第34話 リックの動く八百屋
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、なぜか異世界に来てしまった。そして、なんとか生活力を身につけようと、野菜買い取り事業をする商会を作った。領主の息子を巻き込み、大商人を巻き込んで、順調に進んでいた。あるとき、ミナに声をかけて来るリックという男に、「移動野菜売り」のアイデアを言ったところ、彼はそれを実行すると宣言した。すると…。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
ミナはレイと共に、納入が終わった後、いつものように市場にいた。
前にリックが言っていた言葉が気になっていたのだ。
あれから1か月ちょっと。トージャーが言うには、プライク商会にも特に問題は起きていなかった。
野菜を売る業者が定期便のせいであぶれているとしても、今は野菜が一番よく売れる時期なので、結局どこかで売れているのだろう。
また、祝祭が近づくと野菜が足りなくなることもあるくらいだから、祝祭が終わるまでは問題がないかもしれない。
「ミナ、あれ見て」
レイが広場から伸びる通りの一つを指さした。それは野菜を乗せた屋根付きの荷馬車だ。
「あの荷馬車、さっき、そこの飯屋に停まってたよ。野菜を売っているんじゃないか?」
「え、そうなの?」
レイと二人で、こっそりと荷馬車の後ろをついていくことにした。荷馬車をよく観察すると、「リックの動く八百屋」と書いてある。
「リックだって! あの人だろ? マロのステーキの…」
レイが変な思い出し方をする。
「うん。そうみたいね…。あの人、本当に始めたんだ。それにしても動きが早い。びっくりね。これは相当な資本か人脈を持っているってことよ」
「いったい、何者なんだろうな…。あの店、夜にならないと開かないし、あれから俺たち、あの人、見てないよね」
「うん…。ま、勝手にやってくれればそれでいいけど…。あぶれた業者に仕事を与えてくれているんだし。こっちは助かるわ」
「そっか」
荷馬車は別の飯屋の前に停まり、御者は野菜を積み下ろして飯屋の中に入っていく。しばらくすると、御者が飯屋から戻ってきて、また荷馬車は動き出した。
「ちょっとあの店に偵察にいきましょう」
「それって、そこで食事するってこと?」
「そういうこと。私がおごってあげるから」
「やった!」
飯屋は庶民的な設えで、20人くらいの席があった。二人できょろきょろしながら入っていく。
「らっしゃい!」
出てきたのは、少し太った初老の親父で、片足を軽く引きずっている。
「ええと、シチューと…レイは?」
「俺、マロのステーキ!」
「…じゃ、それで」
「へい」
(足が悪いのかな。だったら、移動販売は助かるよね)
ミナはそう観察していた。
しばらくして料理が運ばれてくると、ミナは親父さんに聞いた。
「ねえ、おやっさん。さっき、『リックの動く八百屋』っていう荷馬車が停まっているのを見たけど、あそこから野菜を買ってるの?」
「ああ、そうだよ。野菜だけじゃない。チーズや油なんかも届けてくれて、便利だね。肉も先に頼んでおくと次のとき持ってきてくれるんだよ」
「へえ~、そうなんだ…」
ミナは心の中でかなり驚いた。
(こ、これは、ワンストップ戦略…)
つまり、一つの店ですべてのサービスを賄う最強の戦略だ。言うは簡単だが、実行は難しい。
たかがレストランのオーナーができるとは思えない。
人脈を使ったとしても、こんなことができる人がこの街にいるなんて?
「で、あの店、いつから来てるの?」
「10日くらい前かな。なんだ、おねえちゃん、あれに興味あるのかい?」
「うん。だって便利でしょ? 重いもの、運んでくれるなんて」
「んだな。助かってるよ。俺はこんな足になっちまったから、もう仕入れが大変でさ。店を閉めないといけないかと思ったんだよ。でも、こんな便利なものをつくってもらってさ。
さすが、バンリオルのだんなだな。若いのに、俺たちのことも考えてくださる。ありがてぇ」
「え、…バンリオル?」
「そうだよ。知らないのかい? このあたりじゃ有名な商会だよ」
「そ、そうなんだ…」
親父はそのまま厨房に戻っていく。
ミナは混乱して頭が真っ白になった。
「なに? バンリオルって? ミナ、知ってるの?」
「し、知っているも何も、トージャーさんとこの一番の顧客、つまり、うちの最大の客よ!」
「えっ、てことは…? どうなっているんだ?」
「うわ~!! 私、とんでもないこと言っちゃった!!」
ミナは自分が言った言葉を思い出した。
「水をわざと掛けたことは許しておりません」とかなんとか。しかも、終始つんつんした態度で。
「ま、仕方ないだろ。向こうがミナに意地悪したのは事実なんだし」
レイは運ばれていたステーキにむしゃぶりつきながらしゃべる。
「ひゃ~……」
ミナはシチューがのどを通らなくなった。ムンクの叫び状態だ。
「まずい、まずい…」
「まずいなら、俺が食べてやるよ」
「いや、まずいのはシチューじゃないわ…。ああ~、知らなきゃよかった…」
「観念しなよ。あの人、ミナのこと、怒ってないと思うよ。こうやって、移動販売やっているんだし。それで儲かるならミナのおかげじゃん」
「あんたはほんと、のんきね…」
とにかく、絶対に会ってはならない人だ。あまり市場のあたりをうろうろできなくなってしまった。
「大丈夫だよ。会っても、知らない顔すればいいじゃん。こっちがあの人の正体を知ったとか、向こうは知らないんだから」
「な、なるほど…。それでも会いたくない。絶対!」
この店を出たら、あの人に会ってしまいそうだった。
「レイ、どんどん食べていいわよ。もう二度と市場をうろうろしないから」
「ほんと?! じゃ、焼き鳥も注文する」
「野菜も食べなさい!」
リックの正体を知ってしまったミナ。大商人とミナとの関係は?
用語集
ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。のちのブリア侯行政顧問
レイ … ミナの世話になっている一家の若者。
トージャー … ミナの取引先プライク商会の一員
リック … ミナにちょっかいを出す飯屋の主人。実は大商人バンリオルの仮の姿
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