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イソールズ卿、ミナの提案が気に入らず…(第75話)

ミナが始めた野菜の一括買い取り事業を領地全体に採り入れることによって、税収を上げようと考える領主アンドリオン。

しかし、領地全体に導入するには、大量の役人が必要だ。

圧倒的に足りない役人不足の問題をどう解決するか…。

アンドリオンはミナに、この問題を解決するように命じた。

そして、ミナは…。


初めてお読みになるかたは、下に用語集がございますので、ご覧ください。

第75話 役所革命



 城に戻り、ミナはエカーリアと二人で、仕事の手順を細かく書き出した。


「よいですか? たとえば、これらの仕事は、やり方を最初に決めてしまえば、ただ聞き取るだけで終わります。これは足が動かなくても文字が書ければできますね」


「はい」

「そして、こちらの仕事は村人に対する制度の説明です。多少、目が悪くてもできますから、そういう人も戻ってきて働いてもらいます」


「それはいいですね!」


 こんなふうに作業を分け、必要な人材の条件を細かく区別した。

 一人が全部担当するのではなく、仕事を分けて、登録する村人のほうが担当を移動していくのだ。


 こうすれば、役人が仕事を全部を覚えなくて済む。

 そして、すべての街にこれらの役人を置くのではなく、分業する役人たちを一組にして、一組が複数の村を回るのだ。


「ブリアの村の総数は120。役人部隊を10組作ったとすると、何日かかりますか?」


「もし、一つの村で登録が1日で完了できるとしたら、12日です」


「そのとおりです。でも、農家が50しかないところもあれば、100近いところもあるので2日かかるところもあるとすると、24日以内でできますね。


 万が一、手続きが滞る村があったとしても、30日以内でできるでしょう」


「あ、はい。そうですね!」

「ということで、まずは初期登録要員を10組採用し、流れ作業で登録していきます」


「は、はい。わかりました」

「そして、日々、野菜を集めて運搬、記録する者は、役人でなくても良いのですよ。村の者でも責任感を持つ者を選んで、採用するのです」


 これはパートタイマーとして村人を雇うつもりだ。


「あとは、少なくとも一人の監督できる責任者がいればいいでしょう。それは最初引退役人のうちの誰かにやってもらい、のちに若者にやってもらいます」



 アンドリオンの指示から1週間後、ミナは会議室で資料を配り、提案を発表する。出席者はアンドリオン、イソールズ、そしてその下の文官たち、そしてミナとエカーリアだ。


「つまり、役人の仕事を分割して単純化し、仕事をバラバラに担当すると…? いやいやそんなバカな…」

イソールズはあきれたように首を振った。文官たちもざわついている。


「そんな者を役人とは言わないでしょう。なんですか、これは? 登録だけを担当する者? 説明だけを担当する者? こんな半端者に役場の仕事を任せるなど、言語道断ですぞ!」


 イソールズは眉間にしわを寄せて、パシリと紙を叩いた。文官たちもバカにしたように笑っている。


 エカーリアは心配そうにミナを見る。


 ミナはイソールズの役人像を理解した。彼の頭の中では、中央の行政部から大量の官僚が、落下傘部隊のごとく村に降りていくようなイメージなのだ。だからこそ、優秀な官僚を集めようとしていたようだ。


「もちろん、官僚の矜持というものも大切であることは存じておりますわ。

 しかし、イソールズ卿の周りにいらっしゃる文官殿と、村役場の役人は、同じ役人といえども格が違いましょう。


村人に複雑なことを求めるわけにもいかないのですから、役人が賢すぎては、村人は怖気づいてしまいます。


役人の教育の時間もございませんので、誰もがすぐに覚えられるように作業を細分化するのが良いかと思います」


 ミナはそう言って、イソールズを持ち上げながら、自分の案をアピールした。

 エカーリアはミナの巧妙な口上に心密かに拍手した。


「役人の仕事をバラバラにして、何が良いので? 間違いが起きやすくなるだけではないか?」


「確かに、一人で対応するよりもその可能性はございます。ですが、その間違いをできるだけなくすために、仕事内容のチェックリスト…確認項目を用意しておりまして、それをひとつひとつ見て、できたかどうかを確認することで、間違いを無くします」


「ばかな! それはよほど阿呆な役人であろう。役人をバカにしておいでかな?」


 イソールズは意味がわからないとばかり、上から見下すようにミナをにらんだ。


「イソールズ。控えよ」

 アンドリオンもさすがに重々しく言った。


「…失礼を。…何ですかな? この流れ作業とは?」

 再び紙に目を落とし、指で1行をツンツンと突く。


「はい。それは、一人の役人が一人の村人に対応するのではございませんので、それぞれの役人がいる机の方に、村人が歩いて移動していただくのです」


 ミナの頭の中には役所の窓口の絵があった。「次は2番の窓口へどうぞ~」というアレである。


 どうやら、イソールズはそのイメージがよくわからないようであった。この世界ではそのようになっておらず、一人でずっと担当するのである。


「なぜ椅子が3つもあるのです?」

 イソールズが怪訝な顔で、資料を見ながら問う。


「はい。村人のほうは自分だけ一回手続きすればよいのですが、役人は1日50件の登録をすることになりますから、役人の方が疲れます。そのため、少しでも楽に仕事をできるようにと考えました。


 それに、引退した役人はお年かもしれません。椅子があれば、腰がいたいとか、足が悪いという人でも、働いていただけるのです」


「う~む…」

 イソールズは渋い顔をして、なかなかうんとは言わない。要するに、ミナが簡単に解決しようとすることに抵抗を示しているのだろうと、ミナは思った。


「いや、しかし…。10組だけといえども30人必要だ。若者1人は良いとして、後20人の引退した役人を…ということですな」


「そのくらいなら、集まるのではないか?」

 アンドリオンが口を出す。


 最初は役人が数百人必要なのではないか思わせるようなイソールズのイメージから、20人に減ったのだ。

 ミナが続けた。

「年齢は問いません。この条件を満たしてくれる人を雇えばよいのです。しかも、来年の初年度だけがこれだけの人員が必要なだけで、その後はパラパラと来る新規参入者のみを登録すればいいので、一つの村で年に5件もないはずですわ」


 アンドリオンが「ふむ…」とその言葉を受けた。イソールズがまた口を出すとまとまらないのだ。


「村役場ですから、優れた者だけで仕事を回す必要はないのです。誰でも回せる形にするのです。確かに難しいことかもしれません。


イソールズ卿がご懸念されているように、問題が起きるかもしれません。しかし、まずはこの形でやらせてはいただけないでしょうか。問題が起きたら、あらためてご相談させていただきますわ。そのときはお力をお貸しくださいませ」


 そう言ってイソールズの立場を持ち上げる。

 そばでエカーリアが願うような目でイソールズを見る。その目にはイソールズも弱い。


「いや…。しかし…若者を1人入れるとして、それで一人前の役人が育つのですかな? バラバラの仕事しかわからぬのでは…」


現代では当たり前のことも、昔はそうではなかった。

最初に採り入れた人は、いろいろ考えたに違いない…。

些細なことにも最初がある…。

そして、一番面倒な人は、プライドの高い上司。この攻略法は、相手を持ち上げること…。


次回はほっこりと、ミナとアンドリオンとエカーリアの食事会。


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。

エカーリア … アンドリオンの妹。元引き込もり。

ブリア … アンドリオンの統治する領地

アンドリオン … ミナが住むブリア領の若き領主

イソールズ … アンドリオンの官僚



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