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アンドリオン、カイルに嫉妬? (第68、69話)

これまでのお話。

ミナは、ブリアの行政顧問として、領主のために、税収を増やす政策を作り上げる。

コブルー港を発展させようと、わいろを取る税官吏を排除したミナは、彼らに襲われる。

そのミナを助けるため、カイルが重傷を負い、ショックを受けたミナ。

そのミナをアンドリオンが待っていた。

そして、何か言いたそうにしている…。


途中から読む方は、下に用語集がありますので、ご参考に。

「君は…結婚とか、考えていないのか?」

 アンドリオンが聞く。

「はい? わたくしが誰と結婚すると?」

 ミナは顔をしかめる。


「いや、その…。バンリオルとか…。……カ、カイルとか…」

「別に予定はございません」

つんとして答えた。


「そ、そうか。…いや、もしかして、他に好きな男がいるとか…?」

(それ、前の世界だったら、セクハラものの質問よ!)

 と、ミナは心の中で目を吊り上げる。


「おりません。結婚の予定などまったくございません」

 目を逆三角にして答えた。「コンプラたるものを教えてやりたい!」と内心思いながら。


「そ、そうか…。ならいいが…」

「なにが『ならいい』なのです?」

「いや、その…。君が結婚したら、この仕事をやめると言い出すのではないかと…」


「はあ? そんなことを心配しておいでなのですか?」

「ああ。当然だろう? 君はこの領地に必要な存在なのだ。殺されても困るが、結婚しても困る」


(結婚しても困るって…それ、前の世界ならパワハラよ。完全にアウトだわ!)

 ミナは怒り心頭だ。


「(…結婚しても…)仕事を途中で投げ出したりはいたしませんわ」

(前の世界では、死んで投げ出したけど…)と自分で突っ込みが入る。


「そうか。わかった。頼んだぞ」

 アンドリオンはそう言って席を立った。


 ミナも立ち上がって見送ろうとすると、パタッとアンドリオンの動きが止まる。

「ミナ…」そう言ってまた近づき、ハグする。


「カイルとはあんなに楽しそうに話すのに、私にはいつも厳しい顔なのだな」

「……厳しい顔ですか? お仕事のお話しかしておりませんもの。カイルは家族ですから、仕事の話はいたしません。それだけですわ」


 ミナにとって、今のアンドリオンは「自覚のないコンプラ違反を連発する上司」でしかなかった。

(……この領地の絶対的支配者なんだから、しかたない。ぐぐぐ…)


「……たまには楽しく食事でもしないか?」

「食事?」

 ミナはちょっとひらめいた。


「エカーリア様と3人でランチ…いえ、昼食というのはいかがですか?」

「エカーリアと? あれが一緒に来るかな?」

「わたくしがお誘いいたします」

「そうか…。それは楽しそうだ。わかった!」


 アンドリオンは素直な笑顔を見せて、部屋を出てった。

「帰るぞ!」

「はっ」

 護衛を引き連れ、嵐のように来て、嵐のように去って行った。


 アンドリオンは若草宮から歩いて帰りながら、少し安堵した。

(女ってのは、男に命がけで身を守られると、急に好きだと思いこみ、結婚を約束したりしかねぬからな)


 アンドリオンは「吊り橋効果」を直感で知っている男であった。


(これは断じて嫉妬ではないぞ。ミナがいなくなれば、定期便も自由都市も消える。それは困る。ブリア領主として、自由都市を作れと王命を受けているのだ。なんとしても、これを完成させなければ。…まずは定期便からだ)


 アンドリオンはミナをタンブリーに置く理由に、自分で納得をしていた。


                   * * *


 カイルの寝ている部屋の扉が突然開く。カイルはうとうととしているところで目が覚めた。まだ日が高い。


「お嬢さん、帰ったのね」

「なんだ。あんたか…」


 フライアがカイルのベッドに座り、カイルの頬をつねる。

「なんだとはなによ。食事させてあげようと思ったのに」

「ああ、そうか…」


「ほら、つかまって」

 フライアはカイルの身体を抱いて、少し起こすと枕を背中に押し込んだ。

「こんなにやられちゃって…。情けないわね」

「ああ。…情けない」

 カイルは面倒なので、同意した。


「ま、相手はナスコムと風刃を使うんだって? よく生きてたわね」

「いまの、褒めたのか?」

「褒めてない。あきれてるだけ」


「あっそ。悪かったな、生きてて」

 相変わらずの憎まれ口だ。


 フライアはシチューを持ってきて、食べさせてくれた。

(また当分、坊や呼びだな…)


