フライアの謎と、王太子とミナ (第54、55話)
MBAを取得してアメリカで働いていたミナは、ブリア領主の息子アンドリオンに行政顧問に任命それた。しかし、大商人バンリオルもミナの才能に気づき、王都へ連れて行こうとしていた。
一方、ミナの思い人カイルは、騎士団長から王太子暗殺の指令を受ける。しかも、それに失敗して逃亡の身となることも必要とされた。そんな理不尽な運命が受け入れられず、カイルは苦悩していた。あるとき、カイルは仲間のフライアに連れていかれ、王太子が第二王子を捕縛する現場に居合わせる…。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
「貴様ら、何事だ! 無礼であろう!」
レオストの部下が焦って叫ぶ。
すると、小部屋の方向に立つ兵士の後ろから、モールのついた立派な服装の男が現れる。
「あ、兄上…」
「レオスト、久しぶりだな。同じ王宮にいても弟に会えないとは寂しいものだな」
そう言って、レオストの前に立った。
カイルは驚いた。暗殺は今夜のはずではなかったが、目の前に暗殺対象が現れたのだ。
これはどう対処すればいい? カイルは思わずフライアを見た。フライアは指を唇に立てた。
(「黙ってろ」?)
「ふむ、レオストと男が4人か……“見える”のは5人だな」
王太子アル―ストがつぶやいた。
(え…?)
カイルはぎょっとした。
フライアがいない――いや、見えていないのか? 俺は?
(そうだ。剣を向けられても、未来視の絵が出てこない。俺もナスコムを掛けられている? いつから?)
最初のゾルダンの「一人か」を思い出す。
フライアは最初から、カイルを隠していたのだ。
アル―ストが憎々しげに言う。
「私をこの2人に殺させると言ったな。確かに聞いた。あの小部屋の裏でな」
アル―ストの後ろに控えていた小柄な男が何やら短い詠唱をし、魔法を発する。
「かしこまりました。では、ここに見張りを立て、王太子殿下を殺めることをお約束します。レオスト殿下の御ために。で、成功した暁には、わがブリアの割譲案の取り下げをお約束くださいませ」
「うむ。約束しよう。ブリア侯には安堵してもらえるであろうよ」
なんと、ゾルダンとレオストの声が再現された。
「言い訳はできぬぞ」
王太子は冷たく言った。そして、手を振り合図をすると、兵士たちがドタバタと動き、4人の男を縛り上げる。そして、レオストを無力化した。
そのドタバタした音のするあいだに、フライアはカイルの手をひっぱり、その音に紛れて倉庫を走り出た。
「私から離れないで!」
(フライア!)
カイルは昨日の意味がわかった。
(「しゃべるな」は「存在するな」の意味だった。最初から俺を隠すつもりだったんだ…)
そして今、親書は領主からのものではなく、フライアが仕組んだ罠だったと理解した。
“抜け道”の確認をエサにして、レオストをここにおびき出し、王太子を殺せると確信させた。
そして、王太子はその言質を取ったのだ。
(なぜフライアがその抜け道を知っていた? いや、フライアが知るはずはない。ということは、誰かがフライアに偽の親書を届けさせた? 王太子だけが知る抜け道…フライアは王太子派? …最初から?)
カイルは思い出した。
フライアはバンリオルの手駒――最初から王太子派だったのだ。
(フライアは俺の敵なのか、味方なのか?)
カイルの脳裏に新たな疑問がわいた。
だが、今はフライアと共に逃げるしかなかった。
第55話 サロンの夜
「ミナさん、準備はできましたか?」
バンリオルがうれしそうにミナの部屋に入ってくる。
「はい、これでいかがでしょうか」
オレンジ色のドレスを身にまとい、ミナはくるりと回った。
「とても良くお似合いですよ。すばらしい!」
ミナはドレスの端をつまんで一礼する。
「このような高価なものをいただきまして、大変恐縮しております」
「いやいや、馬車の中では大変楽しみました。番頭もかなり勉強になったようで、メモを本にまとめて、商会員用に配ると言っておりました。こんな機会をくださったお礼ですよ」
ミナは飛び切りの笑顔を返した。あれが番頭にも役立ったのはとてもうれしい。
「商人であれば、あのお話を聞いて興奮しない者などおりませんわ!」
思い出しても興奮がよみがえるのだ。そして、商売にやる気が出て来る。
このドレスは我ながらよく似合っており、サイズもぴったりに仕立てられていた。
今夜は王宮に行くのだ。王妃アリアラータのサロンで、気軽な立食の集まりだから、そんなにかしこまらなくてよい、とバンリオルは言った。
王妃はすでに63歳。サロンは文化的な集まりであり、王妃主催というのは名目上で、ほとんどは参加者たちの自由な交流の場なのである。
バンリオルの馬車は王宮の奥深くまで乗り入れることができる。そして、王妃の居住するクリナ宮殿と呼ばれる宮殿に停まった。
バンリオルに手を引かれ、ミナは馬車から降りた。
「ボリック・バンリオル様のおなり~」
侍従の1人が高らかに宣言し、バンリオルはミナの手を取り、堂々と王宮の花宮殿へと入っていった。
「ボリックさんは、大貴族と同等の待遇なのですね」
とミナは小声で言った。
「そうです。国王陛下も王妃様も、バンリオルを大変大事にしてくださっているのですよ」
バンリオルは誇らかに答えた。
サロンは毎回テーマがある。今日は、富豪たちの集まりで、富豪たちが文化振興について話す場であった。
話の主役は男性なので、女性はそばでにこやかに笑っていればよかった。
ミナは初めて入った宮殿を、隅から隅まで観察しようとした。
それは驚くほど豪華で、繊細で、優雅だった。
(アンドリオン様にいただいたあの小宮殿が、普通の家に見えて来る…)
それは正直なミナの感想だった。
この王都を基準にすれば、ブリア領一の都会、タンブリーもいなかの都市でしかないのだろう。
(そうか。だから、ブリアを割譲しても、アラゴンキアは痛くもかゆくもないのか…)
ミナは王都側のものの見方を理解した。
サロンで男たちが文化議論を繰り広げる中、ミナは着飾った人形のようにバンリオルの隣に座っていた。文化論は興味深い話だった。
話が中盤に入ったころだった。
「ご歓談中恐れ入ります。お嬢様、少しお時間をいただきたいのですが…」
王家の侍従の1人がミナに声をかける。
それにはミナも驚いたが、バンリオルも驚いた。
「なんのためだ?」と侍従に尋ねる。
「は、実は王太子殿下がぜひご令嬢にお会いしたいと…」
(え?)
