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第6話 この世界が自分に望むことってなに?

異世界に来てしまったミナ。それまでのキャリアがまったく使えない…。

でも、ミナはあきらめない。

自分にできることはなに?! ミナの追求が始まった。


 ミナがこの世界に来たのは、9月の半ばだった。それから3か月があっという間に経ち、季節はすっかりと移り変わった。


 冬の2カ月ほどはレイも市場に行かない。ミナの時間は空く。

 そこで、ミナは戦略を考えることにした。


「ええっと…。まずは、村の流通ルートを確立する」


 1日4時間の徒歩移動はきつい。

 みんながバラバラに動くのではなく、誰かが中心になって農産物をまとめ、代わりに売る組織が必要なのだ。それは日本の農協のようなものだろう。


 ミナにはアイデアがある。しかし、ビジネスの世界で一番大切なのは、アイデアを実現する力なのだ。


 アイデアだけならだれでも言える。形にするのはその100倍難しい。ミナにはまだその実績はなかった。


(前の世界でもやったことがないのに…インフラのないこの世界でできるわけない…)


 そんな思いが出てきて、ミナのやる気をそぐ。

(ううん…。できないって言ってたら、一生このままで終わる…)


 ミナはこの世界で無力な娘でいることを拒否した。


(やるのよ。できないからやらないなんて、贅沢よ。やるったらやるの…)

 そう思うしかなかった。


 しかし、しばらくすると、また心がつぶやく。

(でも…、できるのかな…。無理よね…)


 その言葉が頭の中で何度も繰り返される。1日に何度も、何度も。


 しかし、このままじゃ、いつか破綻する。


 1日4時間歩くのも大変だし、荷車で運べる量には限界があるし、天候に左右されることが多すぎるし、いつまでもミナの物珍しさで呼び込みがうまくいくはずもない…。


(もし、これが破綻したら…)


 ミナはそれが破綻したときを想像した。


 このままでいれば、いつか誰かの妻となってこの世界の1人として暮らすしかない。

 それは確実だ。野菜売りでどんなに成功しても、たかが知れている。



 ミナはときどき思う。


「いったい、なんだってこの世界に転生したのだろう?」


 それは自分視点の疑問だ。答えが出たことはない。

 逆に、この世界の視点で考えてみる。


「いったいなぜ、この世界に私が必要なんだろう?」


 そう考えると、ミナの答えは決まっていた。


「この世界は経済が成熟していない。だから、この世界が私に望むとしたら、経済の成長の促進だ」


 結局、そこに結論が落ち着くのだ。


「はあ~……」

 やるしかない。そうなのだ。答えは一つしかない。


「この世界には、私にしかできないことがある。それをやるしかないのだろう」


 ミナは覚悟を決めて、事業計画を練り始めた。

 いきなり農協は無理でも、まず目指すのは流通の改革だ。


「できるとしたら? …できるとしたら?」

 ミナは考えた。


「最初から毎日は無理。日持ちする商品だけを一括で買い上げて運べば、5日に一度でも十分。月に6回で済む…」


「うん! まずは根菜など日持ちする商品専用の物流ルートをつくろう! それならリスクも少ないし、重いものを個人で運ばなくて済むわ」


 ミナは我ながら良いアイデアだと思った。


 そこで、事業計画を練って、貴重な紙を5枚費やして企画書を書き上げた。裏表で10ページ分。こんな短い企画書は初めてだが、紙がないので仕方がない。


(ええと…。誰に持っていけばいい?)


 ヨーカの夫ドナオンは役場勤めなのだ。彼に見せることにした。


 16歳で役所に勤め始めてもう14年勤務のベテランだ。村役場とは言え、村民は2000人いるのだからばかにならない。

 税金の徴収、公共物の管理と修復、いろいろな苦情の処理、中央からの通達の告知、保安、教育など、様々な仕事を一手に引き受けるのが村の役場だ。


 ドナオンは短くそろえた茶色の顎ひげをじょりじょりとなでながら、ミナの企画書を見た。少しやせ型だが、背は高いので、背中を丸めて企画書をじっくり読み込んでいる。


「う~ん。なるほど。村で一括して農産物を扱うってことだね…」

 さすがにベテランの役人だ。


「はい。どうでしょうか?」

「まあ、こういう話が出たことはあるんだよ。でも…」


 ミナはちょっと驚いた。一応、検討したことはあるようだ。それはそうかもしれない。同じ村から毎日のように2時間かかる街までいけば、道連れができて、話をするだろう。


「結局、反対者がいてね…」

「え、なんで反対するんですか?」


「一括で買い上げると、どうしても同じ値段になるだろ? でも、品質はそれぞれ違う。うちの農産物は結構いいものなんだよ。虫食いも少ないし、一つ一つが大きい。


 でもね、たいして熱心に作っていないところのものはそうじゃない。そういうものが混ざると不公平になるからって、反対するやつもいるんだな。

 男手があれば、市場に行くのも苦じゃないっていう家もあるしね」


 ミナは「なるほど」と思った。でも、それなら解決策がある。


「じゃあ、とりあえず、参加しない人はおいといて、参加したい人たちだけでまずは試しに進めてみたいと思うのですが、どうでしょう?」


「ふん。まあ、うまくいけば半分くらいは参加するかもしれないね。この村は八割が農家だからそれでも結構いるかもしれないな。


 で、誰にその話を持っていくんだい? この村には商人と言える人いないよ。前も結局、誰にも話をもっていかなかったんだよ」


「そうなんですか? 地主さんとかいないんですか?」


「まあ、地主というと、この地域の領主様の息子、アンドリオン様だね。この地域全体はブリア候カリディオン・ローガン様の領地で、その一部がその嫡男アンドリオン様のものなんだ」


「貴族なんですね…」

 ミナはため息をついた。


 貴族に声をかけるなんてこと、できそうもなかった。


「まあ、いきなり有力な商人のところに行くのは無理だけど、俺の知っている商人なら、紹介できるよ」


 こうして、村役場に出入りしている材木商人コーダが村を訪れたとき、ドナオンがミナを紹介してくれ、ミナは次の週にタンブリーの商業振興会の会合でプレゼンをすることになったのだった。


(この世界で、初めてのプレゼン…)

 それはかなり恐ろしいことでもあった。


「どうしよう…、どうしよう…」


 ミナは自分の部屋にこもったまま、うろうろと歩き回っていた。あさってには商業振興会に出て、挨拶をしなければいけないのだ。今までも練習してみたが、どうも決まらない。あと正味1日しかない!


「できる、できる。できるったらできる…」


 呪文のように唱えながら、ミナは震えていた。部屋が寒いのももちろんあるのだが、今は毛布を巻いて歩いている。それでも震える。


 何度も練習をしてみた。紙がもったいないから原稿は書けない。何度も何度もしゃべってみるしかない。



「はぁ~…」

 精魂尽き果てたように肩を落として、ミナはため息をついた。


 何が障害となっているのか?

 はっきり言って、ここはミナにとってアウェイなのだ。


「私の知らないことを突かれたらどうしよう…」

 思わず頭を抱える。アウェイでいじめられるような妄想が始まった。


「妄想、やめ~い!」

 思わず叫ぶ。


(恥をかこうが、失敗しようが…)


「ここで生き残るには、……やるしかないの!! うだうだ言うのはやめなさい!!」


 それを声に出して怒鳴りながら、ミナは自分を叱咤した。



次回は、いよいよ、異世界でミナのプレゼンが始まります。


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