王都にて、ミナとの邂逅 (第58話)
馬車の番号を調べたい。そう言うと、フライアが連れていったのはなんと…。
第58話 マーガドナ鉱山
王都の中央通りには、辻馬車がいる。バギーを少し大きくしただけの二人用だ。御者は前の小さな丸椅子に座るようになっている。
フレイアはその馬車を拾って、王宮のほうに向かって走らせた。カイルにとっては初めてのエリアだ。どこに行くのか聞いていない。夜の屋台が並んでいるようなところだろうと、勝手に空想する。
しかし、辻馬車は一つの豪邸に着き、二人はそこで降りる。門番には顔パスで、その通用門からフライアは入っていく。その紋章を見て、カイルは(あっ)と心の中で声を上げた。ヤツデと3つの麦の穂。それは王都のバンリオル邸だ。
フライアは勝手知ったる屋敷のようで、裏に回ると通用口から中に入る。そこは屋敷の厨房だった。
「よう、フライア」
料理人たちがフライアに声を掛けた。
「この子に何か食べさせてくれる? おなかいっぱいに」
カイルはなんだか恥ずかしかった。まるで飢えたガキだ。
「いいよ。フライアのいい人かい?」
「なわけ、ないでしょ」
フライアはものすごくあきれたように言い、厨房にカイルを置いて言った。
「ほら、兄ちゃん、これ食べな」
そう言って料理人は山ほどの前菜の盛り合わせをカイルの前に置いた。そして、
「今、肉を焼いてやるから待ってな」と言って、鉄板に油を引き始めた。
(バンリオルに頼むのか…)
頼めるとしたら、ブリアの出張所かと思ったが、それはできないのだろう。
何しろ、ブリア側では暗殺に失敗した二人ということになっている。
今のカイルは、王太子側に追われることはないが、ブリアには帰れない状態だ。
しばらくすると、フライアが戻ってきた。
「カイル、こっちに来て」
「今、肉食べてる」
「そんなの後にして」
まったく…と思ったが、フライアに従うことにした。どうやらフライアはここに仕事に来たようだから。
フライアに連れられて二階の奥の部屋へと行く。
素晴らしい豪華な部屋に連れられ、そこでカイルは驚くべき人を見た。それは豪華な服に身を包んだ貴婦人のようなミナだ。
「カイル!!」
テーブルについていたミナが驚いた顔で立ち上がり、あっという間にカイルに飛びつく。
「よかった。カイル。無事ね」
大喜びをしているが、カイルにしてみたら、初めてミナに抱きつかれて戸惑っている。
王都に来る前、ミナに「無事に帰ってきたらご褒美をくれ」と言ったときのそのご褒美とは「抱きしめたい」だった。思わずぎゅっと抱きしめる。
「ミナ…。本当にミナか?」
あまりにも豪華な、王族にも匹敵するドレスを着ているので、ミナが別人にも見える。
「えへ。すごいでしょ?」
そう言って、ミナはカイルから離れ、くるりと周りと回って得意そうにカイルを見る。
「うん、いつものミナだ」
カイルはクスッと笑った。
そして、部屋の中をよく見ると、他にも男が2人いた。そして、フライアとミナ、それにカイルの5人だ。
「まあ、座りなさい」とバンリオルが言う。丸いテーブルに全員座る。カイルはミナの隣に座った。
「私はボリック・バンリオル。名前は知っているな? こっちはケルトン。ブリア領出張所の所長だ」
「カイルです」
カイルは一礼した。
カイルは、バンリオルがイメージよりもずっと若いのに驚いた。自分とあまり年が違わないように見えたのだ。30代の男だと勝手に思っていた。
ケルトンは30代の役人風の男だった。
「君が追っていたこの馬車だが…」とバンリオルは番号のメモを指さした。
「これはこちらでも追っていた男でな、グリダッカルの密使の馬車だ」
「えっ。グリダッカルの密使?」
「ああ。グリダッカルの密使ユーザリオスだ。グリダッカルは本来、アラゴンキアに入国できん。しかし、王太子殿下が交渉のために秘密裏に入れた特使だ。君はエレミア出張所にいたのだろう? そこに来たというわけだな」
「はい。そうです」
「なぜこの馬車を怪しいと思ったのか、まずそのあたりから聞かせてくれ」
「まず、エレミア地区で何かの情報が得られないかと思って、出張所の前にいました。すると、その馬車が裏口に停まりました。豪華な馬車なのに紋章がないこと。それから…」
カイルはチラリとフライアを見た。
「ナスコムを使っている男がこの馬車を追っていました」
