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カイルはコブルーで抵抗勢力の噂を…(第66話)

コブルーに潜入するカイル。大改革をする裏で、それを良く思わない人々が問題を起こしはしないかと探る。人夫たちの話や買い取り屋の話から、情報収集をするが…。

 それから、カイルは人夫が利用する宿に行く。人夫用の宿は4人部屋だ。そこにしばらく部屋を取る。ここで情報収集をするのだ。


 そして、港の紹介所で人夫の仕事をもらい、港で力仕事をする。

 夜は宿の食堂で食事をする。 そこでまた、人夫たちの話に耳を傾けるのだ。


 そして、3日後、5月1日の自由都市宣言の日がやってきた。

 その夜。


「おい、聞いたか?! コブルーの税率の話を…」

「え? なんだよ?」

 あちこちのテーブルではその話でもちきりだ。


「びっくりしたよな~。ものすごく低い税率になったんだぜ。ま、それも驚きだが、行政顧問とかいったか? それが若い女なんだぜ? 信じられるか?」


「どうせ、どっかの貴族のお嬢様なんだろ。領主には娘がいるって言うじゃねえか」

「かもな。それに、極めつけは王弟殿下だ」


「えっ、王弟殿下? どうしたんだ?」

「コブルーに来たんだよ。王家の者がブリア領に来たことなんて、今まであったか?」

「俺、王家の人間を初めてみたぜ」


「すげぇ威厳があったよな。さすがに俺たちとは人種が違うと思ったぜ」

 カイルは黙って酒を飲みながら、他のテーブルで繰り広げられるそんな話をいろいろと聞いていた。



 それから約1カ月が経つ。

 カイルは昼間、人夫の仕事をしている間に、怪しげな話を耳にした。


「聞いたかよ。俺たち、もう港での仕事がだいぶ減っちまった。新しい輸送箱ってやつのせいでさ」

「ええ? もう仕事がなくなるってか?」


「いや、宿泊施設を作る仕事にまわれってよ」

「なんだ、仕事はあるのか。ならいいな」


「どんどん建設が始まるんだと。ま、俺たちはいいけど、今までわいろを受け取っていた税関の官吏たちがいま、カンカンだとよ。自由都市宣言をしてから、監査官が増えたんだ。法を守らせるってな」

「わいろが受け取れなくなったんだろ? そりゃ、同情の余地はねぇな」


 人夫たちは大きな声で笑った。

「ざまあみろってんだな」


「あの女、気を付けねえと、税官吏たちにぶっ殺されかねねぇな」

「いや、王弟殿下が守るんだろ?」


「バカ言え。王弟がいつまでもコブルーにいるわけないだろ」

「バンリオルのだんなは、あの女を守ると思うぜ。絶対、あの女に惚れてるだろうさ」

 そう言って、また人夫たちは大笑いをするのだった。


(まったくこいつらは…)

 とカイルは人夫たちが不快だったが、それよりも不快なのは、税官吏たちのミナに対する悪意だ。

 


