第3話 カイルの魔物戦略
現代社会から転生したミナを助けたカイル。
魔物を狩る狩人だ。
彼には特別な能力があった…。
カイルが村を発ったのは、夜明け前だった。ミナが市場に行く前の日の朝だ。
「明日帰る」
それだけ言って、剣を腰にまとい、野営の装備を背中に結び付けて、静かに村を出て行った。
ミナは玄関で彼を見送った。
(魔物狩りか…)
カイルはパーティーを組んだりしないのだ。村にはカイルと剣の模擬戦をする相手が何人かいたが、狩りになるとカイルはいつも単独だった。
それがミナは少し気になった。
(なんでかしら?)
こんどカイルに聞いてみようと思った。
一人では、持ち帰れるものも少ないし、危険な目に遭ったときに助けてくれる人もいない。
(無事に帰ってきてね…)
心の中でつぶやいた。
(私の保護者なんだから、いなくなると困る…)
* * *
カイルは森の奥に進んでいった。
一泊二日の旅でたどり着ける周辺の狩りの場は5か所くらいある。
ここはその一つだ。湿った地面に異様な臭気が漂っていた。カイルは足を止める。
視線を落とすと、地面が不自然にえぐれている。
大型魔物――ロックベアが土魔法を使い、地下のモグラのような動物を掘り起こした跡だ。
硬い皮膚と巨体を持つ、単独討伐は危険な相手だ。まだ近くにいるかもしれない。
カイルは装備を下ろして身構えた。
後方の木々が微かに音を立てる。
(小物が……7、いや8)
ファングモンキー。別名牙猿だ。集団で獲物を囲み、隙を突く小型魔物だ。獲物はカイルのようだ。
カイルがこのファングモンキーの集団と正面から戦えば、死ぬ。
彼らは小物でも、その爪はとても固くて長い。
囲まれて引き裂かれると大型の魔物でも出血大量で動けなくなり、やられるほどだ。
カイルは剣を抜き、深く息を吸い、半眼となる。
カイルの脳裏にくっきりとしたビジョンが浮かぶ。
(このまま進めば…)
(ここで下がれば…)
――どちらも死ぬ。
1枚1枚、カードをめくるようにそのビジョンは現れて、カイルにさまざまな未来を見せていた。
これはカイルの特殊能力なのだ。
カイルの身が危険にさらされる時だけに生じる未来視である。
次々とビジョンが流れていき、死につながる選択肢が次々と消えていく。
だが一つだけ、きらりと光るビジョンがあった。
(…よし…これなら…)
カイルは、しっかりと目を開け、周りを見回した。ファングモンキーは後方半円状にカイルを囲んでいる。だが、カイルは走らない。一匹がカイルの前方に入り込むまで待つ。
左手から1匹がスッとカイルの視野に入った瞬間、カイルは飛び出し、その猿に剣で切りつけ、倒れた猿の背中から首の後ろを掴んで、猿とともに前方に勢いよく駆け出した。
残りのファングモンキーも追いかけるように走り出す。
すると、ロックベアがカイルと猿どもに気づき、振り向いて突進してくる。
――ドドドド…。
巨体が突進してきたので、地響きが鳴る。その音に猿たちの動きが一斉に鈍った。
カイルを襲うつもりだったので、猿どもはロックベアまで勘定に入れていなかった。猿どもが恐怖で飛びあがる。やつらはこういう急な状況変化に弱いのだ。
(今だ)
カイルは捕まえた猿をロックベアにめがけて投げつけた。甲高い悲鳴とともに、ファングモンキーがロックベアの頭にぶつかり、目つぶしになる。
その瞬間、カイルはロックベアに近づき、下からのど元に剣を差し込み、えぐるようにして剣を抜いた。
そして、すぐさま半歩ずれて、横に避ける。土魔法を使う隙もなく、断末魔のロックベアが巨体をカイルの上に倒れようとする。
一歩間違えばロックベアを避けられず下敷きとなれば即死する。
しかし、カイルはそれを回避した。
猿どもはロックベアの断末魔の叫びに恐れをなして、すべて遠くへ逃げ去った。
――静寂。
カイルは剣を収め、しばらく、その場に立ち尽くした。息が、遅れて荒くなる。
それから、装備を置いた場所まで戻り、ロックベアを持ち帰る準備をした。
一人では持ち帰るといっても限界がある。
一番高価な部分だけを切り取って持ち帰るしかない。それでも重さは80キロほどになる。
装備の中には組み立て式ソリがあり、端に小さな車輪が二つついている。
場所によってソリにも台車にも使えるように工夫してある。
それを組み立てると獲物を載せた。残りは置いて行かざるを得ない。
しかし、カイルはあえて一人の狩りを選んでいた。
それには深いわけがあった…。
長大なストーリー、始まったばかりです。
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