第4話 ミナ、市場で頑張る
中世のような異世界に転生したミナ。
得意のMBAの知識も役に立たず…。
でも、なんとか自立しなければ、と働く場所を探す。
市場なら、なんとかお金が稼げそう…。
そんなミナを、冒険者カイルは不思議そうに見ていた。
カイルが狩りを終えて、納屋で素材の始末をして身体を洗い、裏口から家に戻ると、ミナとレイもすでに戻っていた。
レイとすごく仲良くなったのか、テーブルに座ってふたりで笑っている。
カイルはその光景を見て、一瞬足が止まった。ミナがあんなに笑っているのを初めて見た。
「お、兄貴。お帰り」
「カイル、お帰りなさい…」
ミナは少し心配していた。現代人のミナにとって、魔物を狩るなんて、聞いただけで怯えてしまう。
無事な姿を見るとホッとする。
「ああ」
そう言って、彼は食堂の隅の揺り椅子に座って、椅子を揺らしながら、濡れた髪に風を当てていた。
これはカイルの定位置だ。
今、ミナとレイは、今日の売り上げを勘定していたのだ。雨で早く切り上げた割には思いがけず売り上げがあったので、ふたりで喜んで笑っていた。
「ミナ、すごいよ。今日は天気の日よりも売れてると思うよ」
「ホント? 私、役に立ったかな?」
「うん、立ってる、立ってる。ミナがせっせと呼び込みしたから、客が多かったし、たくさん買ってもらえたよね。うちの野菜だけでなく、だんなのも売れてたから、だんなが喜んでたね」
そこに大皿を持って料理を並べに来たヨーカが話に入ってきた。
「へえ。ミナが呼び込みしたの?」
「そうなんだ。すごくうまくて、俺、驚いた」
「雨だから売れなかったかと思ったら、すごいじゃない!」
ヨーカが子供を褒めるようにミナを褒めた。
「ミナ、また市場についてきてよ。だんなもぜひまた来てほしいって言っていたし。天気の日ならもっと売れるよ!」
「わかった。じゃ、市場でしっかり働くわ! レイ、またよろしくね」
ミナはうれしくなった。畑仕事は苦手だが、市場で売るのはMBAのミナとしては望むところだ。期待されるのはありがたい。やる気が出る。
男たちが仕事から帰ってきて、次々にテーブルについた。ヨーカの夫ドナオンと、ヨーカのいとこダンだ。それに、カイルの母ゾーラとその義妹クリムラがテーブルにつく。
カイルは揺り椅子から立ち上がって、椅子に座っている母ゾーラを後ろから軽くハグした。
ゾーラは微笑んでそのたくましい腕をポンポンと叩いて返した。
それからカイルはミナの隣の席に着く。大皿が並び、いつもどおりのにぎやかな食事となった。
カイルからミントのような香りがした。
「ねえ、カイル。その香り、何?」
「ユーリカ油だ。消毒になるんだ。狩りの後にはこれで身体を洗うのが決まりなんだ」
「ふうん」
ミナは化粧品が欲しいのだ。市場では売ってなかった。
「それって市場で買えるのよね?」
「ああ、買えるよ。なんで?」
「私もそれ、使いたいの。化粧品になるかなって…」
「化粧品? なにそれ。…使いたいなら、俺のを使えばいい。いくらでもあるよ。うちで育ててるから…」
「え、ほんと? うれしい!」
カイルにとってミナは普通の娘ではなかった。
初めてミナを見た日、草の中から生まれた妖精のような気がした。
今でも半分妖精ではないかと思う。自分の知らない世界から来たのは間違いない。
そして、いつかフッと消えてしまうかもしれないのだ。
だから、少し距離をおいて接しているつもりだった。
「カイル、私、明日から毎日レイと一緒に市場に行って働くね」
「市場、おもしろかったのか?」
「うん。私、商売が好きなの」
(いつかこの家を出なきゃいけないし…)
と、心の中で未来のことを考えていた。
市場でお金を稼げば、未来が開けるだろう。
正直、いくら異世界とは言え、アメリカの大学でMBAを取るまでに勉強した自分が、市場の売り子で終わるなんて、許せなかった。
(絶対にのしあがってやるんだ!)
その日から、ミナはレイとともに市場に通った。
それと同時に、食事のたびに野菜についていろいろと尋ねた。ミナは野菜の名前をほとんど知らなかった。カイルの家族はそのことをすごく驚いていた。
「お嬢様だとはわかってたけど…」
ヨーカもかなりあきれている。
ゾーラは辛抱強く教えてくれる。
なんという名前か。どう調理するのか、いつが旬なのか。良い野菜の見分け方。日持ちはどれくらいか。効能はあるのか。
しかし、書き留める紙がない。自分で木を削って、そこに書き留めた。
村娘から、経済の知識で国を侵略から守るという壮大な話に移行します。
長い長い話です。
どうぞ、お付き合いください。
ブックマークしてくださると、心の中で土下座して感謝いたします。どうぞよろしくお願いします。




