第35話 フライアという女
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、なぜか異世界に来てしまった。そして、なんとか生活力を身につけようと、野菜買い取り事業をする商会を作った。領主の息子や大商人を巻き込んで、順調に進む。一方、カイルは騎士団長ラフカーンの強者のオーラに魅せられて…。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
カイルは騎士団見学の日以来、焦っていた。自分の剣がまったく通用しない相手に初めて会ったのだ。
そもそも、オルトとセロ、父のヨードンとしか模擬戦をしたことがない。
一人になってから、人間相手に模擬戦をすることはしばらくなかった。魔物は剣を振らないのだから、対戦にならない。
(騎士団か…)
ラフカーンの姿が頭に何度も浮かんでくる。彼が発する最強の者が持つオーラに魅せられた。入りたくないが、学びたい。
カイルは葛藤していた。
迷った挙句、カイルは再び騎士団を訪れることにした。しかし、一人で中に入ることはできない。
そこで、城門付近で、騎士団が出てくるのを待つことにした。今日で3日目だが、まだ出てこない。
「ねえ、あんた…」
後ろからいきなり声を掛けられて、カイルは振り返った。
そこにいたのは、バンリオル商会に入っていったあの魔法使いの女だ。
今日は前とは違う、女の冒険者らしい服装をしていた。
スカートではなくズボンと、腰までのチュニックにベルトをしている。顔も違って見えたが、体形や雰囲気であの魔法使いだと認識した。
「エルノー村の人でしょ。ここで何をしているの?」
「関係ない」と言いたかったが、一呼吸おいて、素直に言ってみることにした。
「騎士団長に会いたくてここで待っている」
「ふうん…」
女は少し考えていた。
「なんで会いたいの?」
「稽古をつけてもらいたい」
女は少し目を見開いて、にっこりした。
「前向きなのね」
「強くないとやられる。それだけだ」
「それは同意するわ」
女は少しフフッと笑って、周りを見回し、それからカイルに言った。
「私が案内してあげる」
「え?」
カイルは驚いた。
「なんで?」
「どうしてそんなことができるんだ」と聞きたかったのに、思わず「なんで」と言ってしまった。
「あなたが気に入ったから。私にデタラメ言ったでしょ?」
ユーリカのことをでたらめな名前を言ったのは覚えているが、何て言ったのか忘れてしまった。
「私、図書室に行ったのよ。あの香りを調べにね。そしたらあなたが嘘の名前を言った。でも、司書に聞いたら、それはすぐに嘘ってわかったわ。
でも、本当の名前はまだわからない。それを教えてくれたら、私が騎士団長に案内してあげる」
「ユーリカだ」
「で、あなたの名前はカイルね?」
「なんで知ってる?」
「愚問ね。あなたのすぐ後に図書室に行ったのよ。名前、利用者名簿に書いてあったわ」
カイルは驚いていた。そんなもの、そこで見たとしても普通は覚えていないだろう。でも、ミナを調べていたのだから、自分のことも調べたのかもしれなかった。
そう、この女はカイルが正体を掴んでいることを知らない。
「私はフライア」
女は自ら名乗った。
「ついてきて」
そう言って、カイルの手を握って、ひっぱった。
城門で、女は顔パスだった。そして、騎士団本部に行き、入り口の受付の兵士に話しかける。
「ラフカーンはいるかしら? フライアが会いたいって言って。客を連れてきたからって」
「は、かしこまりました」
兵士の1人が走って奥へ行く。
しばらくすると、兵士が帰ってきて、二人を案内した。建物の二階にある騎士団長の執務室に入っていく。
「ラフカーン!」
フライアは気軽そうに近づき、男をハグした。
「フライア。どうした?」
「この人、連れてきたの」
「ああ…、君は、ええと…エルノー村の冒険者だったな」
ラフカーンはカイルを覚えていたようで、カイルは少し安心した。
「突然押しかけてすみません。俺は、あなたに稽古をつけてもらいたいんです」
礼儀正しく頭を下げた。
「ほう…。騎士団員になる気はないんだろ?」
「ないです」
カイルはきっぱりと言う。
「ふむ…」
ラフカーンはおもしろそうにカイルを眺めた。
「じゃ、私は他に行くところがあるから」
フライアは出口に向かった。
「カイル、またね」
出口でカイルに親し気に手を振る。
「フライアとはどんな関係なんだい?」
ラフカーンがにやにやしながら、腕を組んで机に寄り掛かっている。
「いや…、さっき会ったばかり…かな? いや、前にも会いましたけど…会ったとは言えないかな?」
「ほう?」
カイルは曖昧な話をした。しかし、その意味がラフカーンには通じたようだ。
「フライアに気に入れられたようだな。まあ、座れ」
カイルは勧められたソファに座った。ラフカーンは立って机に寄り掛かって腕を組んだまま、カイルに話し始めた。
「お前さんに稽古をつけてやらんでもない。だが、そっちからの提案はなんだ? 何もないんじゃ、俺の働き損だろ?」
カイルはしばらく考えた。当然、何かの支払いが必要だろう。
「稽古をつけてもらっている間は、何かの依頼があれば、仕事をします」
「ふむ…」
ラフカーンはしばらく考えていた。
「ま、いいだろう。お前さんは確かに腕が立つ。騎士団でも欲しいくらいの腕だ。それなりに危険な仕事をしてもらうぞ。それでいいなら稽古をつけてやる」
カイルは立ち上がって、礼をした。
「よろしくお願いします」
カイルはその先、どんな運命が待っているか、まったく想像していなかった。
次回は、アンドリオンがまたミナに知恵を求めます。
用語集
ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。のちのブリア侯行政顧問
カイル…転生したばかりミナを助けた冒険者。ミナを自分の家に連れてきた。
オルト、セロ… かつての冒険者仲間
バンリオル商会…ミナの商会の大手の顧客
ユーリカ…薬草
ラフカーン …騎士団長。カイルには歯が立たないほど強い
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