王の剣、バンリオルの秘密任務 (第62、63話)
正式にバンリオルの私兵として、カイルの任務は、兵站を断つこと。
兵站の読み方を学び、カイルはそのルートを破壊するために、フライアと共にやってきた…。
バンリオルは王家から絶大な信頼を勝ち取っていたが、それはこのような防衛にも一役買っていたからである。
商人として各国に支店を持ち、情報が集まることから、各国の軍備や兵站の動きには敏感になる。
その情報を王室に提供するが、王室への連絡が難しかったり、判断を委ねては間に合わないと思えるときには、私兵を使って阻止することを許されている。
この権限を持つ地位を「王の剣」と言う。
バンリオル商会の代表は先代のときにこの役目を与えられた。これは公にされない秘密の地位だ。そして、国家防衛のための予算も密かに預かっているのだ。
カイルはその王の剣の活動のための私兵として雇われたのだった。それは、兵としての優秀さを認められたということでもあった。
* * *
夜の山道は冷え切っていた。かなり着こんでも手足は寒い。
補給倉庫は街道の村のはずれにある。見張りは外に4人。
カイルとフライアはそこから30メートルほど離れた場所の林の中で様子をうかがう。カイルは索敵用の魔法具、トーチを起動する。
「建物の中に2人いるな」
「計6人ね。やれる?」
「俺を誰だと思ってる?」
「腹をすかせたすねたガキ?」
「二度とそんなこと言えないようにしてやるよ」
…とは言ったが、フライアの認識阻害魔法、ナスコムを頼りにしていた。あれがあれば、あっという間に片が付くのだ。フライアにはあまり大きな顔はできなかった。
「いくぞ!」
「わかった!」
ナスコムで姿を消したカイルは、あっさりと外にいた4人を殴り倒す。
そして、叫ぶ。
「うわ~!! 魔物だ、魔物が出たぞ~!!」
そして、倉庫の扉にぶつかるように叩くと、中から鍵を開けて2人が出て来る。
「な、なんだ?!」
そして、2人も倒された。
もう一度トーチを確認して、誰もいないことを確認する。
倉庫の中には武器、食料、矢、鎧が山のように積まれていた。しかし、まだ一部なのだろう。3分の2は空いている。まだ運び始めたばかりなのだ。
(なるほど。これが兵站というものか)
カイルは、今まで兵がどのように侵攻してくるのか、考えたこともなかった。情報というものの価値観が変わる。ここで補給庫をつぶせば、兵を何百人も追い払ったに等しい。
火薬袋を積み上げる。これもバンリオルの諜報部で学んだ二カ月の間に身につけたことだ。フライアが導火線に火をつけた。
「走って!」
二人が森へ飛び込んだ瞬間――
ドォン!!!
夜空が真昼のように照らされ、炎が天を突いた。
倉庫は一瞬で消えた。
次は国境付近にある山道の橋だった。
ここはグリダッカル領なので、グリダッカルの警備兵が守っている。二人は検問を通らず、危険な森を抜けて国境線を越えた。
幅の狭い石橋。ここを落とせば大軍は通れない。月明かりの中で、橋の近くまで近づき、森の木々にフライアを隠した。そして、トーチを起動して、魔石と共に持たせた。
危険な獣が近づくときに察知できるように。こんな夜には魔物も獣も現れる可能性がある。だから、普通は森を通る者はいないのだ。
そして、一人で石橋の真ん中まで行き、橋の欄干に紐を括りつける。それを身体に結び付けて、身体をさかさまにして橋の裏側に潜り込んだ。落ちれば谷底だ。
カイルは宙づりになりながら、剣で支柱の金具を切り、火薬を仕込んだ。
そして、導火線を持って橋の上によじ登って戻ると、火をつけて、走ってフライアのもとに戻ってくる。
カイルが林に戻る前に、橋は爆発し、その勢いでカイルはフライアのそばに吹っ飛んだ。
「カイル!」
フライアがカイルの身に近づく。カイルはしばらく動かない。橋の石の破片が近くまでパラパラと落ちて来る。フライアも頭を抱えて身を守る。
「ああ…。大丈夫だ」
カイルは身体を起こして、指の擦り傷をなめた。まるで手負いの獣が傷をなめるように。
「導火線の長さと橋の距離の計算が甘かったな」
「うん…」
フライアはそんなカイルをじっと見ている。
「なんだ?」
カイルはそれに気づいて、フライアを振り向く。
「戦士ってさ、剣で敵を倒す人だけじゃないわね」
フライアは微笑んだ。
「泥まみれで戦争の火種を消す人よ」
