バンリオルの危機…カイルの頭脳が動き出す (第76、77話)
大商人の集まりで、国王に、奴隷を使う国の安い商品の輸入の禁止を訴える大商人バンリオル。それに激怒したルーガン商会は、バンリオルに何をするつもりなのか…?
初めてお読みになる方は、下に用語集があります。
「エビーナの招き」のあとの数日間は、あちこちの商人の館で小会合が開かれる。
バンリオルの仕事は王都にいる有力な商人たちの私的な会合に出席して、同志を集めることだ。
最終的には国王陛下に正式に法律を作ってもらわなければならない。「商人は奴隷のいる国との取引をしてはならない」という法律だ。
ヨーカイダ大陸のほうにはそのような国はもうないが、アーガリア大陸にはまだいくつかある。それは簡単なことではない。アーガリアにしかない鉱石なども含まれるからだ。
バンリオルは大商人セアドロの館で開かれている会合に出席していた。ここに20人ほどの商人が集まっている。
「奴隷のいる国との取引を禁止するのではなくて、奴隷を使って生産した商品の取引を禁止するとするならば、私も賛成しますぞ」とセアドロは言った。
「しかし…。奴隷を使っているかどうかはどのように確認するのです? 鉱山のようなところで、何が行われているかをヨーカイダが確認することは、実質的には不可能です」
バンリオルは言った。「商品」ではなく「国ごと」で指定しなければ、法律に意味がなくなるからだ。
バンリオルの頭の中には、ミナが提唱する自由都市構想があった。
ミナはかつて言った。
「一国が奪おうとするなら、その国は自由都市から排除となります。また各国はその国に対し、関税障壁など、貿易に制限をつけます。これは経済的な死です」
これは奴隷を使うことにも応用できるはずだ。
しかし、全員が一致団結して奴隷を使う国を拒絶しなければ、罰としての効果がない。
「確かにそうですな…。とすると、鉱石を手に入れるのに代替する国が必要と…。運搬代など経費は上がるでしょうな」
「いやいや。アラゴンキアだけがそのようにしても、ヨーカイダには山ほどの国がありますぞ。他の国は奴隷を使う、使わないに関係なく、安い鉱石を買うでしょう。アラゴンキアだけでそのような法律を作れば、我々はその鉱石の加工品では勝てません」
侃々諤々の議論が活発になされる。
バンリオルは意見の一致が難しいことは承知している。すべての国が同じ条件を守るということなど、不可能に近い。
だが、100年かかろうと、奴隷を使う国を排除しなければならないという信念があった。
このような議論をすることで、少なくとも一人ひとりの商人に「商業倫理とは何か」を考えてもらいたかった。それは決して無駄ではないだろう。
第77話 狙われたバンリオル
セアドロ主催の会合を終えて、夜も深まった頃、バンリオルは馬車に乗り、邸宅に帰る。カイルとニーボルン、それに番頭ニキールが一緒に馬車に乗る。
ここは王都の中心地なので治安の悪い場所ではないが、夜遅いのでもう人通りはない。その大通りから別の大通りに移る時に少し狭い道路を抜ける必要がある。
馬車の中でバンリオルは腕を組み、目を閉じて考え事をしていた。
すると、馬車が急に止まる。
「どうした?」
ニーボルンが御者側の前窓を開けて尋ねる。
「道に障害物がありまして…」
路上に木箱がいくつか放置され、通れなくなっている。
「なに?!」
ニーボルンが叫び、カイルはハッとした。すぐに索敵用の魔道具トーチを起動する。
馬車に近づいている者たちが10人ばかりいる。暗いので目視しづらいが、建物横のゴミ箱や木箱の後ろに隠れているようだ。
カイルはニーボルンにトーチの表示を見せた。
「まさか、こんな場所で襲うつもりか?」
「敵はここで、俺たちが馬車を降りて、木箱をどけることになると思っている。そして、その隙に旦那様を襲うつもりだろう」
カイルは言った。
「確かにな。とすると、馬車を降りることはできん」
「なら、馬車の中から応戦するしかないな」
二人は頷く。ニーボルンは胸のポケットからピッターを出す。
