ふたりの王都行。ミナの策略と、カイルの絶望の任務(第49話)
ミナが王都行を勝ち取る方法は…?
一方、カイルも王都に…?
ミナに阻止できるなどと信じられないアンドリオンは他の可能性を考える。
「ね、念のために聞くが…。君は魔法使いではあるまいな?」
「わたくしは普通の人間でございます」
あきれたようにミナは答えた。
「わかった…」
彼も立ち上がった。魔法を使うわけではないなら、自分が負けるなどと思えなかった。なにしろ、子供のころから剣を学んでいるのだ。
「その前に、まずお約束してくださいね。わたくしにアンドリオン様がのしかかる。それをわたくしが阻止する。そしたら、ボリックさんに同行する許可をくださる。それでよろしいですね?」
「ああ、それでいい」
アンドリオンは決意した顔で約束した。
ミナはソファから離れて、広い場所に移動した。この部屋は絨毯が敷いてあるから、そう痛くはないだろう。
「後ろからどうぞ」
後ろ向きに立って、アンドリオンがミナにのしかかるのを待つ。
アンドリオンが後ろから力いっぱい羽交い絞めにしようと腕をからめた瞬間、息を落として半歩足をずらし、彼の右腕を下に向けてひねると、身体が浮き上がるようにして倒された。
「な、なに?!」
倒されたアンドリオンは何が起きたのかわからず、茫然とする。
「もう一度、前からいらっしゃいますか?」
「よ、よし…」
アンドリオンは立ち上がって今度はミナに前から力いっぱい抱きつこうとする。
すると、ミナは彼の右腕と身体の間にすっと自分の腰を入れ、そのまま前に進むと、アンドリオンはみごとに後ろに転倒する。彼が頭を打たないように、ミナが少し支えた。
アンドリオンは天井を見ながら、しばらく茫然としている。
「な、なにが起こった?…」
絨毯の上に倒れたまま、こちらの顔を覗き込むミナを見る。
「アンドリオン様、お約束通り、わたくしはバンリオルと王都に行かせていただきますね」
そう言ってミナは笑った。
「ミナ…」
ゆっくり立ち上がると、アンドリオンは改めてミナにそっと近づいた。そして、ミナの腕をそっと握る。
「ちゃんと帰って来いよ。必ずだぞ。君はもう私の行政顧問なのだぞ。だから、帰ってきてくれ…」
あまりにも心配そうに言うので、ちょっとほだされる。
(本気で心配なんだ…。帰ってこないなんてありえないのに)
「ちゃんと帰ってまいります。ご安心ください」
安心させるように、まじめに言った。
「ああ…」
そう言って、アンドリオンはそのまま腕をひっぱり、やわらかくミナを抱きしめた。
(くく…、投げ飛ばしていい? だめ? これ、負けてる?)
ミナは、投げ飛ばそうか、そのままにしようか、迷うところなのであった。
* * *
同じ日の午後の遅い時間、ラフカーンはフライアとカイルを「シーラの加護」に呼び出した。そして、テーブルにちいさくまとまり、小声で話す。この部屋では小声で話す必要はないのだが。
「恐れていた事態になった…」
ラフカーンはため息をついた。フライアは黙っている。
「なんの話ですか?」
カイルはなんのことかわからない。
「領主様は今回の暗殺事件で、かなりお怒りだ」
それはそうだろう、とカイルは思った。大事な息子が自分の領地の貴族に襲われたのだ。騎士8人も未だ捕らえられたままだ。それを救出する必要もある。ラフカーンの苦悩も大きいだろうとカイルは思った。
「お前さんは知らないだろうが、このブリアは第二王子レオスト殿下派でな。王太子アル―スト殿下派とは敵対している。それも当然で、アル―スト殿下がブリア割譲論を唱え始めたからだ。
しかも、それは他の貴族たちの支持を集めている。そして、レオスト殿下は、それに反対している立場だ。グリダッカルに媚びてブリアを売るのかと。
だか、もちろん、アルースト殿下はすでに王太子だ。アルースト殿下の身に何かない限り、第二王子であるレオスト殿下は王位につけない」
つまり、アルーストを暗殺しなければ、レオストにチャンスはないということだとカイルは理解した。
「まさか、領主はそれを実行しろと?」
フライアが顔を曇らせた。
「目には目を、なのだろう。今回の暗殺事件はシューマイルの一存であると申し上げたのだが、根源はアルースト殿下であると。まあ、それは間違いではない。しかし…」
ラフカーンはカイルを見た。
「わかるか? もしアルースト殿下を亡き者にすれば、次は何が起きるか?」
「内乱?」
「かもな…。少なくとも、アルースト殿下を支持するものは多い。だから、その者たちが、レオスト殿下が王位につくのを阻止するだろう。国が大混乱を引き起こすのは間違いない」
「大混乱になれば、グリダッカルが攻めて来るわ」
「…だな」
フライアの言葉にラフカーンが同意した。
「では、どうしろと?」
カイルの問いにラフカーンは目を伏せ、一呼吸おいて答えた。
「俺は、この命令を出さないということはできんのだ。それは反逆罪だからな」
「つまり…?」
カイルは続きを求めた。
「俺はお前たちに命令する。『彼のかた』の暗殺をせよ。…だが…」
そこでラフカーンは言葉を切った。
「わかったわ。その命令、受けたわよ」
フライアがその言葉を引き取る。
「行きましょ、カイル」
カイルはわけがわからなかった。
しかし、フライアはカイルの手を強く引っ張って、部屋を出ようとする。
「ラフカーン。世話になったわね」
そう言って、ラフカーンをあとに、「シーラの加護」の部屋の扉を閉めた。
「フライア。どういうことなんだ?」
急ぎ足で戻る道の途中、小道の建物の壁にフライアを追い込んで、カイルは詰め寄った。
「わからないの? ラフカーンは私たちを切り捨てたってことよ」
「切り捨てた?」
カイルはザっと毛が逆立ったのか、自分の身体の反応を感じた。
「ラフカーンはああ言わざるを得ない。私たちは王都に行かなければならない。そういうこと」
「切り捨てたっていうのは?」
「カイル、あんたはまだ騎士団員じゃない。冒険者よ。私も冒険者。だから、冒険者が王太子を殺そうが、勝手よ。つまり、ブリアは私たちを自分の領民ではないと言えばいいだけのこと」
カイルは混乱していた。何をどう言えばいいか、わからない。
「え…」
「つまり、私たちが捨て駒になればいいってことね」
「え、でも、王太子を殺せば戦争になるんだろ?」
「そうよ。それはほぼ確実だわ」
「じゃ、どうするんだ?」
「わざと失敗する。それだけよ」
「わざと失敗する? で、俺たちはどうなる?」
「逃げるのね。そして、どこか、見つからないところで暮らす。少なくともブリアには戻れないわ。成功しても地獄、失敗しても地獄。でも、“失敗の仕方”なら選べる。私たちが死なない失敗をするの」
カイルは壁にげんこつを打ち付けた。
(ブリアに帰れない?)
カイルの頭の中で、家族の顔が駆け巡った。
「そんな…」
騎士団に参加して、誇らしかった日もつかの間。カイルは地獄に落ちたように絶望した。
いったいどうする…?
次回は、家族やミナと会う最後の機会になると思って、実家に戻るカイル…。そこでミナに言われたことは…。
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