えよ! 一人残らずだ!」


 すると、倉庫のあちこちから男たちが現れ、倉庫の入り口で左右に並ぶ。その数12人。

「よし」

 とニーボルンは言った。


 カイルは、トーチを見て倉庫の中に4人ほど潜んでいるのを確認すると、ニーボルンに近づき、その場所をひそかに教えた。


「お前たちはしばらくここにいろ」

 そう言って、ニーボルンとカイルだけが倉庫に入っていく。バンリオルは倉庫の外で計17人に守られている。


 カイルは西側の2人を担当する。剣士ならば負けるとは思わないが、魔法使いだとやっかいだ。

 しかし、風魔法なら連射できないので、バンリオル以外には撃たないだろう。

 むしろ、連発できるピットを警戒する。あれは魔道具を持っていれば魔法使いでなくても撃てる。


 潜んでいる敵に音を立てずに忍び寄り、刺客が隠れている場所の裏に行き、いきなり材木を押し出して、反対側にいる賊を突き飛ばした。


「グッ」

 賊は頭を打たれて材木棚から落ち、入り口に向かって逃げようとする。そこにはすでに仕掛けてある罠がある。棚と棚の間に張った縄に足を引っかけ、賊が転倒する。


 そこへカイルが飛びかかろうとすると、賊はとっさにピッターを構える。カイルは身を躱しながら材木を一本掴み、賊に投げつける。ひるんだすきにピッターを蹴り上げ、すかさずそのピッターを奪う。反転して、後ろから来た別の賊に向かって撃つ。


 肩を撃ち抜かれ、賊は吹っ飛んで倒れた。そして、もう一人の頭を蹴り上げて、気絶させた。後で吐かせるために、殺さず捕獲する。

 

 ニーボルンも同様に2人を捕獲していた。

「やはり4人程度か…。こっちは陽動だな」

 ニーボルンは苦々しそうに言う。


「ふん。だが、準備は怠っていない。あとはチェスコブの部隊を信頼しよう」

 そういってカイルは前髪を指でかきあげて汗を拭いた。


 その夜、無事に倉庫の確認を終えたバンリオルは、馬車で邸宅に帰ってきた。護衛たちももう一台の馬車に乗っている。

 すでに真っ暗になっていた。


 チェスコブの部隊が、邸宅を取り囲んでいる。チェスコブはかつて王太子直属の諜報部長だったが、今は王都警備隊の総隊長だ。


「バンリオルさん!」

「ああ、チェスコブさん。どうでしたか?」

 バンリオルはチェスコブとともに屋敷に入る。


 しかし、屋敷からは使用人が一人も迎えに出て来ない。

 屋敷はもぬけの殻だ。使用人たちは前日から一斉に避難していた。


「おっしゃる通りでした。油を巻いて放火しようとした犯人を捕らえてあります。大きな屋敷ですから、向こうもそれなりな人数を送ってきましてな。合計で12人捕らえました」


「なんと! そんなにですか? で、油は?」

「はい、証拠が必要なので、多少撒かれましたが、すでに土を掘り起こすなどして排除しております」

「う~む…」


 屋敷の使用人の安全を脅かすやり方にバンリオルは唇をかみしめ、怒りを抑える。


「…そうですか。いや…、ありがとう。世話になりましたな、チェスコブさん」

「後はお任せください。12人を縛り上げれば、誰からの命令か吐くでしょう」


 バンリオルはなんとか笑顔をつくり、チェスコブと握手した。

 倉庫の4人もとらえているし、証人は十分にいる。ルーガンが関わっている証拠は挙がるだろう。


 カイルたちも屋敷に入り、中の安全を目視で確認する。

 今、使用人は誰もいないはずだ。


 ――カイルには苦い経験があった。ミナの襲撃が2回続けて行われたことだ。あれは油断だった。

 カイルはトーチを起動して、安全を確認しようとしたが、異変に気づいてバンリオルの腕をつかむ。


「どうした? カイル」

 赤い点が一つ、バンリオルの寝室のあたりについている。

 他は誰もいない。二人で眉をぎゅっとしかめる。危険はまだ去っていなかった。

 ルーガンのしつこさにはあきれるくらいだ。


 バンリオルはタバスと1階の別室に行き、そこでしばらく潜むことにした。ニーボルンとカイルが剣を抜き、二人でしずかに寝室へと向かう。


 寝室の部屋の扉を音もなく開ける。そこから顔をのぞかせて、部屋の中を見たが、誰も見えない。しかし、マーカーはそこを示している。


(またナスコムか? やっかいな…)

 そんなに認識阻害魔法を使える魔法使いがいてたまるか、と思った。


 しかし、この部屋には家具がいっぱいある。ベッドの下やソファの後ろ。そこに隠れているのかもしれなかった。なにしろ夜なのでそもそも視認できない。


 カイルは少し胸が速くなる。ナスコムと風刃を使う魔法使いに勝てたのは、ミナがとどめを刺したからだ。今度はどうだ? これがルーガンの切り札なら魔法使いの可能性が高い。


(どうやっておびき出す?)

 ニーボルンはほとんど唇の動きだけでカイルと会話した。


 カイルは何かを思いつき、それをニーボルンの耳元で伝えた。


「絶対に守る!」その意識が、カイルをプロの護衛として進化させた。


…一方、そのころミナは?


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。

カイル … ミナの恋人、バンリオルの諜報員

旦那様 … バンリオル

ボリック・バンリオル … 大商人にして、諜報部を持つ

ニーボルン … バンリオルの護衛隊長

アラゴンキア … ブリアのある国の名

コブルー アラゴンキア国ブリア領にある港

トーチ … 索敵の魔法具

ピット … 銃のような魔法。その魔法具はピッター

チェスコブ … 王都警備隊長

ルーガン … 奴隷を使う安い材木を輸入する商会

ナスコム … 認識阻害魔法

風刃 … 風魔法の刃


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