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第34話 カイル、騎士団長ラフカーンに出会う

自分の実力を超えたものと対峙する、カイルとアンドリオンであった…

 10月になると、若者を集めるために報奨として企画した騎士団見学会が開催される。 カイルはそれに参加するのをとても楽しみにしていた。


「どうするんだい? 兄貴。もし、『おぬしは見込みがある。騎士団に入れ』って言われたら?」

とレイがからかうように言う。

「入らねぇ」

 とカイルは一言で流す。


 一応、剣を腰に差し、革鎧をつけて、出かけて行った。

 村の集合場所に来て、カイルはムスッとした。そこに集まっていた中に、村の冒険者たちがいた。

(ま、予想はしてたけどな…)


 村にはカイルとクルム以外に、冒険者が5人いる。そのうち、見学会参加資格のある25歳以下の若者は2人だ。その2人はかつて、カイルと一緒に狩りをしていた仲間たちだった。

 カイルとファルクと、計4人のパーティーだった。ファルクが死んでからはカイルは昔の仲間と一緒に狩りをすることはなくなった。


 さすがにクルムはいなかった。ミナが受付をしていたから、参加したくても申し込みにくかったのだろう。


「よう、久しぶりだな」

 昔の仲間の1人、オルトがカイルに声をかけた。カイルよりも3つ年上で、体格もカイルと似ている。そばにはもう一人の仲間、セロがいた。

 セロはカイルと同い年だ。長いグレーの前髪で顔が半分隠れている。


「ああ、元気か?」

 カイルはこの2人にはなんのわだかまりもなかった。ファルクが死んだことをカイルのせいにしたのはクルムだけだ。だが、また似たようなことがあるのは嫌なので、一人で活動するようにしただけだ。


「お前、セイルフェンを狩ったってな」

 オルトが言った。

「なんで知ってるんだ?」

「ソリにセイルを積んでるのを見かけたやつから聞いた」

「ああ…」


 セイルフェンは、普通は一人で倒せない。風魔法を使う魔物にはなかなか近づけない。弓も効かないし、剣は届かない。普通は見たら逃げるのだ。


 リントンが引率役となって、10人の参加者は歩き出した。

 タンブリーまでの道々で、カイルは二人と話をしながら歩いた。


「俺たちは最近、雇われ仕事が多くてな…」

 オルトは少し声を潜めて話した。

「雇われ仕事?」

「ああ。報酬はなかなかいいぞ。お前はどうだ? 一緒にやらないか?」

「…いや、俺はいい」


「魔物を相手にするより、危険は少ない。だから、俺たちは気に入っている」

 そう言って、オルトはセロと顔を見合わせた。

「そうか…」


 魔物を相手にしない雇われ仕事で報酬が良いというのは、どこかの貴族の隠密の仕事か、諜報だろうとカイルは思った。

(どっちもやりたくねぇ…)


 騎士団の訓練所は城の敷地内にある。城内で働いていたリントンが引率をしているので問題なく入れるが、普通は村人が入ることはできない。


 騎士団の訓練所は大きな体育館のような長方形の建物だ。リントンが来訪を告げると、担当者が案内してくれた。広々とした室内に24本の太い円柱が立ち、高い天井を支えている。左右の壁には上から見下ろせる中二階のような観覧席がある。村の見学者たちは、まずはこの中二階に座り、騎士団員の訓練の様子を見る。


 室内では30人ほどの騎士たちが2人ずつ組になり、木剣を使って模擬戦を行っている。それを周りで見学している騎士たちがまた30人ほどいる。こちらは少し若い騎士たちのようだ。交代で場所を使うのだ。


 カイルは興味深そうに騎士たちを眺めた。騎士たちの服装は制服で、みな同じ服装をしていた。髪の毛の色や体格で区別する。

(みんななかなかの腕だな…)

 カイルは予想以上の腕前に驚いた。なかなかの迫力で、手に汗を握る。


「おっ、すごいのがいるぞ」

 とオルトが一人の騎士を指さして、セロに教える。

 カイルもその指を追うと、確かにひときわ強そうな騎士がいた。

 黒い巻き毛のその騎士は、楽しそうに剣を振り、相手を圧倒していた。


 しばらく上から見学したあと、模擬戦が終わり、騎士たちが休憩に入る。そこで見学者たちは下に降りるように指示された。見学者たちが並ぶ前にやってきたのは、あの黒い巻き毛の男だった。


「やあ、騎士団へようこそ。俺は騎士団長ラフカーンだ。よろしくな」

 木剣を床に突き刺すようにして持ち、にこやかに挨拶をした。日に焼けたつややかな肌の、30代半ばの精悍な男だ。品の良い顔立ちが貴族出身だと思わせる。


「今、模擬戦を終えたのはうちの精鋭たちだ。これから、もう一組の騎士たちが模擬戦を行う。彼らはまだ新米の騎士たちだ。よかったら、君たちも模擬戦に参加しないか?」

「え…」


 あちこちで戸惑いと期待の声が漏れた。

カイルは興奮を抑えきれず、一歩進み出た。


「参加します」

「俺も」

「俺も」


 結局、村人全員が模擬戦に参加することになった。持参の剣を外して、木剣を借りる。

一部の騎士たちが村人たちの相手をする。残りの騎士たちは騎士同士で訓練だ。


「タ~!」

「ヤ~!」

 掛け声とともに一斉に戦いが始まる。木剣のぶつかり合う音が建物中に響く。

 カイルの相手は血気盛んな若い騎士だが、腕は圧倒的にカイルが上だった。あっという間に青年は負けて「ま、まいりました」と引き下がる。


 それを見ていた別の騎士が、対戦していた相方の騎士を止めて、カイルの前にやってきた。

「今度は俺が相手だ」


 そう言ってカイルと戦い始める。しかし、わずか数太刀でカイルに足を打たれてしまった。

 カイルは6歳の頃から父ヨードンに剣を鍛えられた。そして、10歳の頃から父について魔物狩りに行き、真剣な戦いを重ねてきた。だから、騎士と雖も簡単にカイルには勝てない。

