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コブルー港の関税、大改革。カイルは若草宮へ (第63話)

コブルー港を重要な国際港にするために、まずは関税を下げること!

「そ、そんなに商人がやってきたら、コブルーは大騒ぎだぞ…」

 アンドリオンもその繁栄ぶりを想像すると、むしろ空恐ろしさを感じるようだ。


「はい。これが低税率の力です。まだまだ第一歩目ですわ」

 ミナは指を立てて説明を続ける。


「本来は、商人は税を恐れて取引を控えます。ですが、税が軽ければ、大きな商いに挑戦します。倉庫を作り、人を雇い、遠方から資金を運び込むのです」


 ミナの言葉を受けて、バンリオルが楽しそうに笑った。

「商人というのは、儲かる場所の匂いを嗅ぎつけるとミツバチのように群がる生き物でしてな」


「……理屈はわかりますが、そんなにうまく行くかどうか…」

 セグリオは慎重だった。かすかに震える手でお茶を飲む。彼の頭の中には、税収が消えて大失敗した街の様子が浮かんでいる。


 しかし、ミナはそれだけでは終わらない。

「最初の3年間は5パーセントにいたします」

「ご、5パーセント!?」

 セグリオは思わずカップを落としそうになった。


「そ、それはバンリオルの思うつぼでは…?」

 セグリオはバンリオルに操られている気がしてならない。じろりとバンリオルをにらむ。


「私は税率を提案しておりません。その税率をどう思うかを聞かれたので答えたまででございます」

 バンリオルは楽し気に言う。


「はい。提案したのはわたくしでございます。5パーセントと聞いて、何もしない商人はいないでしょう。こちらもまだ都市が整っておりません。

 ですが、5パーセントであれば、商人たちは多少の不便があろうとも、まずは先にやってきて、誰よりも先に倉庫の土地を確保したり、事務所を作ったりするでしょう。

 一度それをさせれば、のちに1割に上げたとしても、商人は離れません。


 都市が立ち上がる初期の3年間は、とにかく人を集めます。商人、職人、運送業者、金融屋。都市の骨格を作る期間です」

 ミナは静かに言った。


「正直、最初は赤字でしょう。しかし、それは未来の利益のための投資の段階です」

 バンリオルは深く頷いた。


「3年間は初期投資期間というわけです。これは商売の基本です」

 と、バンリオルも自信をもって言う。


 セグリオは書字板に走り書きをしながら息が速くなるのを感じた。


「う~む。確かに、アラゴンキアの中だけで考えると、バイクレン領の港の商人が移動するだけのように思えましたが、各国の商人となると…10倍というのはありえない数字ではありませんな」

 セグリオは宙を見て、頭の中で試算するように何度か首を縦に振った。


 アンドリオンが身を乗り出す。

「つまり、最初は苦しくとも、数年後には今までの何倍もの収入になるということか?」


「はい、領主様。しかも戦争も圧政も必要ありません。ただ制度を変えるだけです」

ミナはアンドリオンが領主となってからは、人前では「領主様」と呼ぶようにしている。


そして、アンドリオンの顔をみつめて、ゆっくりと語る。

「大切なのは、各国がコブルーを、いえ、ブリアを守ろうとする価値を生み出すことです。だからこそ、誰にも手が出せない都市となることができるのです」


「ううむ…」

 沈黙のあと、セグリオはゆっくりと顔を上げた。


「……王都の誰も、ここまで具体的な数字で考えておりませんでした」

 ミナは微笑んだ。

「今まで誰も考えたことがない。…だからこそ世界で一番最初の自由都市ブリアは成功するのですわ」


 ミナはそう言って、ふふっと笑った。

 バンリオルは嬉しそうなミナを見て、心密かに満足していた。


                   * * *


ミナが若草宮に戻ると、門の近くでうれしい客がミナを待っていた。

「カイル!」

 久々に会えたことに興奮して、思わず飛びつく。


「二か月ぶり?!」

「すごい宮殿に住んでいるんだな」

そう言ってカイルは笑った。


「まあね…。あら、カイル、狩りに行ったのね」

「…なんでわかる?」

「だって、ユーリカの香りがする」


 抱きついたおかげでミナはなつかしいユーリカの香りをかいだ。

「あ、そうか」


「いい香り…。あのかたのところで修行じゃなかったの?」

 バンリオル、とは言わなかった。一応、諜報員だからだ。


「今回は狩りも仕事のうちなんだ」

「へぇ? そうなんだ」

 カイルの手を引いて、ミナは自分で門を開け、玄関に入った。城内の移動にはゾーイは連れていない。


「フリーゼ、みんな呼んでちょうだい。彼を紹介するわ」

「はい、かしこまりました」

 30代の侍女に指図をするミナをカイルはきょとんとした目で見ている。


 すると、奥から侍女が走ってきて、3人の侍女が並ぶ。

「紹介するわね。彼はカイル。私の命の恩人で、エルノー村に住んでいた時に一緒に暮らしていた家族よ。彼が訪ねてきたら、私がいないときでも、いつでもうちに入れてね」


「かしこまりました、ミナ様。カイル様、わたくしはフリーゼ、こちらはカエラ、シオーヌでございます。お見知りおきを」

 そう言って3人そろって頭を下げる。


「カイルだ。よろしくな」

「じゃ、上にお茶を運んでくれるかしら?」

「はい、かしこまりました」


 そう言って、ミナはカイルの手を引っ張って、二階の居室に上がっていった。


 カイルを椅子に座らせる。

「どう? 私もお嬢様っぽいでしょ?」


 ふふっと笑うミナを見て、カイルは笑った。

「ミナはもとからお嬢様だよ。ヨーカのお古を着てたって、ミナはいつでもお嬢様だった」

 カイルはなぜかヨーカのお古にこだわるのだ。


「ミナ、これからコブルーに行くんだろ?」

「うん。ボリックさんとか、あと、商務庁の文官の人たちとかと一緒にね」


「気を付けろよ。ピッターはいつも持っていろよ。いつ襲われるかわからないからな」

「わかった。そうする…」

(そうか。そんなに危険なんだ…)


「それから、アレ、練習しているのか?」

「アレってなに?」

「ほら、ブドーとかいうやつ」


「ああ、合気道ね。やってるわ。王都に行く前には、アンドリオン様を二度も投げ飛ばしちゃった。…内緒だけど」

 ミナは唇に人差し指を当てながら、エヘッと得意げだ。

「え……」


 カイルは唖然として止まった。

「よく許されたな…」


「だって、アンドリオン様が私にのしかかっても阻止できたら王都に行くのを許してやるっておっしゃるから…望むところって思って…」

 カイルは思わず右手で顔半分を覆った。


「ミナ…そういうことは危険だから、やめろ」

「大丈夫よ。絨毯の上だから。ふっかふかの」


「いや、そっちじゃない。危険の意味が違うだろ!」

「え?」

 侍女がお茶を持ってきたので、その話はそこまでとなった。


(相変わらず天然すぎる…)

 カイルはため息をついた。


バンリオルの諜報員となったカイル。秘密の任務がいろいろとあり、その中にはミナを守ることも…。


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝です(T^T)

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