バンリオル、カイルを救う提案(第58話)
MBAを取得してアメリカで働いていたミナは、ブリア領主の息子アンドリオンの行政顧問となった。大商人バンリオルのつてで、王太子にブリアを救うための策を述べる機会を得た。
一方、ミナの思い人・カイルは、なんとかブリア領主を救おうと、エレミアに関する独自の調査を始めた。グリダッカルの狙いがブリアだけではないと証明できれば、王太子のブリア割譲案は無駄だと説得できる…。バンリオルはカイルとフライアにその証拠をつかむように命じた。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
「では、次の手は、エレミアが鉱山の権利をグリダッカルに売るかもしれない。その証拠をつかむということだ。そうなれば、王太子殿下を納得させられるでしょうな」
バンリオルはケルトンに向かってそう言って、フライアとカイルを見た。
「二人に動いてもらいましょう」
そして、カイルに向かって言う。
「カイル、今から君はバンリオル配下の諜報員だ。それでどうかな?」
カイルは考えた。
しばらくはブリアに帰れない。バンリオルにつけば…少なくともミナには会える。しかし、このままではまだ家族には会えないままだ。
「それだと…、そのうちにブリアに帰れますか?」
バンリオルは目を見開いた。彼は今、ブリアから見れば裏切り者だ。だから、ブリアに帰ることができないと気づいた。
「ああ。うちの私兵になれば、王太子側ということになり、ブリアは君に手が出せない。……それに…、君がブリアを救うために成果を出せば、ブリアはもう君を咎めることはしないだろう」
ミナは心の中でひそかに驚いていた。ブリアがカイルに手を出す? その可能性に身震いした。カイルが王都で何をしていたのか、まったく知らない。
しかし、黙って聞いていた。諜報に関することは聞かない方がいい。それに、もうカイルはその問題を今、解決しようとしているのだから。
「わかりました。それでお願いします」
とカイルが言った。
ミナはほっとして、横に座るカイルをうれしそうにみつめた。テーブルの下では、カイルの手をぎゅっと握っている。
「ちょっと待ってください。気になるのはそのナスコムを使って馬車を追いかけたその男ですよね。それは誰の指示なのでしょうか」
ケルトンが思い出したように言った。
「おそらく…王太子側の誰かではないかと」
答えたのはフライアだ。
「確かに、王太子はユーザリオスを警戒しておいでだ。それは王太子殿下に私が直接確かめましょう」
そう言って、その日の会議は終わりとなった。
カイルはフライアに連れられて、屋敷内の私兵が集まる部屋に行く。いわゆる諜報部だ。
フライアはそこの部長のニーボルンにカイルを紹介した。そして、必要なものや資金はここで調達するのだと教えた。
第59話 ナスコム返し
「あの娘…」
「なに?」
フライアは帰り道のバギーの中で、ぼうっとした目でつぶやいた。
「全然違っていた」
「ミナのことか?」
「そう。村娘のときとは別人ね」
「ああ、見かけだけな。中身は同じだ」
「そうなの?」
「ああ、賢いだろ?」
「うん、まあ…」
フライアはボリックがミナの意見を求めている姿に驚きを隠せなかった。ミナが言っている意味は全然わからなかったのに、ボリックはその言葉に感心していた。
「あいつ、もともと賢いんだ。村に住んでたけど、村娘じゃないんだよ」
ちょっと得意そうなカイルの言葉を聞いて、フライアはしかめっ面でカイルを見た。
「あんた、あの子、好きなの?」
「……悪いか?」
カイルはしかめっ面で返した。
「向こうのほうがずっと大人なんじゃないの?」
「それ、言われたくねぇ…」
ここ数日、自分の子供ぶりに自分で嫌気がさしていたところだった。
二人は宿に戻ってテーブルに座った。
「作戦、立てるわよ」
「おう」
「要は、ユーザリオスがまたエレミア事務所に来たところに、潜り込めばいいってことね」