 カイルは内心うんざりしていたが、抵抗はできなかった。


「あの娘、びっくりね」

「何が?」

「心臓を一発で打ち抜いてた」


「あれは魔道具だから、心にそう描けばそうなるだろ?」

「でも、普通は躊躇するでしょ? ましてあんなお嬢さんが…」


「だな。あいつ初めてピッターを使ったんだ」

「そうなの? よくあんなに見事に撃てたわね。…きっと、よっぽど頭に来たんでしょうよ」


「そうか?」

「大事な坊やを殺されたんじゃないかってね。ボロボロ泣いてたし」

「ああ…。かもな」


 カイルはなんとなく思った。

 ミナなら躊躇しない。ミナは基準を持っている。何を許すか。何を許さないか。ミナはいつも自分の基準に正確に従っているのだ。だから、迷わない。


(容赦なく自分を叱るし、クルムにも容赦なくビシッと言っていたもんな…)

 そういうミナの曇りのなさが、彼女の凛とした美しさだとカイルには思えた。



第69話 農民支援制度


 翌々日の午後、ミナは約束通り、定期便についての会議を開いた。


 現在の定期便に関わる5人の役人とミナ、それに領主のアンドリオンと、もう一人、アンドリオンが権限を譲渡するつもりで、領主補佐官の1人、イソールズ卿を連れていた。


 彼は代々ブリア領の行政、主に経済分野を担ってきた下級貴族の出身である。

 領主の交代で、カリディオンからアンドリオンの下で働くこととなった。


「現在のところ、定期便の事業はエルノー村においては、希望者だけが参加する形になっています。しかし、これでは効率が悪いのも事実です。


 ですから、これを領地の仕組みとして格上げすることをこれから検討します」


 ミナは資料を配りながら言った。だんだん、昔のプレゼンの方法に近くなってきた。


「単純に言いますと、これは農産物の買い取り制度となります。

 農家の利点としては、天候に左右されず、買い取り価格が安定します。

 買い叩かれる心配がありません。


 また、各自の運送・販売が不要になります。今までは農産物をつくっても売りに行かなければお金になりませんでした。それが、役場に持っていくだけでお金になる。

 これは農民にとって、革命的なことです。


 それは労働力が増えたことと同じで、農家は生産に専念できます。

 これを領地の農産部が行います。すると、自動的に全員参加となり、営業の…農民との交渉の手間が減ります。


 農家は役場に野菜を持ってくれば、それを申告することになります。それは税を生みます。

 その納税は天引き、つまり売り上げから税を引いたものを農民に渡します。


 これにより、ブリア領の税収増が見込まれます」


 ミナは一気に全体像を説明した。


「なるほど。それは領地にとっては良いことですが、農民には歓迎されるでしょうかな?」

 イソールズは懐疑的な目線で言った。


「もろちん、すべての農民に良いこととはならないでしょう。これが反発を生むことも承知の上です。ですから、最初は段階的に移行します。つまり、ある程度の選択の余地を残すのです。さらに報奨制度を作ります」


「選択の余地とは?」

 アンドリオンが首を傾けた。

「市場で直接各自が売ることです」


「ふ~む。その道は残すのだな?」

「農家は必ず参加というのは原則ですが、すべての農産物を差し出せとは申しません。そもそも農産物すべてを把握することは不可能ですので。

 ですから、一部を役場に納入し、残りを各自が市場に出す、というのも許可します。それでも市場の規模は縮小するかもしれません。

 ですが、あくまでも農産物についての制度です。肉や加工品はまだ対象外です」 


「で、報奨制度とは? 農民にか?」

 イソールズは怪訝な顔をする。


「そうです。この制度に従って出された農産物の中で選定し、報奨を与えます。例えばですが、一番収穫量の多い農家、一番品質が高い農家、一番大きな野菜を作った農家、などです。