「こいつは広域ピッターだ」
広域ピッターは散弾銃のようなものだ。貫通力は減るが、その分広範囲に弾が出る。
「そうなのか? だったら…」
カイルは馬車の窓から、通りに面している少し先の建物の入り口の灯りを指さした。笑い合う男たちの声がかすかに漏れている。トーチで見つけた人の群れ。ここは酒場だ。
「あそこの入り口の上のあたりの壁を撃てるか?」
「ああ、撃てる。灯りがあるから目視できるからな。どうするんだ?」
ピッターは目視できるものしか撃てない。魔道具なので、撃つものを心に描かなければならないからだ。
「壁を撃てば驚いて人が出て来るだろう。それを利用する」
ニーボルンはカイルの言う意味を察した。酒場の入り口の上の石壁をピッターで撃つ。貫通はしないから誰も怪我はしない。ガツンという音と共に、石のカケラが飛び散ってドアの下にバラバラと落ちる。
「何だ! 何事だ!!」
と、中から客が15人ほど流れ出てきた。あとからギャルソンエプロンを掛けた店主も血相を変えて出て来る。
「すまんな。騒がせた。あの箱をどけてくれないか。銀貨を支払うぞ」
ニーボルンは大声でそう言って金袋を馬車の窓から見せる。
「おお~! 任せとけ」
そう言って、酔っ払いたちは木箱をあっという間に片付けた。その隙を逃さず、御者はバッと馬車を動かす。カイルはトーチを見ながら、敵の動きを観察している。
「ありがとうな! 店主、壁の修理代はバンリオルに請求しろ。ニーボルンがそう言ったって言ってな」
呆然とした店主と酔っ払いたちを通り越しながら、ニーボルンは馬車の窓から路上に銀貨を撒いた。それに群がる男たちが道を塞ぐ。
「ああ、陰に隠れていたやつら、慌てて出てきたが、もう遅いな」
カイルがトーチを見ながら言う。
何とか難なく突破できた。
ボリックはそんな二人を見ながら、満足そうに微笑んでいた。
翌日の朝から、バンリオルの私兵たちは集められた。
「警備を強化せねばならん」
そう言って、ニーボルンは警備員室で警備と諜報のメンバーの顔を見回した。そこには6人の男たちがいる。
「今のところはほとんど大邸宅の中での会合だ。昨日の会合の場所だけが少し離れたところだったので、狙われたのだろう」
ニーボルンの言葉に、諜報員の1人、タバスがスケジュールを確認する。
「あぶないのはあさってだ。この日は材木倉庫を確認しにいく予定になっている」
材木倉庫は王都の郊外にあり、危険が大きい。
「フライアは?」
カイルはニーボルンに尋ねた。
「あいつは別件で情報収集中だ」
「そうか…」
カイルはうつむいて、しばらく考えている。
「何か気になることでも?」
ニーボルンはカイルが何かを心配していることに気づいた。
「昨日の襲撃、甘くないか? 俺だったらあんな襲撃はしない」
「そうか? お前ならどうする?」
「最初から倉庫行にねらいを定めるだろう。罠を仕掛けやすいからな。昨日の襲撃のせいで俺たちは倉庫での防衛を強化しようと考えている。やつらが本気で倉庫でバンリオルを狙おうとするなら、これはまずいだろう?」
「じゃ、昨日の襲撃はなんのためだと?」
奴隷を使うルーガン商会を真っ向から否定し、危険が迫るバンリオル。しかし、カイルは彼を守ることが、自分の進化につながると確信し、今まで以上に護衛として本領を発揮しようとしていた。
ルーガンの執拗な攻撃を、どうかわすのか?
用語集
ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。
ボリック・バンリオル … 大商人にして、諜報部を持つ
ルーガン … 奴隷を使う安い材木を輸入する商会
アルースト … アラゴンキア王国国王
カイル … ミナの恋人、バンリオルの諜報員
ニキール … バンリオルの番頭
ニーボルン … バンリオルの護衛隊長
エビーナの招き … 商いの女神の名を冠した大商人会合
アラゴンキア … ブリアのある国の名
トーチ … 索敵の魔法具
ピッター … 銃のような魔法具
フライア … バンリオルの女諜報員




