第10話 ミナ、プレゼンでMBA発揮
異世界に来てしまったミナ。なんとかここで成功しようと、この世界が自分に望むことはなんなのか、と考えた。その結果、ミナは、この世界にまだない、経済の発展を目指すことにした。
最初の事業は、野菜の一括買い取り。つまり、農協だ。きっと農民に喜ばれると思ったのだが…。
商人向けのプレゼンは無駄ではなかった。
たった1件だが、詳しく話を聞きたいという人が現れたのだ。
「明日、街に来てって! 話を聞いてくれる人が現れたの! 行ってくるわ!」
食事の席で喜び勇んで言うと、
「だめよ」
ヨーカが怖い顔をして言った。
「え? あ、あの…。な、なんで?」
「一人で行くつもり? 絶対にだめ!」
ヨーカはあきれたように言った。
「女が一人で街道を歩くなんて。危ないに決まっているでしょ?!」
「そ、そうなのね…」
ミナはシュンとなってしまった。
(…てことは…。一人暮らしは無理ってことか…)
もし、街に住んだとしたら、いまやろうとしている野菜買い取りの仕事はできないということだ。
(いろいろと、考えないといけないこと、多いみたい…)
ミナはまた気がそがれてしまった。
とりあえず、カイルにはちゃんとお願いしなければならない。
「カイル、明日、つきあってもらえるかな? お願いします」
カイルはクスッと笑った。
「いいよ。どうせ、仮縫いがあるだろ?」
「ありがとう!」
ホッとした。
そう。ドレスを注文した店に、仮縫いに行かなければいけないのだった。
* * *
タンブリーの街につくと、商業振興会を訪ねた。ここの応接室でプレゼンをするのだ。
プライク商会の担当トージャーは、中堅の社員だった。彼は30代でかなりの経験を持っている。
商人たちはだいたいきちんとしたスーツを着ていた。
胸には商会の紋章の入ったバッヂをつけている。
ミナはまだ、新しい服が間に合わない。
「買い取り価格は常設店価格の5掛けでお願いしたいと思います」
「なんと、5掛けで?」
トージャーはミナの提案に驚いた。そこまで安くするとは思わなかったのだ。
この世界では、まだ野菜の一括買い取り制度はない。だから、常設店価格の5掛けでも、かなり安く感じるだろう。
「届けていただいてからはこちらが客に配送するということですな?」
「はい。そのとおりです」
ミナはかなり計算して、損益分岐点を出したのだ。
「わたくしがお勧めするのは、常設店に出すよりも、むしろ大量の購入が可能な大口客の確保です。
せっかく大量に一括購入していただくのであれば、大口客を狙えます。
大口客にとっては価格の安さよりも、戸口まで配送されるということが大きな利点です。
それも定期的に決まった量を。そもそも運ぶのに人件費がかかっていますからね。
これは、一括購入する業者だけができるサービスです。そのような客の確保に成功すれば、常設店以上の価格でも販売できるでしょう」
一括購入だからこそできるスケールメリットを生かす作戦だ。
「なるほど…。固定の大口客を確保するのは確かに良いとは思いますが、逆にリスクは高くなります。その客がもし倒れてしまったら? 突然取引先を失います」
「もちろん、それは可能性として起こりうるでしょう。危険性を回避するためには、大口の客を複数持つという将来のビジョ…絵が必要になります。
5日に一度の配達のペースですと、5か所の客を持つことができます。
もちろん、それ以上も可能です。
複数持てばリスクはそれだけ低くなります。そのような計画も未来の可能性としてお考えください」
これはリスク分散の考え方だ。
「なるほど…」
(……数字だけ聞けば夢はある。問題は、誰がその営業を担うかだな)
トージャーは思わず真剣に自分の商会に適任者がいるかを頭の中で探し始めた。
(あっ…)
彼は驚いていた。これは相手の思い描くビジョンに引き込まれたということだ。
まるで、ベテラン商人と会話をしているようだった。
しかし、目の前の女性は、まだほんの17,8に見えるのだ。
「あの…失礼ですが…」
「はい?」
「ミナさんはどこで商いの仕方を学ばれたので?」
「ああ…。ええと…。父に…」
適当に答えた。
コーダが言っていたとおり、この世界では若い女性がここまでビジネスの話をするのは不思議らしい。ある意味、MBAは異世界のチート能力なのだ。
もっとも、今の外見のほうが転生時のチートなのだが。
これは、ひとりの女性が、村娘として起業することから始まり、どんどんと領地を、国を繁栄させ、侵略から国を守ろうとする長いお話。ぜひ、お付き合いください!
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