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カイルの贈り物と、アンドリオンの悩み (第71話)

怪我をしたカイルはやっと回復して…。

一方ミナは、アンドリオンからお金の相談を…。


初めてお読みになるかたのために、下に用語集をつけました。

第71話 月額優先戦略


 カイルはバンリオルが用意したコブルーの隠れ家の部屋で、床に寝転がって身体を動かしていた。

 主にストレッチだ。

 7日間寝ていた分、なまった身体を鍛える必要があったが、脇腹はまだ少し傷むので、上半身はあまり力が出せない。だが、下半身は動く。もう外に出られる状態だ。


 カイルは一人で外に出て、ホアーブに向かった。季節は6月の半ばで日差しが強い。ホアーブの薄汚れた扉を開けると、カランと鐘がなる。


「お、兄ちゃんかい。生きてたか?」

「え? 生きてたかってどういう意味だ?」


「いや、冒険者が何人か問題起こしてよ。つかまっちまったり死んじまったりしてたからな。ほら、あの札の店に行った奴らだよ」


「ああ…。俺は結局あの店にはいかなかったんだ。その前に怪我してな。しばらく寝てた」


 カイルはもちろん冒険者の末路を知っていたが、知らないフリをしていた。あのあと、ミナを襲った二人目の税官吏もつかまっている。


「そうなのか。あんたは運がいいな」


 カイルは魔石を取り出す。

「これ、今いくらだ?」


「ああ、セイルフェンの魔石な。ちょうど、欲しがっている奴がいるぞ。そいつが出せる金額は…ええと…。買い取りは1グラム7ポルだな」


「わかった。売った」


 カイルは2310ポルを手にした。

 それからカイルはコブルーの武器屋に行く。そこで、500ポルのピッターを1本買った。


 隠れ家に帰ると、フライアが食べ物を買って来ていた。


「どこに行っていたの? 坊や。出かけたりして…。もう大丈夫なの?」

「ああ。歩くのは大丈夫だ」


「明日には馬車で帰るわよ。旦那様もタンブリーに戻ってる」

 そう言って、食べ物をテーブルに置いた。


「そうか…。あんたは馬車で帰れよ。俺は歩いて帰る」

「なんで?」


「馬車は揺れる。さすがにまだ痛い」

「ふうん…。そう」


 四頭立て馬車で飛ばすと5時間の道のりだが、歩いていけば3日はかかる。

「金はあるの? 途中で宿に泊まるでしょ?」


「ああ、持ってる」

 そう言って、カイルは靴を脱ぎ、またベッドに横になった。


「まだちゃんと治っていないのね」

 フライアはベッドに座って、カイルの顔を覗き込んだ。長くて黒いまつげが閉じられている。


「歩いていればそのうち治るさ。体がなまってるからちょうどいい」

「そう…」


「フライア」

 カイルは目を開けた。


「なに?」

「あんたは身を守る武器、持ってないだろ?」

「ええ…ないけど。危ないときは姿を消せばいい。なんで?」


「姿を消す前に腕を掴まれたらどうする? 姿を消したって、袋小路に追い込まれて、そこで風刃を掛けられたら、逃げられるか? 相手もナスコムを使っていたら? いつの間にかやられるぞ」


「あの死んだ魔法使いみたいに?」

「そうだ。ああいうやつもいるぞ」

「うん。まあ、めったにいないわよ」


 カイルは傷をかばいながら半分身を起こして、上着のポケットからピッターを取り出した。そして、フライアに差し出す。


「やるよ。これで身を守れ」

「これ…。ピッター?」

「ああ。さっき武器屋で買ってきた」


「高級品じゃない。なんで私にくれるの?」

「身体に気をつけろってことだ。いつ何があるかわからないだろ?」

「……へんなやつ」


「世話になったな。これでチャラだ」

そう言ってまた横になった。


「あ、そういうこと?」

フライアはフフッと笑った。


「楽しかったわ。手負いの狼にエサをあげるみたいで」

「……もう坊や呼び、するなよ」

「アハハ。わかったわ、坊や」

「………」


「そういうところがかわいいんだもの。しかたないじゃない」

 フライアは笑いながらピッターを持って部屋を出て行った。


 自分の部屋に戻り、壁を背にもたれる。

 そして、ふうっとため息をひとつついた。


(私のこと、心配した? ……誰かに心配されたの、初めてかも…?)