カイルは一瞬だけ笑った。
「ああ、…きっとそいつも腹はすかせるぞ。かなり腹減った」
「街に戻ったら、たらふく食べさせてあげるわ、坊や」
フライアはそう言って、カイルの手を取って、林からギリギリの街道を縦に並んで歩き出した。
爆発音を聞いて集まってきた大量の警備兵たちが橋に向かって走っていく。それを横目で見ながら。
フライアはナスコムをいつのまにか起動していて、二人は警備兵の中を悠々と帰って行った。
――こうして、バンリオルはミナが自由都市を推し進めるための時間を確保したのだった。
第63話 四者会談
3月になり、王都では一連の粛清が終わり、王太子は正式に王位に就いた。
タンブリーでも領主交代が行われ、アンドリオンが領主となった。
ブリア領主として、自由都市建設の責任を担うことになる。
今、タンブリーの城では街の新しいページが開かれようとしていた。
本格的に自由都市を作り上げるため、王都から派遣された商務庁の担当官は、四十代の痩せた男だった。口ひげと顎髭を整え、少し大きめの書字板を抱えている。
「私は王国商務庁の行政官セグリオと申します。新しく設立された商務庁自由都市開発部は、レオスト殿下が部長となられました。そして、タンブリーの現場担当を私がさせていただくことになりました。レオスト殿下には私から逐一連絡をする手はずになっております。
この度は、自由都市の設計について、具体案を確認に参りました」
城の応接室には領主アンドリオン、ミナ、そしてバンリオルが揃っていた。
「セグリオ卿、ミナと申します。よろしくお願いいたします」
「ミナ殿、まず自由都市の第一歩として、関税を下げて商取引を増やすということは聞いています」
セグリオは両開きの書字板を開きながら言った。広げるとかなりの大きさとなる。
ミナはちょっとそれをうらやましく思った。
「通常の領地では商取引利益の3割から4割が課税されております。ブリアは現在のところ、平均で3割となっております。これをどこまで下げるおつもりですか?」
アンドリオンは心配そうにミナを見た。
(3割以下にするつもりだとは聞いているが……)
正直、アンドリオンは領地の継承が忙しく、各地、各部署を飛び歩いていた。よくわからない自由都市の計画はほとんどミナに任せていた。だから、詳しい話は聞いていなかった。
ミナが静かに口を開いた。
「1割でございます」
これは、バンリオルとミナが相談の上、決めた数字だった。
ミナの言葉を聞いて、セグリオの手が止まった。唖然とした様子でしばらく口を開けていた。
「……い、1割? それでは収入が激減しますぞ?!」
「はい、一時的にはそうかもしれません。しかし、永久ではございません」
ミナは落ち着いた声で続けた。
「税率を3分の1にするならば、当然、商人は3倍にならなければ、今の税収にはなりません」
「当然ですな」
セグリオは子供のなぞなぞでも聞いているかのように怪訝な顔をしながら同意する。
「それは一見難しそうに見えます。ですが、商人にとっては、税率1割というのがどれほど驚愕の数字か、想像できますか?」
セグリオはきょとんとした目でミナを見る。
「それは商人が皆、ブリアに突進してくるに値する数字でしょうな!」
バンリオルがそう口をはさみ、声を出して笑う。セグリオは顔をしかめた。
この事態はバンリオルの陰謀かと思ったほどだ。
「そのとおりですわ! ワモワ海に面した港を持つヨーカイダ大陸の港は、アラゴンキアだけではございません。東隣の大国スリマラビヤも港をいくつか持っていますし、西隣のイルマランもです。
アーガイル大陸からヨーカイダ大陸に向かう船は一斉にコブルーを目指すでしょう。
つまり、3倍どころか、10倍も期待できるのです」
「な、なんですと?!」
驚くセグリオの顔を見て、ミナはバンリオルに向かってニッコリした。バンリオルもミナに微笑んだ後、とても楽しそうに商務官の驚く顔を見ている。
大胆な経済政策で、ミナはコブルーをヴェネツィア並みの国際港にする!
その第一歩が関税だ。
国を動かし、自由港を作っていくダイナミズムが今、始まる。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
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