 カイルはホアーブに行った。

「おやじ。なんか仕事はあるか? 冒険者向きのだ。人夫はいい加減飽きた」


「お、いつかのにいちゃんかい。あるっちゃあるぞ。ここが腕のいいやつを集めてる」

 そう言ってチラリと見せてくれたのは、コブルーの酒場の名前を書いた木札だ。

「わかった。行ってみる」


 木札を受け取ろうとすると、店主はそれをさっと引き下げて、代わりに左手を出した。

「情報料、払いな」

 カイルは銀貨1枚を払って、木札を見せてもらう。そして、場所を教えてもらって、店を出た。


 木札に書かれた名前は、港から西のはずれの酒場だ。カイルは港から少し離れた小道にある一軒の家に入る。


「フライア」

 名前を呼ぶと、フライアがスッと現れた。

「カイル」


 フライアはカイルを連れて、建物の奥に入っていく。ここはカイルとフライアの秘密基地だ。

「ミナが狙われている。税関の官吏たちだ。やつらの集まる場所はここらしい」

 カイルは書字板に名前とかんたんな地図を描いた。


「わかった。調べるわ」

「ああ、頼む」


 そう言って、すぐに帰ろうとすると、フライアがカイルをハグした。フライアは女としても小柄で、カイルの胸あたりに頭が来る。


「まったく。相変わらず愛想なしね。久しぶりに会ったんだから、『元気か?』とかなんとか、言えないの?」

「あは? 何言ってんだ。俺はラフカーンになれないんでな。悪かったな」


 そう言って、カイルはフライアを振り払い、さっさと帰っていく。

「まったくおもしろくないやつ」

 フライアは扉にもたれて、カイルの背中に向かってそう言った。


「マドーン…」

 それが酒場の名だった。


* * *


「わ、わたくし、もう我慢ができません!」

 エカーリアはミナを見るなり、怒りを見せた。

「どうなさったのですか?」

 めずらしいエカーリアの興奮に、ミナは逆に良い傾向だと思った。エカーリアにとって、感情を堂々と表現できるのは良いことなのだ。それだけ、ミナに心を開いているという証拠である。


「お母様とお兄様が、わたくしに縁談を持っていらっしゃったのです。それがブリアの中でも西のはずれ。そんなところにお嫁にいけというのですか?」


「まあ、縁談の話が来るのは明るい良い話ではありませんか」

 と、ミナは笑ってあしらう。


 ミナには縁談が来ただけで喜んだフィルベラとアンドリオンの顔が浮かぶ。

 そもそもミナにエカーリアのフリをさせたのも、縁談が来るようにと願ってのことだったのだから。


「でも、ミナさん。わたくしはまだ20歳で、お兄様はもう24歳。お兄様が先にご結婚なさるべきではありませんか! それなのに、わたくしに先に嫁に行けなどと…」


「まあ。アンドリオン様にはまだご縁談がないのですか?」

「ええ。まだ全然ですわ。忙しい、忙しいとばかりおっしゃって。『そなたは暇なのだから、いまのうちに結婚しておけ』とおっしゃるのです。これが怒らずにいられましょうか!」


 ミナは今までまったく来なかったエカーリアの縁談が来たので、フィルベラと共に、この機会を逃したくないと焦ったのだろうと推測している。


 エカーリアは家族とあまりしゃべらないが、夕食は必ず全員でとることにしているので、そこで多少の会話をするのだ。


「まあ。それはおもしろいことを…。暇だから結婚せよとおっしゃるのですね?」

「そうなのです…」

 エカーリアは悔しそうに唇をかみしめた。


「だったら簡単ですわ。エカーリア様も忙しくなればよいのです」

「えっ?!」


「エカーリア様も、何かのお仕事をなさいませんか?」

「わ、わたくしがお仕事…ですか?」


「ええ。エカーリア様はとても賢いかた。きっとなにかおできになりましてよ」

 ミナは、エカーリアがアンドリオンの力になりたいと言っていたのを忘れない。あれを一時的なことにしたくない。


「ええ? わたくしにできる仕事がありまして?」

「ええ。ありますとも。わたくし、最近、自由都市の仕事が忙しくて、なかなか定期便の仕事まで手が回りませんの。でも、アンドリオン様は他の村にもこの事業を広げたいとお考えです。

 ですから、それを引き継いでやってくれる人を今求めているのですわ」


「ミナさんがなさっていた仕事…。それをわたくしがやるのですか?」

「そうです。もう文官たちが仕事を覚えておりますし、あとは他の村に広げていくだけなのです。誰かが取り仕切って進めていけばよいのですわ」


「で、でも…。それはあちこちに行く…ということですよね?」

「そうです。外に出る必要がございますね」

「わたくし…」

 エカーリアは目を伏せ、口元にこぶしを当ててしばらく考えていた。


「ミナさんは前におっしゃいました。心の中の不安の種は取り除けるのだと。それが本当なら…」

「ええ、できますわ。そうですね。わたくしがもう少し時間を取れれば…」

 そう言って、ミナは頬を片手で包んで、考える様子を見せる。


 ミナは自分からは積極的に勧めない。こういうことは、相手から言い出させる必要があるのだ。だから、少しじらす必要があった。


「あの…、わたくしのためにお時間を取っていただけませんか?」

 エカーリアは指を組んで、決意したような表情でミナをみつめるのだった。


パニック障害を抱えていて、外に出られないエカーリア。これはどうすれば改善できるのか? それはもう少しあとで。


いつも読んでくださり、感謝、感謝です。

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