第6話 ミナ、異世界で起業を決意する
この世界には、動きや構造が「似たもの」があふれてる。
経済の動きを半導体の動きで見ることもできる…?!
それから、スーパーに並んでる野菜と、近所の八百屋の野菜って、ちょっと違うよね。
そんなことを考えてみてね。
ミナは冬の間に事業計画を完成させたかった。
まず考えるのは、村の収穫物の流通経路の組織化だ。それにはお金がかかる。リスクもある。ミナやカイルの家だけではとてもできないことだ。こういうときはどうする?
それは、さんざん大学で学んできたことだった。
企画書を書いてそれを投資家に持っていき、投資してもらえれば第一歩を踏み出せる。
…と口で言うのは簡単だ。でも、あくまでもそれらは大学のゼミでの練習だ。
就職してからも、実際に投資家を一人で動かしたことは一度もない。いつも先輩が一緒だった。ミナはまだ補助要員だったのだ。
「ふう…」
ミナはため息をついた。自分にこんなことができるのだろうか? まだこの世界に来て3か月しか経っていないのに?
自分にできるのか?
いや、無理だろう…。
でも…。
その言葉が頭の中で何度も繰り返される。1日に何度も、何度も。
しかし、このままじゃ、いつか破綻する。毎日4時間歩くのも大変だし、荷車で運べる量には限界があるし、天候に左右されることが多すぎるし、いつまでもミナの物珍しさで呼び込みがうまくいくはずもない…。
(もし、これが破綻したら…)
ミナはそれが破綻したときを想像した。
(カイルのお嫁さんになって、ここで畑仕事をしながら、主婦として暮らす?)
いやいや、そもそもカイルが結婚してくれるかどうかはわからないのだが。
(断わられるかもじゃない!)
自分で突っ込みを入れた。
カイルから見ると、自分は異物に違いなかった。ときどきわからない言葉を言うし、ユーリカ油を顔につけると言っただけですごく不思議がられた。
しかし、このままでいれば、カイルでなくてもいつか誰かの妻となってこの世界の1人として暮らすしかない。それは確実だ。野菜売りでどんなに成功しても、たかが知れている。
ミナはときどき思う。
「いったい、なんだってこの世界に転生したのだろう?」
それは自分視点の疑問だ。答えが出たことはない。
逆に、この世界の視点で考えてみる。
「いったいなぜ、この世界に私が必要なんだろう?」
そう考えると、ミナの答えは決まっていた。
「この世界は経済が成熟していない。だから、この世界が私に望むとしたら、経済の成長の促進だ」
結局、そこに結論が落ち着くのだ。
「はあ~……」
やるしかない。そうなのだ。答えは一つしかない。
「この世界には、私にしかできないことがある。それをやるしかないのだろう」
ミナは覚悟を決めて、事業計画を練り始めた。
いきなり農協は無理でも、まず目指すのは流通の改革だ。
ミナの頭の中にはあるイメージがあった。市場の動きを見ていると、何かを思い出すのだ。
それは半導体の動き方だった。
それぞれが各自で動き、いろいろなものを運ぶ。なんでもできるからこそ万能だが、効率が悪くてエネルギーの無駄が多い。持って行ったが無駄になった、また持ち帰る、とかだ。市場を見るとCPUの無駄な動きを連想させる。
今、ミナがつくろうとしているのは定期的に大量の物資を一括で運ぶシステムだ。それはまるでGPUのようだった。それをこの異世界の流通で起こしたい。
そのためには、運ぶ前に一括購入することが必要だ。それはかなりの金額が必要となる。
「いや、待って…」
ミナは思い出した。あれはまだ彼女が大学生のころのことだ。
ヒューマノイドが誕生する前、世界はエネルギー問題で困窮していた。AIやEVで膨れ上がる電力使用量に、電力が足りなくなったのだ。世界は大慌てで新しいエネルギー源を探したが、それはなかなか間に合わなかった。戦争も起きた。エネルギー危機になった。
そこで世界を救ったのは、TPUだった。
すべてを常に動かす必要はない。
必要なものだけを、必要なときに動かす。
その発想が、世界を救った。
「そう、つまり…。全部は無理。日持ちする商品だけを一括で買い上げて運べば、5日に一度でも十分。月に6回で済む」
これはエネルギー問題に革命を起こしたTPU式解決法なのだ。
「よし! まずは根菜など日持ちする商品専用の物流ルートをつくろう! それならリスクも少ないし、重いものを個人で運ばなくて済む」
ミナは我ながら良いアイデアだと思った。
そこで、事業計画を練って、貴重な紙を5枚費やして企画書を書き上げた。裏表で10ページ分。こんな短い企画書は初めてだが、紙がないので仕方がない。
「レイ、ちょっと話があるんだけど…」
ミナは市場の仕事がなくなって少し暇を持て余しているレイに声をかけた。そして、テーブルに座って、企画書を見せた。
「う~ん…。これってつまり…??」
レイは企画書を見たことがないらしく、まったく理解できなかったようだ。
うっかりした。
まだ彼は17歳なのだ。かといって、冒険者のカイルにもわからないだろう。
「あ、だったら、ドナオンならわかるかな? ちょっと呼んでくるよ」
レイは気が利く子だった。
ドナオンは役場勤めなのだ。現代風の企画書はわからなくても、事業計画については知っているかもしれない。16歳で役所に勤め始めてもう14年勤務のベテランだ。