「なに?」
「なぜわかったの?」
フライアはすかさずそこを突く。
「俺はトーチを持っている」
フライアにはもう隠す必要がなかった。
「トーチ…。だから、私がわかったのね」
カイルはトーチを買ってくれた隣のミナを見てにっこりした。ミナもにっこりと返した。
「でも、今日わかったのはそこだけです」
「でも、なんでエレミアに目を付けたの? 私はあんたに何も指示していないわ」
フライアが一番聞きたいことを聞いた。
「グリダッカルがブリアだけで終わるとは思えないからだ」
「それだけ?」
「俺は領主を…領地を助けたい。領主が王太子に処刑されると、ブリアは大混乱になるだろう。それを何とかしたい。そのためには、グリダッカルがブリアを買うだけでは終わらないことを証明したかった」
「つまり、レオスト様が正しいと?」
バンリオルはカイルに言った。
「俺はレオスト様が何を考えているかは知りません。ただ、ブリアを売れば問題は解決すると思うのは間違いだとわかります。仮に、領主が処刑されたとしても、ブリアだけは守りたい」
「なぜ問題は解決しないと?」
「欲望というものはそういうものだからです。一つ与えると、次が欲しくなる。当然でしょう? 一つ与えれば満足すると思うのは、欲望を知らない人だ」
「な、なるほど」
商人としてはボリックも覚えがある。でなければ、商会を大きくしようなどとは思わないのだ。
「で、次に手を付けるのはエレミアだと思ったというわけだな」
「そうです。少なくとも、エレミアはグリダッカルと国境を接していますから」
「そうだな…」
うーむ、とみんな唸った。
「私の立場としては、なんとか領主に咎がいかないことにしたいのですよ。そのお力を借りに、ここにやってきました」
と、ケルトンはバンリオルに言った。
「まあ、まったく咎がないということにはなりませんが、軽くすることはできるかもしれませんな」
とバンリオルも言う。
「おそらくグリダッカルの狙いは、エレミアにあるマーガドナ鉱山でしょう。鉄鉱山です。あれを抑えればかなりの富がグリダッカルに入る」
バンリオルはミナの顔を見た。
「ミナさん、どう思いますか? エレミアは他領地ですが、鉱山を得ようとするグリダッカルをブリアの自由都市構想で止められますか?」
バンリオルはミナに意見を求める。
「すでにお話しした内容の構想では無理ですが、鉱山を含めた利権にすればよいでしょう。鉱山の権利も自由都市の中に入れるのです。つまり、採掘権は自由都市機構が管理するのです。
そのためには、エレミアから国王にその採掘権をいったん戻す必要があるでしょう。
そして、改めて自由都市のものとして、各国商人がその共同採掘権に参加できる入札制とします。
もし、一国が奪おうとするなら、その国は自由都市から排除となります。
また各国はその国に対し、関税障壁など、貿易に制限をつけます。これは経済的な死です」
バンリオルは大きく頷いた。
「なるほど。とにかく、自由都市の利点を高めて、各国を引き入れてしまうということですね。それが先になされれば、鉱山は守られると」
「はい、そういうことです。確かに、エレミアは鉱山の独占を手放すことになるので、抵抗するかもしれませんが、それは面倒がなくなるということでもあります。鉱山には事故がつきもの。
それから一番大きいのは、鉱山を守るための軍備の費用でしょう。少なくとも、それらの費用が不要になりますね。そこを天秤にかけていただいて、納得していただくしかありません」
「なるほど。もしかして、グリダッカルに鉱山を売ろうとしていた証拠があるなら、王家はこれを取り上げることもできますな」
カイルもフライアも、黙って聞いていた。
ミナが話している内容が。2人とも理解できなかったのだ。
…しかし、カイルは…。
少なくともミナが驚くべき知恵で領地を守ろうとしていることに…大きな衝撃を受けていた。
領地を守ろうとしていたのは、自分だけではなかった。
カイルはミナとバンリオルがそのことに知恵を絞っていたことを知る。
カイルは進化した世界に乗り換えられたのか?
次回は、これから先どうするかをバンリオルに迫られる。カイルの選択は…
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