第5話 ブリア領とアラゴンキア
異世界に来たミナは、自分の能力が活かせず、焦る。
自立したいのに、仕事がわからない。
それでも、市場でなら何かができそう…。
ミナを助けてくれたカイルの弟、レイとともに市場で働くミナだったが…。
市場では、ミナの呼び込みはなかなか効果があり、けっこう客が増えた。
ミナに「お客さま!!」と呼ばれて悪い気はしない。そして、買った後は深くお辞儀をされる。
男性客も女性客も、どこで買うのも一緒ならここで買おうと思うのだ。
商品は同じでも、サービスが違う。マーケティングで言うところの差別化だ。
少し客足が途切れると、ミナは市場を通る人々を観察した。
だいたいは庶民だが、ときには役人のような制服を着た人々もいる。
ここはロータリーのある広場なので、周りを大きな馬車が走っていくのも見える。
そのなかにはきっと貴族が乗っているのだろう。
ミナは、ちょっと変わったいでたちの人々をみつけた。
この街の人々とは違う色合い、デザインの服を着ている。
そして、頭にターバンのようなおしゃれなスカーフを巻いている。
「ねえ、レイ。あの人たちは何?」
レイにこっそり小声で聞いた。
「ああ、あれはアーガリアの人たちだよ」
「アーガリア? それどこ?」
「この国の対岸にある大陸さ。
ブリアはいろいろな国から近いんだよ。だから、いろいろな国の人が来る。
……ほら、あそこにいるのは、隣国のスリマラビヤの人たち。ちょっと、足元が膨らんだズボンをはいているだろ?」
「へぇ…。ブリアって何?」
「えっ?! 知らないの? このタンブリーがある領地の名前だよ! タンブリーのお城はブリア領主のお城なんだ」
レイはあきれたように言った。やれやれとばかりに首をすくめる。
(なるほど。エルノーはタンブリーの近郊の村で、そのタンブリーはブリア領の城主の街ってことか)
「で、この国の名前は?」
「アラゴンキア!」
レイはかなりバカにした目で教えてくれる。
ミナはタンブリーがいったいどこにあるのかまったくわからない。
だから、全体的な地理は想像もできなかった。
「対岸ってことは、どこかに港があるってこと?」
「そうだよ。ブリアの南は海に面しているから、そこにコブルーっていう港があるんだ」
レイはそう教えてくれたが、「もう面倒くさい」という表情だった。
「そんなに知りたきゃ、教会の横にある図書室に行くといいよ。そこで読む分は無料だから」
「へえ。図書室があるの?」
それ以来、ミナは図書室にときどき通って、この国のことを調べた。
経済を理解するには、データが重要だ。少なくとも、この国がどれくらいの大きさで、どれくらいの人口で、どれだけの領地があって…ということくらい知りたかった。
少しお金に余裕ができると、ミナはレイに頼んで、書字板と紙を買ってもらった。紙は高いので10枚ほどしか買えないが、それを大事に綴じて、小さな文字でメモを始めた。
データは必ず役に立つ!
今日は何が平均いくらで売れたか、1日の売り上げはいくらか。
イーロイに払う場所代はいくらか、すべてを記録し始めた。
そして、野菜の旬がいつで、どのくらい獲れるのかを畑を見ながら予測する。
これを繰り返せば、売り上げ予想が立てられるというものだ。
この市場で野菜を売るのは、レイの家だけではない。
街までの街道を歩くと、何軒かの同業者に出会う。
レイの話では、市場で野菜を売る家はだいたい80軒近くあるとのことだった。
みんなが毎日通うわけではないが、要は、かなりの人が毎日街道を通っているということだ。
それを考えると、レイとミナだけでこの2時間の距離を歩くのは無駄な気がした。
朝5時に起きて、2時間歩き、8時には開店。
そして、2時ごろには片付けが始まり、2時半ごろに引き上げ、5時前に家に帰る。けっこうな労働だ。みんなそれを当たり前だと思っているようだ。
村に買い取りの組織があれば、あとはその組織が移動して、販売すればよいだけだ。
(う~ん、なんとかならないかな…)
ミナは考えれば考えるほど、この世界の未成熟さに苦しくなるのだった。
異世界に来て、今までのキャリアをすべて失ったミナ。
それでも、まずはこの世界を知って、自分に何ができるかを考え中です。
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