村役場とは言え、村民は2000人いるのだからばかにならない。税金の徴収、公共物の管理と修復、いろいろな苦情の処理、中央からの通達の告知、保安、教育など、様々な仕事を一手に引き受けるのが村の役場だ。
ドナオンは短くそろえた茶色の顎ひげをじょりじょりとなでながら、ミナの企画書を見た。少しやせ型だが、背は高いので、背中を丸めて企画書をじっくり読み込んでいる。
「う~ん。なるほど。村で一括して農産物を扱うってことだね…」
さすがにベテランの役人だ。
「はい。どうでしょうか?」
「まあ、こういう話が出たことはあるんだよ。でも…」
ミナはちょっと驚いた。一応、検討したことはあるようだ。それはそうかもしれない。同じ村から毎日のように2時間かかる街までいけば、道連れができて、話をするだろう。
「結局、反対者がいてね…」
「え、なんで反対するんですか?」
「一括で買い上げると、どうしても同じ値段になるだろ? でも、品質はそれぞれ違う。うちの農産物は結構いいものなんだよ。虫食いも少ないし、一つ一つが大きい。でもね、たいして熱心に作っていないところのものはそうじゃない。そういうものが混ざると不公平になるからって、反対するやつもいるんだな。男手があれば、市場に行くのも苦じゃないっていう家もあるしね」
ミナは「なるほど」と思った。でも、それなら解決策がある。
「だったら、品質に等級をつけて等級ごとに値段を付けて買い取ればいいんですね?」
「え? どういうことだい?」
ミナのアイデアは理解されなかった。
ミナは日本の果物の等級について知っている。6つの分類があり、スーパーで売られているのは6つの分類の下から2番、3番目くらいのものだ。
その等級ごとに買い取り価格を決めればいいと思うのだが…。
「品質なんて、食べてみないとわからないだろう?」
「え、でも見かけでもかなりわかるでしょ? だからこそ、市場でみんな手に取って眺めているんじゃ?」
「ま、ある程度わかるものもあるけど、どうかなぁ。みんな納得するかな…」
つまり、見かけは悪くても、味はうまいと言われれば、食べてみないとわからないということだ。ミナはそこから考えないといけないということがわかった。それは何とかするとして…。
「じゃあ、とりあえず、参加しない人はおいといて、参加したい人たちだけでまずは試しに進めてみたいと思うのですが、どうでしょう?」
「ふん。まあ、うまくいけば半分くらいは参加するかもしれないね。この村は八割が農家だからそれでも結構いるかもしれないな。で、誰にその話を持っていくんだい? この村には商人と言える人いないよ。前も結局、誰にも話をもっていかなかったんだよ」
「そうなんですか? 地主さんとかいないんですか?」
「まあ、地主というと、この地域の領主様の息子、アンドリオン様だね。この地域全体はブリア候カリディオン・ローガン様の領地で、その一部がその嫡男アンドリオン様のものなんだ」
「貴族なんですね…」
ミナはため息をついた。
貴族に声をかけるなんてこと、できそうもなかった。
「じゃあ、力のある商人は、タンブリーに住んでいらっしゃる?」
「そうだね。何人か、有力な商人と呼ばれている人たちがいる。その人たちに相談するのはアリかもしれないな。ただ、機嫌を損ねると大変なことになるかもしれないから…う~ん…」
ドナオンは腕組みをしてうなった。
(機嫌を損ねるとどうなるんだろう…)
ミナはちょっと怖くなってしまった。牢に入れられる? いやいや、商人にそんな力はないから…。殴られて放り出される? いやいや、いくらなんでもそんな理不尽なことは…。
勝手に妄想が広がる。
(いやいや、妄想はやめよう)
ミナは少し落ち着くことにした。
「まあ、いきなり有力な商人のところに行くのは無理だけど、俺の知っている商人なら、紹介できるよ」
「ほ、ほんとですか? それはどんな方なんですか?」
「材木屋だよ。ほら、村であちこち建設しているだろう? 最近は集会所も造ったからね。材木屋とはいろいろ取引があってね、定期的に村に来る。ある程度の商人というのは、みんな商業振興会に入っているから、そこで他の商人のことも知っているはずだよ。相談するくらいはしてもらえると思う」
(やった~!!)
とりあえず、一歩を踏み出せそうなミナであった。他にも、野菜の集積場所として村の役場の施設が使えるかとか、広場に馬車を置いていいかなど、細かいことも聞けたので、ドナオンはかなり役に立った。決まったら彼が使用許可を申請してくれると言ってくれた。
翌々日、その材木商人コーダが村を訪れたとき、ドナオンがミナを紹介してくれ、ミナは次の週にタンブリーの商業振興会の会合でプレゼンをすることになったのだった。
(この世界で、初めてのプレゼン…)
それはかなり恐ろしいことでもあった。
起業したい人。最初はわずかな人脈をたどって、資金を出してくれそうな人に当たる。
当たって、当たって、当たりまくる!
それが起業家精神。断られても泣くな!
次回は、いよいよ、異世界でミナのプレゼンが始まります。
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