港の輸送に革命を起こすには? (第64話)
コブルー港を視察にきたミナと、大商人バンリオル。ミナの改革第一号とはなにか?
その夜は、バンリオルと共にコブルーの宿に泊まる。
ここで一番良い宿だが、バンリオルの屋敷に比べればあまり居心地の良い宿とは言えない。
こういうところが大きくなれない理由の一つでもあるのだろう。
「ミナさん、昼間おっしゃっていた”足りないもの”は、おわかりになりましたか?」
文官たちと食事を終えて、バンリオルは食後のリキュールを飲みながらミナに尋ねる。
ミナのことだから、おもしろい観点があるのではないかと期待しているのがわかる。
ミナは国際港と聞いた時に、最初、ロサンゼルス港が頭に浮かんだのだ。それは巨大な港で、そこで見えるのは一面のカラフルなコンテナと、それを動かす大量の大型コンテナクレーンだ。港と言えばキリン型のクレーン。それがここにはない。当然だ。コンテナがないのだから。
1950年代のコンテナの発明は、20世紀最大の発明のひとつとも言われるほど、地味でいて実は物流の世界に爆発的な革新をもたらしたのだ。
(そう、定期便と同じ、木箱の活用よ!)
ミナはバンリオルにニッコリとして、それから文官に紙とペンを持ってこさせた。
「荷は馬車で運ばれます。その馬車はだいたい大きさが決まっていて、このような大きさです」
ミナは寸法までわかる。野菜の定期便のために自分で荷馬車を設計したからだ。
その図は、樽が荷馬車に運ばれている図だ。
「そして、港でそれらの荷は馬車からバラバラに下ろされます。そして、船の中にはこのように並べています。これが現状です」
船の中では樽がそのまま置かれている。下ろすときには誰の荷かを確認しつつ、一つひとつ下ろすのだ。
「それは通常の運び方ですね。それがなにか?」
バンリオルは図を覗き込んで、ミナに問うた。
「これは大変効率が悪いのです。ボリックさん、うちの定期便の馬車をご存じですか?」
「もちろんです。専用の馬車で、専用の木箱を使って運ばれてきますよね」
「そのとおりです。それはなぜかというと、一つには野菜の傷みを防ぐこと。そして、もう一つがとても大切です。これは、野菜を追跡可能にするためなのです」
トレーサビリティーは「追跡可能」という意味だ。
「追跡可能…。なんのためですか?」
「誰がつくった野菜が誰に売られて、その評価はどうかということを明確にするためなのです」
「なるほど。木箱には確かに番号がありますな」
「はい。その通りです。木箱ごと動かすから、中身が分別でき、どこにどのように運ばれたかがわかるのです。これが箱の効用で、そのためにアンドリオン様に投資をお願いしたのです。そのお金で専用の馬車と専用の木箱を用意しました」
「で、それをここで応用するということですか?」
「その通りです。もし、この荷馬車の箱の部分が、そのまま移動して、船に積み込まれればどうなると思いますか?」
「荷馬車の箱の部分…ですか?」
バンリオルは目を見開いた。
「そうです。これを仮に”箱"と呼びましょう。馬車は箱を載せられるものとし、そして、港に着いたら、箱部分だけをこのように移動し、船に運びます。
目的地の港に着いたら、その箱をまた荷馬車に積んで運べばよいのです。
そうすれば、いちいち樽をひとつひとつかついで船に移動して、誰の樽でどこに運ぶのかということを考えずに、箱の番号を見て、港に箱ごと下ろせばよいのです」
「な、なんと!…」
バンリオルは絶句した。そんなことを今まで考えたことがなかったからだ。
「なるほど…。それは革命的ですね! …しかし、それ専用の船と馬車とその…箱が必要ですが…」
ミナはにっこりとして答える。
「そうです。その箱を運べる専用の馬車、タラップ、それに船の多少の改造が必要です。ですが、これがあまりにも便利だとわかれば、商会もこぞってこの仕組みを採り入れると思いませんか?」
「た、確かに…! しかし、その箱とやらをコブルー側が作るとなると、初期費用はかなりのものになりそうですが…」
「ええ、箱はコブルー側がつくりますが、商会はその専用馬車と、船の多少の改造が必要となります。費用は半々ですね。荷下ろし先にも専用馬車が必要となるでしょうし。
コブルー側の負担は、王府に出していただきます。だからこそ、レオスト殿下を引き入れているのですよ。
わたくしたちの目的は、大商会に守られる港です。ですから、大商会に有利な港を作ります。大商会には初期投資の意味がおわかりでしょう。
そもそもバラバラに運ぶから、その途中で盗まれたり、なくなったりもします。そういう費用を初期投資と天秤にかけていただくのです」
「なるほど。それは非常に魅力的です。雇う人夫の数も三分の一、いや五分の一で済みそうです。…確かに、初期費用はかかりますが、それならすぐに元を取りますね!」
バンリオルは興奮して顔を上気させる。
ミナはそれを見て、これは実現可能だと自信を持った。
「では、すぐにその設計を考えましょう」
ミナとバンリオルと文官たちは夕食後からすぐに会議室に集まった。これからは連れてきた文官たちの仕事だ。
まず現状だ。どんな商品をどの程度、どの形状で運び、どの状態で船に積まれているかを明確にして、対象となる商品を選定する。
それから木工職人を集めて、その見本となる馬車と箱、それから船にそれを移動するための専用のタラップの製作を依頼する。
次はコンテナの試作品をつくり、実際に何度か運んで検証する。そしてまた問題点を改善する。事業はPlan, Do, Check, Actの連続だ。
「この箱の肝は、大きさが同じだということです。そして、船内できちんと並べられる大きさであることです」
文官たちは必死になってミナの言葉を聞く。こんな仕事を言いつけられるのは初めてなのだ。ミナはその製作期間を1か月とした。
「えっ、1か月?」
全員がざわついた。
「そう、1か月です」
ミナがニッコリして言う。
文官たちは青ざめていた。そんなスピードでこんな事業を進めた体験がないのだ。
ミナは言った。
「これは戦いと同じです。これに失敗すれば、ブリアはまた侵略か割譲かと安全を脅かされるのです。
戦士が戦場で命をかけるように、我々も戦士のように挑むのです。それが領地を、国を救います!」
「た、戦い…」
文官たちは全員、これからとんでもない戦いが始まることに気づき、背筋を凍らせていた。
だんだん、MBA的になってきました。
事業はPlan, Do, Check, Act、つまり、PSCAの連続です。これを早く回す人が勝ちます!
有名な大実業家たちは、このスピードがすごい!
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
よかったら、ブックマーク、高評価、いただけますと、励みになります!
それと、ビジネスマインドを異世界で体験する瞑想用の動画、つくりました。
お暇なときに、体験してみてください。3分ちょっとです。
https://youtu.be/5R400_XdgMM
皆様のビジネス脳開発に役立ちますように!




