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カイルとフライアの王都侵入 (第52話)

豪華な暮らしを楽しむミナ。一方、ブリア領主から王太子暗殺任務を言い渡され、悲痛な思いで王都に来たカイルは…

「城門ではこれを出して」

 フライアがカイルに小さな札を差し出した。それは偽の身分証だ。


そもそも身分証は改竄できない仕様になっている。しかし、死者の死を記録しなければ、それは別の人間が持つことができる。そういうたぐいの偽の身分証は、ひそかに領地間で取引されていた。

ブリアの工作員たちは皆これを持っていた。


 カイルとフライアは近隣の街で乗り合い馬車を降りて、徒歩で城門にやってくる。このほうが目立たないからだ。


 無事に城門を通ると、フライアは迷いなく進んでいく。喧噪の商人街の華やかさに、カイルは目をみはった。冬にも関わらず、今まで見たこともない活気なのだ。4階建ての建物がずらりと遠くまで並ぶ。

通りの幅が広いので見た目では圧迫感は感じないが、建物の下に立つと、かなり圧迫感を感じた。


「カイル、こっちよ」

 フライアは王都に慣れていた。どこに続くかわからないような小道を歩いていく。

「まず行くのは、『テラスの導き』と協力しているブリアの工作員の集まるところよ」


「テラスの導き」は道中で聞いていた、第二王子レオストの秘密組織だった。「テラスの導き」と「シーラの加護」は連携して、王太子アルーストの暗殺を計画していた。しかし、「テラスの導き」はなかなか動かず、まだ実行されていない。


「結局、レオスト様も自分に疑いが及べば王位につくことはできない。まだ国王陛下は退位なさっていないからね。だから慎重にならざるを得ないのよ」 

 フライアはそう説明した。


 目的の酒場の裏口のドアを叩き、二人は中に入っていく。

最後の扉をノックして、「シーラの加護」とフライアは言った。

 扉が内側から開けられ、二人は中に入った。


「フライア、久しぶりだな」

 30歳くらいの中肉中背の男が一人と、もう少し細身の若い男がいる。

「そいつは?」

 若い方が聞いた。


「カイル。今回の戦闘員よ」

 カイルは黙っていた。

「なるほど…。まだ若いじゃないか。腕は大丈夫なのか?」


 30代のほうがカイルをじろりと見た。

「腕は確かよ」とフライアが言い、二人も座った。


(いや、腕が確かでも意味がないだろう…)

カイルは心ひそかにそう思った。どうせわざと失敗する予定なのだ。腕が良くない方がましではないか。


「おれはゾルダン、こっちはゼルンだ。よろしくな」

 30代の男がゾルダンで、若い方がゼルンだ。カイルは頷いた。まるで話し方を知らないように。


「大変なことになったな…」

「ええ…」

 ゾルダンがしかめっ面で言い、フライアが苦しそうな顔で受けた。


「まあ、計画としては、何度も練っている。ただ、どうしても秘密裏に、というのが難しい」

「毒とか、魔法とか?」

「ああ、向こうの護衛に何人もの魔法使いがいるし、なかなか城の深部にはたどり着くことができん。ま、フライアなら…」

 と言いかけて、ゾルダンはうなった。


「4人で行くとして、城の深部にこっそり行くまでに何分かかると思う? 30分はかかるんだ」

「そんなに?」

「ああ、王宮のヒデラ門から深部までは、5つの門がある」


「レオスト様は今、城のどこにいらっしゃるの? 少なくとも、そこにたどり着ければ、そこからのほうが近いでしょ?」

「明確な敵同士が近くにいるわけがないだろう。王宮と言っても大きい。端と端だ。だから、ヒデラ門から行くのと、あまり変わらん」


「レオスト様に領主からの親書も預かっているの」

「そうか」


 カイルは親書など、初耳だった。しかし、フライアにすべて任せているので、特に気にもしない。

 カイルはそんな話はどうでもよかった。どうせ成功することを目的としていないのだ。

 しかし、ブリアに疑いがかかる程度に、悪意を向ける必要があるのである。


 そんな小細工は自分にはできない。フライアはできるのだろう。

(進化した世界から、今の俺に望むこと。それをする…)

 カイルはそのことばかり考えていた。


 暗殺はもちろんのこと、暗殺のフリも、進化した世界が自分に望むとは思えなかった。

 なのに、自分はここにいるのだ。なぜだろう?


「レオスト様も最近はかなり疑心暗鬼になられてな。王太子側に自分が暗殺されるのではないかと思って、城の外には出られなくなった。だから、城に持っていくしかないな」

「そうなの…」


 そうなると、暗殺のためのバラバラの身分証明書では一緒に門を通りづらい。

「わかった。一人で行くしかないわね」

「まあ、お前ならレオスト様はご存じだしな」


「わかった。まずは、レオスト様に親書をお渡しに行くわ。それまで動かないで」

「了解した」

「カイル、帰るわよ」

 カイルは黙って、フライアについていった。


 次の日、フライアは出かけ、カイルは留守番だ。フライアはいつもの冒険者の服装ではなく、女性らしいドレスにマントを着ていた。そして、いつも長く垂らしている薄い茶色の髪を結いあげ、ケープを巻く。すると別人のようだった。


「一人でうろうろしないでよ。気を抜かないことね。ここは戦場よ。剣じゃなくて情報のね。いつだれが自分を見ているかわからない。工作員は私たちだけじゃない。そこら中にいるのよ」

 カイルにそう言い残して、一人で出かけて行った。


 フライアは王宮のヒデラ門を抜けていく。そこから王宮の敷地内に山ほど立つレンガ造りの建物の一つに入っていく。

 ここは、レオスト直属の配下の者が集まる隠された詰所だ。


 ドアを叩くと誰何され、「フライア」と答えた。

 ドアが開けられ、大きな男がフライアを迎えた。

「おう。久しぶりだな。王都に何の用だ」


 中に入り、勝手に椅子に座ると、フライアは書簡をテーブルに出した。

「これは、ブリア領主からレオスト様への親書よ」

「……何かあったのか?」


「親書の内容は知らない。でも、アンドリオン様がフレスタで暗殺されるところだった。それについての裏を調べたら、王太子の影が見えた」

「…そうか。ということは…」


「あくまで私の推測よ。王太子派はかなり積極的に動き出したということ。だから、レオスト様も気を付けていただかなければ…。領主様も『もう、やるかやられるかの時だ』とおっしゃっていたわ。だから、私が来た」


「そうか。…で、これをレオスト様に渡せと?」

「そう。私では中まで入れないでしょ?」


「あ、ああ。まあな。わかった。お渡ししておく」

 それを聞いて、フライアは立ち去った。


身動きが取れないカイル。暗殺任務を言い渡された以上、逃げても追われる。成功することもできない。失敗して放浪者になるしかないのか?


一方、ミナはすっかり令嬢暮らしになり…。


次回は、暗殺事件前夜…。


ブックマーク、ありがとうございます! まだの方も、どうぞよろしくお願いします!

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