 これらを表彰することによって、農家に自信や誇りを持たせます。


 そして、祝祭にはそれらを表彰するブース、いえ…、展示する場所をつくり、誰もがその名前を称えるようにします。そして、表彰された野菜は領主の食卓にならぶという栄誉を得るのです」


「なるほど…」

 アンドリオンは、表彰の効果を昨年思い知った。だから、それが効果的であることを理解していた。


「問題は、買い上げたあとの売り先です。売り先には命令できません。ですから、各商会に依存することになります。

 今は、エルノーではプライク商会に任せていますが、もし、領地の事業とするならば、入札が必要となるでしょう。

 ですから、競売制度にすれば、価格も商会が考えることになり、こちらはそれを調べる必要がありません。一番高い値をつけた商会が購入します」


「競売…。なるほど…」

 アンドリオンは頷く。


 そこでガナスが発言した。

「プライクは独占を望んでいましたが、文句が出ないでしょうか?」


「独占契約は結んでおりません。あくまでも向こうの要望をこちらが聞いたまで。ですが、今までの功績は感謝すべきものですので、エルノー村の農産物に関する優先権を与えましょう」

「わかりました」

 ガナスは納得した。


「これで領主側が、領地内の農家の生産と流通を一元的に把握できます。

 そして、農務部の学者に農家をどんどん指導していただきます。


 種の選定をお願いし、できるだけ優性の種を撒く指導をする。そして、病害防止の方法、適切な農具を指導するなどの改善で、農産物の生産力が高まると期待できます」


「ふ~む…」

 イソールズは少し考えた。


「しかし、農家は帳簿に慣れておりません。納入の野菜の申告やいったい報酬が正しいのかと、計算を嫌がる者も多いでしょうな」


「おっしゃる通りです。申告は問題ないでしょう。野菜の量や質は目の前で検査していますので。しかし、それが報酬になるには時間差が生じます。


 そのとき、正しく計算されているかを説明する役割が必要でしょう。また、買い取り価格も農民が適正と思われる価格を決めなければなりません。これも農務部の役割です。


 ちなみに、エルノーでは市場価格の4割を目安にしています」


「逆に言うと、そこさえ押さえれば、農民の反発はなんとかなると…」

 イソールズは顎に指をあてて、唸った。そして、アンドリオンを見て、ゆっくりと頷く。


 アンドリオンはその様子を見て、決断した。

「うむ…。これはいけそうだな。よし、領地の正式な制度としてこれを採用しよう。名前は…もう定期便ではないな…」


「中身は農産物一括買い取り制度ですが、農民支援制度と呼ぶのはいかがでしょうか?」

「ほう? 農民支援ですと?」

 イソールズが不思議そうな目で問う。


「はい、悪く見れば増税ですが、これはあくまで農民の生活を楽にするための領主の支援である、という意味を持たせるのです」


「ふむ。それは良いな」

 アンドリオンはこの政策を決定した。


 そして、後から参加した3人の農務官がエルノーの支援制度を動かし、ガナスとリントンは、イソールズとともに、新しい仕組みを精密に作り上げるように指示した。


「これがブリアの村中に広がれば、ブリアの税収は今の2倍にもなるかもしれん!」

 アンドリオンはかなり期待をしていた。農産物に限れば、2倍になるかもしれない。


 ミナはアンドリオンの決定に満足した。これは、ミナが求めていた農協の基礎なのだった。

 ミナが撒いた種が、苗木からしっかりと成木に成長し始めたのだ。


(あ、私のテンソル商会が…)

 役所主導になれば、下請けのテンソル商会は不要だろう。


(ぐぐぐ…。自分で自分の商会をつぶしてしまう…。商人失格だわ)

 ミナはテンソル商会の新たな事業について思いめぐらすのだった。


アンドリオン … 若きブリア領主

ミナ … アメリカでMBAを取得して異世界転生した

エカーリア … アンドリオンの妹

カイル … ミナの恋人? 今は諜報員をしている。

フライア … カイルの同僚。

ピッター … 銃のような魔法具

カリディオン … アンドリオンの父で前領主

テンソル商会 … ミナがこの世界にやってきて、すぐに作った自分の会社


いつもお読みいただき、ありがとうございます! ブックマークも、ありがとうございます!

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