驚愕するフライアと、苦悩の王太子 (第56話)
王太子に暗殺計画がばれ、捕らえられた第二王子レオスト派。そこから逃げたカイルとフライアは…。
第56話 フライアのたくらみ
カイルとフライアは宿の部屋に戻ってきた。
二人とも走り疲れて黙って呼吸を整えている。
カイルは床に座って、壁を背に寄り掛かっている。フライアは椅子に座ってテーブルにうつむいていた。
「つまり、俺はあんたに助けられたんだな…。なんでだ? ゾルダンやゼルンのように、王太子暗殺の一味にしてもあんたには関係なかったはずだろ?」
「ふん。あんたは無邪気すぎて、かわいそうじゃない。まだ騎士団に来たばかりなのに領主の捨て駒にされるんじゃ…」
カイルはハッとした。
「違う。そうじゃない…」
だんだんと明確になってきた。
「あんたはバンリオルの手駒だ」
その言葉にはフライアが驚いて顔を上げる。
「最初からそうだったんだ。俺が知らないと思ってたろ? 最初から知ってたさ。だから、図書室にいたとき、ユーリカの件で嘘をついた」
「えっ、まさか…?」
フライアの顔がみるみる青ざめる。
「だから、あんたが『シーラの加護』の1人だと聞いて、不審に思った。バンリオルは王都側だろ?
つまり、割譲派だ。それなのに、なんでラフカーンと仕事をしてるんだ?ってな。
つまりあんたは最初から二重諜報屋だ」
「…なんで私がバンリオルの手駒って…思ったの?」
「あんたがミナをつけてたことを知ってた。だから、あんたをつけた。そしたら、図書室に来たあと、バンリオルの屋敷に戻っていっただろ?」
「………」
「図書館のときも、俺のこと知っているから声をかけたんだろ? ミナと同じ家に住んでいるのを知っていたからだ」
フライアは小刻みに震えるほど驚愕した。なんと言っていいかわからないくらい大きなショックを受けた。今まで相手にこんなにも見抜かれていたことはなかった。
「つまり、俺はミナに助けられたんだな。バンリオルはミナを連れて、今王都にいる。あんたはバンリオルに現状を報告する。
バンリオルはミナの家族である俺が、捨て駒になって捕らえられればミナが悲しむと思った。だから、俺を助けるように、あいつがあんたに言ったんだろ?」
フライアは時が止まったように動かなかった。
そして、疲れたように顔をテーブルに伏せた。
「そう。その通りよ…」
そして、大きくため息をついた。
「驚いたわ。私がバンリオルの手駒だってばれているとは思わなかった…」
「自信喪失か?」
「まあね…。あんたは機転が利くとは思っていたけど、そんなに調査能力があるって知らなかった」
カイルは少し気の毒になった。自分自身がこのごろ自信喪失なのだ。それには同情する。
「気にすんな。ラフカーンにも言っていない。助けてもらったことは感謝する。ただ…」
しばらくカイルが黙っているので、フライアは顔を上げた。
「俺もそんなに無邪気な子供じゃないってこと、言いたかっただけだ」
「ぷっ」
フライアは思わず噴き出した。
「あははは…!」
声を上げて笑い出す。
「何がおかしいんだ?」
カイルは不機嫌になる。
「だって…。そういうところが子供だって言っているようなものじゃない」
「………」
カイルは反論できなかった。同情なんかして余計なことを言ってしまった。これは失敗だった。
「まあ、いい。もう寝る」
カイルは身体を起こした。
「…そうね。今日は疲れたわ」
「なあ…、領主はどうなるんだ?」
頭だけ振り返りながら尋ねる。さすがに領主一族が気の毒に思えた。
「さあね。そこまでは私にはわからない。私はバンリオルを信じるだけよ。彼ほど頭のいい男はいない」
「ふうん…」
カイルはまたミナを思い出した。
「バンリオルにミナがいるなら…。なんとかなるかもしれないな」
フライアはいぶかし気にカイルをじろりと見る。
「あの娘にそんな力があるっていうの?」
「…たぶん。だから、バンリオルも、領主の息子も、ミナを取り込みたいんだろ?」
「ふうん。そうなの…」
「お休み」
そう言って、カイルは奥の寝室に入り、フライアも力なく立ち上がって、反対側の寝室に入っていった。
* * *
王太子はミナの話をじっくりと聞くことを約束したが、その夜はすでに遅く、次の日の午後から時間を取ることになり、二人はひとまずバンリオル邸に戻った。
そのあと、王太子のところに背の低い小太りの客が護衛を連れてやってきた。
それは、アルーストにはあまり歓迎したくない客であった。
「王太子殿下。聞き及びましたぞ。レオスト様を捕らえられたと…」
それはグリダッカルの密使であった。見事な玉虫色のローブを着ており、アルーストよりも少し年上で、白く短い顎ひげを生やしていた。グリダッカルでは高位の行政官である。
「ああ、ユーザリオス殿。そなたらが和平を確約するための条件は、ブリアの割譲とレオストの排除であったからな」
アルーストは少しけだるそうに言う。
さんざんアラゴンキアを侵略し続け、しまいにはブリアを割譲すれば和平を約束するなどと、どこまでアラゴンキアをバカにするのだと、アルーストも内心は思っている。
しかし、これ以上の争いはどうしても避けなければならない。これはアラゴンキアの長年の悲願なのだ。その覚悟をもって、アルーストは割譲を決めたのだ。
国王である父は退位こそしていないが、3年前から実質の国王はすでにアル―ストで、国を守る責任は自分にあるのだ。
レオストの排除はしたが、アルーストはレオストを憎んではいなかった。だから、幽閉していても環境は整えてある。レオストもまた、国を思ってのことなのだ。
「早速、我が王エルドアサテン様にお伝えいたします。調査団のほうも査定を終わったようでございますので、いよいよ交渉を本格的に進められることでしょう。
戦などもう時代遅れ。交渉こそが新しい道でございます。このユーザリオス、必ずや両国の架け橋となりましょう」
そう言って、密使は部屋を辞した。
アル―ストは苦々し気にその後ろ姿を見送った。
この状況で、ミナにできることはなに?
カイルにできることは?
次回はミナの提案と、カイルの反撃。
よかったら、ブックマークしてくださると、とても励みになります!