「そうだな。だが、いつ来るかわからないものを二人でずっと見張るのは骨が折れる」
「ユーザリオスの滞在場所はわかっているわ」
「そうなのか?」
「ええ。東門の近くの宿、クルスラよ」
「だったら、そこを見張るか」
「うん。その方が確実ね。だから、私たちも宿をそのそばに移しましょう」
「それはいいが、俺たちには馬車がない。あいつは馬車で移動するぞ。こっちは馬車があっても、馬車では後をつけられん」
「そりゃそうね。なら、バギーを用意しておきましょう」
バギーは小さいので、大きな馬車と同じように動けば音はごまかせる。
馬車に乗っている者は普通、後ろを見ない。
「それと、もう一人のナスコムの魔法使いが気になるな」
「そうね。でも、あんたがトーチを持っているなら…。いや、ダメか。それ、すぐに魔力、切れるでしょ?」
「俺を誰だと思ってる?」
バカにしたように、カイルが上から目線でフライアを見る。
「何よ?」
「冒険者だぞ。大きなセイルフェンも自分で倒せる。だから、使っている魔石も大きいんだよ。何時間も切れない」
「あ、あんたが冒険者だって忘れてた。腹をすかせたすねたガキだと思っていたわ」
「口が減らねえ…」
「ま、いいわ。とにかく、ユーザリオスがエレミアの誰かと何かの取引をしていると仮定して、その現場を抑えるってことかな?」
「その証拠だろ。俺たちには声を記録する魔法は使えない」
「つまり、書類があれば…ってことね」
「そういうことだ」
* * *
一方、バンリオルは王太子の部屋を訪れていた。
「殿下、エレミア領事務所にユーザリオス殿が訪れたという情報が入りました」
「なに? それはどういうことだ」
王太子殿下は眉をしかめた。
「おそらくは、ブリアと同時進行で、マーガドナ鉱山を手にいれようとしているのかと…。まだ憶測の域を出ませんが」
「な、なんと?!」
「それを確認するために、うちで雇っている諜報員を2人ほど使おうと思っておりますが、もしかして、殿下のほうでも、誰かにユーザリオス殿をつけさせておいでとか?」
「いや。そのようなことはしておらんはずだ」
「そうですか…」
「なぜだ?」
「うちの者が言うには、認識阻害の魔法使いが1人、ユーザリオス殿をつけていたとのことです」
魔法使いを使える組織はそう多くない。金がかかるからだ。
「どこの者かわからぬのか?」
「はい、殿下の者かと思いましたが、違うのですね」
「それは由々しき事。他の誰がユーザリオスをつけるというのだ? あとはブリアしかおらぬ」
「いえ、ブリアでもございません」
「わかった…。では、チェスコブに探らせよう」
「は、こちらも独自に調べます」
「そうか。頼んだぞ」
チェスコブは王太子所属の諜報部長だ。諜報部は王太子だけでなく、レオスト側にもあった。大なり小なり、王位継承権を持つ王族はそれぞれに独立した諜報部を持っているのである。
バンリオルが部屋を辞した後、アルーストはふと考えた。
「レオスト側か…?」
バンリオルの諜報員として、カイルの新しい人生が始まった…。
カイルは成果を出せるのか?
用語集
ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。ブリア領の行政顧問になる。
カイル…ミナを助けた冒険者。バンリオルの諜報員となった
フライア … 認識阻害魔法を使う女魔法使いでバンリオルの部下
ボリック・バンリオル … 王都の大商人
ケルトン … ブリア領王都出張所の所長
ユーザリオス … グリダッカルの使者
グリダッカル…東の隣国でたびたび侵略してくる
エレミア… 敵国と国境を接する領地で、ブリアの北
ナスコム …認識阻害魔法。フライアが使う。
トーチ …カイルの持つ、索敵用魔法具
セイルフェン … 風魔法を使う魔物
王太子アル―スト … ブリアを割譲しようとしている
レオスト…第二王子で、ブリア割譲案に反対する立場
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