フライアは胸に不思議な感覚を感じていた。


 カイルは横になって大きく息を吐くと、眠ることにした。

(あいつに坊や呼びされているうちは、ミナに求婚できそうもない…)

 カイルなりの基準だった。


 ラフカーンのような堂々たる男になりたかった。ミナに求婚して、断られる危険を冒したくなかった。 

 絶対に、十分すぎるほどの男になると決めていた。



                 * * *


 カイルはゆっくりと3日かけて、タンブリーに帰った。

 そして、若草宮を訪れる。


「カイル! もう治ったのね。よかった…」

 玄関で彼を見るなり、飛びついてきたミナにしっかりと抱きしめられ、カイルも抱きしめ返した。


「ああ、もう大丈夫だ」

 本当はまだちょっと痛かったが、ミナに抱きしめられる力を感じていたかった。

 ミナが無事でいることが、彼の自信と誇りだった。



 タンブリーの街は活気であふれていた。

 なにしろ、コブルーからたくさんの輸送箱や専用馬車の注文が入るし、宿泊施設の建設も始まる。


 タンブリーの業者がコブルーに担ぎ出されたり、あるいはタンブリーの工房にたくさんの工人が集まり、製作にいそしんだりしていた。


 前領主が王室の粛清を受けたことは民衆には知られていなかったが、突然の代替わりとなったことから、暗い憶測が漂うのは当然のことだ。


 しかし、それと裏腹に街に活気が出たため、いつのまにか人々の間には明るい気分が蔓延していた。

 

 しかし、内情はまだまだ不安定だ。なにしろ、コブルーからの税収は減り、その分、取引量は増えたが、まだ黒字とは言えない。


 フレスタの城壁工事はなくなり、軍備も拡張しなくなったため、その費用が自由都市建設に当てられただけだ。


 まだまだ予算に余裕はなかった。

 自由都市宣言からまだ2か月半。アンドリオンにはまだすることが山ほどあった。



 ミナは、行政顧問としてアンドリオンに呼ばれる。何人かの文官が周りにいる。


「ミナ、今領地は財政困難だ。コブルーの税率を下げたからな。

 まだコブルーに宿泊施設もできておらぬし、標準輸送箱も数が足りぬ。


 だから、思うように税収がない。

 まだ2か月半しか経っておらぬのだからしかたがないのだが…」


「ごもっともです。自由都市が簡単に作れるなら、どの港も自由都市になれますわ。

 ですが、実際にはかなり難しいことです。

 だからこそ、これを乗り切って自由都市になることに価値があるのですわ」


「君の言うとおりだな。誰にでもやれることではない」

 そう言って、アンドリオンはため息をついた。


「しかし、金がないのだ。なにか良い提案はないか?」


「何か今すぐにお金になること…。う~ん……」

 バラントンとセグリオの2人体制ができてから、すでに2週間が過ぎた。

 あともう1週間もすれば、王都から警備兵や法官が多数派遣されるはずである。


 ミナは腕を組んでうんうんと唸っていたが、

「そうだわ!」

 …と突然さっと顔を上げた。


いつもお読みいただき、感謝です!

ありがとうございます! とても嬉しいです。


よかったら、ブックマークか、評価をお願いします!


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。


カイル … ミナの家族兼恋人(?)諜報員

コブルー … ブリア領内の港で、ミナが開発中

バンリオル … 大商人にして、諜報部を持つ

ホアーブ … 素材買い取り屋

セイルフェン … 魔物の名前

ピッター … 銃のような魔道具

フライア … カイルの諜報員仲間で魔法使い

旦那様 … バンリオルのこと

タンブリー … ブリア領の中心都市

ナスコム … 認識阻害魔法 フライアが使い手

風刃 … 風魔法

ラフカーン … 騎士団長

若草宮 … ミナの住むブリア城内の小さな宮殿

フレスタ … ブリア領の北部で国防の要所

セグリオ … ミナと共に働く官僚

バラントン … ミナと共に働く官僚


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