第9話 農民たちの戸惑い
異世界にやってきたミナ。今までのMBAのキャリアはパーに…。
それでも、この世界に自分ができることがあるはず! そう思って、勇気を出して事業を始めた。
この世界にまだない、農協の仕組みをつくるんだ!…と張り切ったのだが…。
その3日後。
野菜の買い取り先の商会はまだみつからないが、農民のほうにも話をしなければならない。
役場の農民の集まりに顔を出し、買い取り事業の説明をした。
「…ということで、一括買い取りをお願いした場合、買い取り価格はおよそこのくらいを考えています」
壁に掛けられた板に水で濡らした筆で買い取り品とその価格を書いていった。
ミナは、2カ月の市場の売り上げから平均の販売価格を割り出し、その4掛けを買い取り価格とした。
買い取ってもらえば、あとはもう考えなくても良いので、他の仕事に専念できる。廃棄のことも考えなくていい。
「季節ごとに多少変わりますが、直接市場で販売する価格の4掛けとお考えください」
「バカを言え! そんな価格で売ったら、みんな飢え死にだ。売りたいやつなんかいねえよ」
そう言うだろうと思った。流通や保管、廃棄分にお金がかかるという発想がないからだ。
「そうだ、そうだ」と大きく頷く人たちが大半だ。
「去年は天候が悪くてな。借金返すのに必死なんだ。わざわざ収入を減らすなんて考えられねぇ」
「うちはよそに委託しているけど、それは7掛けよ?」
ざわざわとあちこちで話し始める。
ミナはこういう反応が返ってくることは覚悟をしていた。
「皆様のご心配はわかります。でも、よく考えてください。一人の男性が市場に毎日野菜を運び、それを売ります。そして、月に200ポル稼ぐかもしれません。それが80ポルになります。
確かに少ないです。しかし、その人はもう市場に行かなくて良いので、他の仕事ができます。
すると、他の仕事で200ポルを稼ぐかもしれません。ということは、280ポルの収入になるということです」
ミナがそう言うと、「えっ?!」という表情をしている。そして、黙り込んだ。頭の中で計算しているのだろう。「なんか騙されていないか?」という顔の人もいる。
「委託販売のかたも、委託したからといって必ず売れる保証はありません。
売れなければ廃棄となり、収益はゼロです。
一括購入では売れなかったからゼロということはありません。出荷分は保証されるのです」
その言葉に村人たちは黙った。頭の中で売れなかったときのことを思い出しているのだろう。
「もちろん、すぐに決めてくれということではありません。
それぞれの事情がありますし、他の仕事をしようにも仕事がないという人もいるでしょう。
でも、市場に行かない分、畑の作物を増やすことができる人もいるかもしれません。
また、一括買い取りされた以外の野菜を、もちろん自分で市場に行って売っても良いのです。
ですから、後はみなさんでよくお考えください。
最初は試験的に動かす仲間を募集しています。お返事は10日後までにいただければと思います」
みんな、ちょっとホッとした顔をしている。
ミナはそこに付け足した。
「なお、どんな野菜でも買い取ると言うわけではございません。一定の基準に達したものに限ります。
その見本をここに並べておきますので、それをご覧になって、それぞれ、どのくらいの量の野菜が出せるのかをお考えください。
以上です。ご清聴ありがとうございました」
農民たちは、みな呆けたような顔でミナを見た。あまりにも手際よく説明が終わり、自分たちが煙に巻かれているのではないかというような気もしている。
あんぐりと口を開けたまま、ミナが部屋を出ていくのを見送った。
あとに残された各種の野菜の見本には、次のように書かれていた。
1.見本と同じくらい傷や虫食いの少ないもの
2.見本と同じくらいの大きさのもの
3.腐りかけは除外
(ふう…。なんとかできた…)
家にたどり着いて、食堂のテーブルに座ってほっと息をつく。戸惑っている村人たちの顔を思い出して、うなった。
(う~ん…それでもやっぱり4掛けは印象的に厳しいかな…)
今まで手にしていたものが減る。それがどんな理由であっても、人は「奪われた」と感じるのだ。これは心理の常識だ。
それが別の利益を生み出すまでは、そういう感情的な反応が、理性的な理解を妨げる。 その感情の部分を処理するには、成功事例が必要なのだ。
ミナはその「成功事例」を捻出できないかと考えるのだった。
それも、誰かの理屈ではなく、自分の目で見える成功が…。
これは、ひとりの女性が、村娘から始まり、為政者に認められて、さいごには国を経済で侵略から救う、という長い物語です。
よかったら、ぜひお付き合いください!
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