コブルー港の繁栄を妨げる問題ってなに? (第64話)
ミナが官僚として、最初に手を付けるのはコブルー港の改革…。
第64話 コブルーの輸送革命
春の風が潮の匂いを運んできた。セグリオが来てから半月。
ミナとバンリオルは、領地の商務官たちと警護の騎士たちを引き連れ、コブルーに来ていた。
コブルーはタンブリーから四頭立て馬車で飛ばせば半日のところにある。
ミナとバンリオルは馬車を降り、港町コブルーの高台から海を見下ろしていた。
ワモワ海に面した入り江は緩やかに湾曲し、波は穏やかだ。すでに十数隻の商船が停泊し、荷下ろしの掛け声が飛び交っている。
ミナが以前見た河岸とは比べ物にならない、全く違う賑わいだ。ここは国際港なのだ。
「すばらしい眺めですね」
ミナは思わずつぶやいた。
バンリオルは微笑んだ。
「ええ。コブルーは国際港ですからね。うちは大きな倉庫や出張所、宿舎をここに持っております。商会員が40人ほど駐在しています。なんといっても、対岸のアーガリアとの貿易の拠点として、またスリマラビヤとの貿易の拠点として、とても便利な港です。ですから、私はコブルーの仕事の様子を見るために、わざわざ半月はブリア領にいるのですよ」
「なるほど。そうなのですね?」
「ええ。バイクレンにも港はあり、王都からはそちらが近いのですが、コブルーには大きな川があり、荷を船で王都に運ぶこともできます。その点で、コブルーはバイクレンの港よりも使い勝手が良いのです。また、各国の船乗りたちが集まるので、かなりの情報が集まります」
「なるほど…」
(国際貿易のためと、情報のためにタンブリーにいるのか)
ミナは改めて、バンリオルが王都からわざわざ5日かけてブリアにやってくる理由を知った。途中の街の支店を訪ねる目的もあるので、少し遠回りの道のりなのだ。
「でも…」
ミナは広く見渡した。
(国際港…)
その言葉がミナに何かを思い出せるのだが、何かよく思い出せない。
「何かが足りない気がするのですが…」とミナがつぶやく。
「え? なんですか?」
バンリオルも見渡したが、特に何も気づかなかった。
「ええと…。すぐに思いつかないのですが…。何かが足りない気がします。何かしら?」
ミナは首をかしげて、考えた。
(なんだっけな…。ええと、私が前に港を見たのは…)
ミナは前の世界のことを思い出そうとした。
(あ、そうだ。アレがない!)
ミナは何が足りないのかを理解した。
バンリオルが高台から街全体を見ながら言う。
「こちらをご覧ください。商人が倉庫を建て、土地を買い、街を広げる余地がたっぷりあります。つまり、ここはまだ三割ほどしか成長していない街です」
「ええ、そうですね」
ミナも同意する。
「うちもまだ、コブルーにこのように大きく進出してきたのはここ3年のことでして、まだまだこれから大きくしたいと思っているのですよ」
「そうなのですね」
バンリオルはコブルーの未来に期待して、ここに出張所をおいたのだ。
二人は港へと歩き出した。護衛や文官が一緒に動く。
岸壁には木箱が山のように積まれていた。人夫たちがぞろぞろ歩き、いろいろな荷物を運んでいる。
(う~ん…。これは…)
ミナは首を傾けながらそれらを見ていた。
それから二人はコブルーの市場へ向かった。
魚、布、香辛料、鉄器、果物――
人々の声が渦のように混じり合っている。
外国訛りの言葉も聞こえた。いろいろな異なる服装の商人や人夫たちが入り混じる。かつての香港のような賑わいだった。
コブルーが面している海は、ちょうど地中海に似ていて、反対側のアーガリア大陸から大量に物資が持ち込まれ、こちら側のヨーカイダ大陸で売られるのだ。その逆もしかりである。
だから、この沿岸の港がどれだけ貴重か。だからこそ、港を持たないグリダッカルにとっては、自分の不運さを嘆かざるを得ないのだ。
「他国の商人があちこちにいますね」
「ええ」
バンリオルは素早く見回す。アーガイルからの商人、スリマラビヤの商人、そして、ブリアからは遠いが、アラゴンキアの西にあるイルマランなど、いくつかの国からの商人たちもいた。
「しかし、アーガリアから見れば、コブルーはまだ、たくさんある港のひとつにすぎませんからね。税は他とあまり変わりませんし、なんといっても、ここにはあまり宿泊施設がない。高級な宿もない。これでは大商人は長居しない。仕入れてすぐ出ていくでしょう。うろついているのは諜報屋くらいなものです」
バンリオルはにやっと笑った。彼もここに諜報屋を泳がせている一人なのだろう。
ミナは頷いた。
「おっしゃるとおりです。将来は、大商会に本店をここに移してもらいたいのです。それができれば自由都市完成ですわ。でも、大商人たちが満足する十分な宿泊施設がありませんものね。それを徐々に作っていかなければ…」
「商会税を下げるのですね? それは楽しみですな」
ミナは微笑みながら頷いた。
(う~んと…。宿泊施設はそのうちに作るとして、まずは物流改革だわ)
だんだんとミナの頭に新しい物流の形が浮かんできた。
税関の建物の前には荷物が大量に並んでいる。そこで怒号が鳴り響いた。
「ふざけんじゃねぇ!!」
商人が役人に怒鳴っている。
「いいからさっさと税を払えと言っているだろう!」
役人が怒鳴り返す。
すると、商人が役人の襟をつかんで言った。
「税率がおかしい。いつもは2割のはずだろう?! なんでなんだ?」
「追加徴収だ。うだうだ言うと、時間がかかるばかりだぞ」
周囲の人々は見て見ぬふりをしている。どうでもいいから、さっさと終わってくれないかと皆イライラしている。
「あれは、わいろを要求しているようですな」
バンリオルが冷ややかな目でそう言った。
「わいろですか…」
ミナは厳しい目をしてその官吏を見つめた。
「こうやって、すったもんだするので、税関を通るには時間がかかります。だから、いつも長蛇の列なのですよ」
確かに、後ろには荷台が列をなし、たくさんの人たちが待っている。
「税関はどこでもこうなのです。商人は運が悪かったと思うしかないのですよ。
グズグズしていると運搬が遅くなって、予定外の宿泊費がかかったり、倉庫が必要になったりと、余計な経費がかかるので大変なのです。
ですから、わいろを払うほうが安いと考えます」
「雨が降ったらどうなりますか?」
「とりあえず、屋根のある場所に避難しますが、その場合は並び直しですね」
バンリオルが肩をすくめた。
「わかりました。その問題を解決しましょう」
それから、ミナはバンリオルと二つの船を見学する。荷をまだ下ろしていないついたばかりの船と、荷を積んでこれから発つ船だ。それを見学して、ミナは新しいアイデアを頭に描いた。
ミナは、現代の港と、この時代の港の決定的な違いに気づいた。
それは、アレがないということ…。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
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