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カイルとフライアの初任務。そして、王太子は…(第59話)

グリダッカルの密使が誰かと密談…? それを追うカイルとフライア。

 カイルとフライアはクルスラの近くの宿に移り、ユーザリオスの動向をうかがっていた。


 チャンスはその二日後にやってきた。ユーザリオスは夕方馬車でどこかに出かけた。

 その行先はエレミア出張所ではなかった。城壁の際にある小さな一戸建ての建物だ。周りは人影もなく、草ぼうぼうの忘れ去られたような木造の小屋だった。そこに馬車を停めた。


 カイルとフライアはその100メートル前でバギーを降り、姿を消し、みつからないように忍び足で近づいた。

 ユーザリオスが扉を入っていくときには、残念ながら、入ることができなかった。

 仕方なく、窓から様子を見る。


 中には2人の男が机に座って、書類を広げ、話をしている様子が見える。しかし、声はよく聞こえない。2人は顔を見合わせてどうすべきかを考えた。


 そのとき、カイルは月明かりの中でおかしなものを見た。慌てて、腕にはめておいたトーチを起動する。

(どうしたの?)

 フライアが唇だけを動かしてカイルに問うた。


 カイルはトーチの画面を指さす。それには、7人の存在を示す点がある。2人はカイルとフライア、あと2人は小屋の2人。あと3人は?

 カイルは月明かりの下で草がところどころ踏まれて行く様子に気づいたのだ。


 突然、扉をけ破る音がする。そして、姿が見えないまま3人は中に入り、2人の男を襲おうとした。驚く2人。ドタドタと音はするが、どうしていいかわからない。思わず机の上の書類を片付けて手に抱えた。

(証人が消される?!)


 カイルは剣を抜き、姿を消したまま中に飛び込むが、相手がナスコムを使ったままでは戦えない。いったん剣を収め、机をひっくり返し、椅子を持ち上げて、振り回した。


 3人の賊は、密談中の男たちしか見えないのに、机と椅子がいきなり暴走し始めたのに驚愕した。椅子はナスコムを使っていた魔法使いに当たって、その拍子に3人のナスコムが切れる。


 そこでカイルは足を斬り、3人とも動けなくする。この3人が誰だかわからないうちは、殺すわけにはいかなかった。密使やその相手も身分がある以上、傷つけるのはまずい。


 恐れおののく残りの2人の男の手にあった書類を奪って、小屋を飛び出した。

 それを見て、フライアもカイルに続く。本当は全員捕まえたいところだったが、二人ではどうにもならない。


「走れ!」

 そして、100メートル離れたところに停めていたバギーに乗って、二人はその場を離れた。


 街に戻る途中、バギーを何度か乗り換え、足取りを消して、バンリオル邸の一室に戻る。ここは諜報員が待機する部屋だ。そして、書類を確認した。


「鉱山の使用権は三十年契約」

「代金の口座は…」

「権利者の名前は…」


 どうやら、目的は果たしたようだ。バンリオルは留守だったが、諜報部長のニーボルンが後始末をしてくれる。足を斬って動けない者たちを捕まえに行く。

 といっても、実際に動くのは王都の警察である警備兵たちだ。チェスコブにも連絡を入れる。


 契約を交わしていた2人は馬車で逃げているだろうが、暗殺者3人は捕まえられる。そこから情報を引き出せるだろう。


 ふたりはあとをニーボルンに任せて、クルスラのそばに取った宿に戻っていった。

「ふう…。なんとか目的は果たしたわね」

 テーブルで、バンリオル邸でもらってきた食べ物をつまむ。


「まだ誰が何をしようとしていたのかは、俺にはわかっていないけどな」

「私にもわかんない」

 そう言って、ふたりでくすっと笑った。


「ま、後はボリック様とあの賢い娘に任せればいいわ」

「ああ…」

「あんたもわりと役に立つわね」

「わりと…かよ。あんた、基準が厳しすぎるだろ」


 少なくとも、坊や呼ばわりはもうしなくなることを願った。

「ラフカーンに比べれば、まだまだね」

「ああ、ラフカーンな。そこが基準か…」


(当分、勝てねぇ…)

 ふと、カイルはあることに気づく。


「あんた、ラフカーン、好きだったんだな」

「…ふん。悪い?」

「ラフカーンから見たら、あんたは小娘だろ?」


 フライアは食べかすの肉の小骨をカイルに投げつける。

 骨を避けながらカイルはフフンとバカにしたように笑う。

「仕返しだよ」


 フライアもおととい自分の言った言葉を思い出して、ふたりで笑った。


                  * * *


 昨日の事件は、実は王太子の諜報部長チェスコブもユーザリオスを監視していたため近くまで来ており、3人の賊も、さらにそこで密談をしていた2人も捕らえることができた。


 ユーザリオスが密談をしていたのはエレミアの行政官コロンヌで、彼はエレミア領主の代理として、鉱山をユーザリオスに売ったのだ。


 3人の賊は、なんとグリダッカル王の手の者で、ユーザリオスを粛清しようとした。というのも、鉱山はグリダッカル王に売られるべきものであるのに、ユーザリオスはそれを自分の名義にしようとしたのである。


 これはグリダッカル王エルドアサテンに対する、明白な裏切りだった。

 その証拠をつかむためにグリダッカルから3人の諜報員がつけられ、ユーザリオスの裏切りの証拠をつかもうとしていたのだった。


 そのことはすぐさま王太子に報告される。つまり、グリダッカルが狙っているのは、ブリアだけではなかったということである。さらに、エレミア領主の裏切りも王太子にとっては大きな驚きだった。


 領主側の言い分としては、王室が自ら領地を売ろうとしているのだから、自分が売り飛ばして何が悪いという論理なのだ。


 鉱山の運営はかなりの苦労とリスクがある。ときどきやってくる侵略軍に耐え、国のためと思って鉱山を維持してきたのに、隣の領地とはいえ、国が自領を他国に売ろうとする。

 それを見て王室は忠誠に値しないと失望したのだと言う。


 王太子のショックは計り知れないものだった。


「王室は忠誠に値しないだと…?」


 この言葉が胸に突き刺さった。自分のやり方が国の崩壊を招くことを悟った。


(レオストが正しいとは思わぬ。だが、私が正しいわけでもなかった。右でも左でもない選択が必要だったのだ。だが、それが王室からは出なかった…)


 そこで、王太子は第三の道という言葉を思い出す。

(…私がそれをこのタイミングで耳にしたのは、偶然ではないのであろうな)


 王太子は侍従を呼ぶベルを鳴らす。

「は、お呼びでございますか?」

「ああ、バンリオルを呼べ。あの娘と共に来るように伝えよ」


敵にブリア領を割譲するしか、戦争を終わらせる道を思いつかない王太子。

武力でしか守れないという第二王子。


別の道はないのか…。

そう思ったところで、やっと、ミナの提案を思い出す。

自分には理解できなかったあの案はいったいなんだったのか…。


次回は「第一部 村娘の領地改革」の完結編となります。


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