 その騎士と戦っていた相方のほうが、「次は俺だ」とカイルに打ち込んできた。


 あちこちで剣士たちが戦っているので、音や声も激しく、建物中に反響する。普段はなかなか体験しない活気に、カイルも興奮してきた。剣の切れがますます良くなり、動きが速くなる。

 セイルフェンが撃つ風の刃を剣で斬るときの素早さで、騎士の足を薙ぎ、胴を薙ぐ。寸止めするとはいえ、剣がぶつかりはするので相手は痛みを感じる。


「ぐぇっ!」

 騎士が倒れる。遠くでそれを見ていたラフカーンが、カイルのそばにやってきた。


「お前さんは相当な腕のようだな。名前は?」

「カイル」

「カイルか。俺が相手をしよう」


 ラフカーンの身体は美しく鍛えられていて、シャツの上からもその筋肉が見て取れた。カイルは思い切り打ち込み続けたが、ラフカーンはそのすべてを剣で受けとめる。カイルが攻め、ラフカーンが守るその戦いはかなりの時間続き、ラフカーンの守りは決して乱れない。


 カイルも、この男が並みの男ではないことを悟った。

「どうした? そこまでか?」


 ラフカーンがカイルを煽る。カイルはいったん距離を取り、突きを狙い、躱されると上から薙ごうとしたが、そのカイルの剣が弾き飛ばされた。床に落ちた剣が大きな音を立てる。


その音を契機にラフカーンが言った。

「練習やめ! 休憩!」


 カイルは負けを悟り、ラフカーンに礼をして下がろうとした。

「カイル。お前は冒険者か?」

ラフカーンがカイルに尋ねた。

「そうです」


「ふむ。冒険者にしては良い剣筋だ。どうだ。騎士団に入らないか?」

 にやにやしながら、ラフカーンは言った。

「なりません」

 そう言って、カイルはまた一礼して、外していた剣を取りに行き、リントンがいる壁際に歩いて行った。


 ラフカーンはおもしろそうにカイルをしばらく眺めていた。


 村人たちが全員リントンのそばに並ぶと、ラフカーンは言った。

「今日はなかなか有意義だった。君たちも騎士団がどんなものか理解してもらったと思う。騎士団は実力さえあれば平民でものし上がれる場所だ。最初は従卒からだが、実力次第で、騎士の身分が与えられる。やる気のある者は歓迎する。もし、入団したいという者がいたら、ぜひまた来てほしい。以上だ」


 そう言って、踵を返し、建物の中央に戻っていく。案内係に促されて、村人たちは全員建物を出た。


「カイル、騎士団長と戦ったのか? どうだった?」

 オルトが聞いた。

「手も足も出なかった…」

 カイルが一言つぶやいた。


                    * * *


 アンドリオンは考え込んでいた。領主の父に託された仕事は城壁の強化だ。しかし、人夫が足りない。労役だけでは集まらない。

 労役は9カ月の期間内に済ませればいいので、ある程度仕事を選べる。城壁の修復のような力仕事には集まりにくいのだ。

 労務者を雇えば金が必要だ。


 ミナのアイデアを何度も反芻する。しかし、自分が領主一族の生まれであるため、何を庶民が喜ぶのかがいまいちわからない。

(騎士団の見学? 村人の交流会? 祝祭の席? なんだ、そりゃ…)


 そこへロエルとラッシェンが戻ってきた。

「お前たち、報奨の件、何か考えたか?」


 すでにアンドリオンに何度か同じことを聞かれている。しかし、この二人も貴族出身なので、適当な返事しかできないのだ。


「こないだ俺が言った案はダメなのか?」

ラッシェンがアンドリオンに不満げに言った。

「お前の案はイロだろう。そんなもの、ダメに決まっているだろう」

「なんでだ?」

「ミナは『名誉』を与えろと言ったのだぞ。色事を与えて家族に自慢できるか」

「ミナは貴重な楽しみを与えろとも言ったんだろう?」

「お前は単純すぎるんだよ」

 アンドリオンはため息をつく。


「ロエルの案はなんなんだ?」

 ロッシェンがロエルを横目で見る。

「俺の案は…人夫たちに酒を飲ませてやることだ」

「却下だな」

 アンドリオンは手を縦に三度振った。


「金がかかるだろう。あいつらは飲むぞ。際限なく」

 ロエルは頬杖をついてアンドリオンを下から見上げるように見る。


「だいたい、無理なんだよ。俺たちに庶民を喜ばせろって言われても」

「ああ、ああ。理解した。聞いた私が間違っていたよ」

 そう言って、アンドリオンは再びため息をついた。


 知恵がミナに及ばない…。それが悔しくもあり、希望があるようにも思えた。



実力が上の者を認めると、人の生き方は分岐する。逃げるか? 採り入れるか? 


逃げるとプライドは保てるが、実力は伸びない。採り入れると実力はつくが、今までの自己信頼を失うかもしれない…。


あなたはどちらを選ぶ? 


次回、やっと村娘のミナが、「令嬢」になります。


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