目が点になる、とはこのことだろう。ミナにはまったく意味がわからない。
なぜ、王太子殿下が自分に会いたがる?
それはバンリオルも同様だった。
「人違いでは?」とミナが言うと、
「いいえ。こちらの黒髪のお嬢様をご指名でございます」
「なにゆえですか?」とバンリオルが侍従に詰問する。
「は、わたくしは理由を存じません。ただ、ご令嬢を連れてくるようにと…」
ミナとバンリオルは顔を見合わせた。そして、彼は言った。
「では、私も同行するが、それでよろしいかな? 私の大切な客人ですので」
「は、バンリオル様、大丈夫かと思われます」
そう言って、侍従は二人を隣のモガル宮殿と呼ばれる宮殿に案内した。
「いったいなんでしょうか?」
ミナは歩きながら、小声でバンリオルに尋ねる。
「わかりません。ただ、王太子殿下は私とは同じ方向性を持つ方です。ですので、私がいれば問題ないかと思いますが…」
「同じ方向性?」
「ああ、ミナさんはもしかすると、王都には2種類の勢力があることをご存じないでしょうか」
「はい?」
バンリオルは説明し始めた。
「王太子派というのは、ブリアにとってみると敵となりますね。
ブリア領をグリダッカルに割譲しようとしています。
そして、第二王子派はそれに反対しています。こちらはブリア領主の味方となります。
ご存じでしたか?」
「いいえ。詳しくは存じません。アンドリオン様は、王都はブリアを割譲しようとしているとはおっしゃっていました。でも、王都にはそれに反対する方々もいらっしゃるのですね?」
「そうです。第二王子派というのは、ブリア領主と同じ考えなのですよ。ただ、こちらは勢力があまりありませんから、単に『王都』と言う場合、王太子派となります」
「なるほど。理解しました」
「そして、私も王太子派なのですよ。王家にはお世話になっておりますからね」
「まあ、そうなのですね」
「ミナさんはどう思われますか? 戦争をしないためには…」
「うふふ。それに関しては、すでにボリックさんにご協力いただいていますわ」
「え?」
そんな話をしているうちにモガル宮殿に着いた。
「こちらで、王太子殿下がお待ちでございます」
そう言って、侍従は衛兵に扉を開けさせた。
二人は中に入っていく。
「バンリオル、そなたも来たのか。ご苦労である」
それは、40代半ばの精悍な男、裾の長い豪華な上着を着たアルーストだった。
「は、王太子殿下にはご機嫌うるわしゅう…」
ボリックは片膝をついて礼を取る。
アルーストは濃い栗色の髪が短く整えられ、端正な顔立ちをしていたが、切れ長の目は鋭い。深い琥珀色で今は苦悩に満ちている。
ミナはどうすべきかわからなかったが、ミナが礼を取る前に、アル―ストがミナに向かって歩いてきた。
「エカーリア。そなたは王都に来ていたのだな」
「は?」
ミナは頭が真っ白になった。
逃げるカイル。今、カイルの命はフライアの手にゆだねられている。
フライアは彼をどうするつもりなのか?
一方、ミナはブリア領主の長女エカーリアと間違われて王太子の前に…。
いつの間にか暗殺事件に巻き込まれているミナ。王太子に何を言うのか…。次回をお楽しみに。
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ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。ブリア領の行政顧問になる。
レオスト… 第二王子で、ブリアの味方
王太子アル―スト … ブリアを敵国に割譲しようとしている
フライア … 認識阻害魔法を使う女魔法使い
カイル…ミナを助けた冒険者。騎士団の工作員となった
ゾルダン … ブリアの工作員
バンリオル … 王都の大商人
アンドリオン… ブリア領主の息子
エカーリア … アンドリオンの妹。パニック障害でミナが指導をしている




