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第31話 村の大興奮

今回は、インセンティブの使い方です。

 村には村の仕事がある。

 真夏のある日、ガルベルトが二人の連れと共にやってきて、連れが馬車に積んだ山ほどの大きな袋を保管庫に持って入った。


「この袋、なんですか?」

「麦袋ですよ。あと1週間ほどで麦の刈り入れの時期なので、今のうちに用意しておくのです」

 ミナの質問にガナスが答えた。

「麦袋?」

「そう。ミナさんは初めて見ますか? 農家の税金はこの麦袋で支払われます」

「な、なるほど…」


「野菜はほとんどがこのような袋に入れられませんし、穀物のように長持ちしません。だから、現物納付が難しいのですよ」

「あ、なるほど…」


 もともと現代社会でも農業には縁がなかったミナには初めて知ることばかりだ。

「これから収穫した麦を天日干しにして、脱穀します。それから麦袋に入れて、保管庫まで持ってきてもらうのです」

「え、ということは、しばらくは保管庫あたりは農産物の受付に使えなくなりますか?」

「ああ、そうですね。後でガルベルトに相談しておきましょう。私では、この村の麦の量がわかりませんから」


「納税が終わるまで、どのくらいかかりますか?」

「う~ん…。だいたい1カ月もあれば終わるでしょう」

「そうなんですね…」


 ミナはその間に起こりうる問題点はないかと考えた。

「ねえ、リントンさん、収穫の時期は、村人は忙しいでしょうから、野菜の入荷が足りなくなったりしないでしょうか」

 リントンもハッとする。


「本当ですね。ええと…。その間に入っている注文数は…」

 リストをくって、確認している。

「うーん…。結構入っています」

「今から、人手を確保しないといけませんね!」


「どの家も1か月ずっとかかりっきりではありませんよ。刈り入れと脱穀、ふるい掛けが一番大変なので、そこを外せばなんとかなります」

 リントンは上の方を見て、作業をイメージしているようだ。


「とはいえ…。最近は注文が増えているし…」

 とリントンも難しい顔をしてリストを見る。


「農家に無理は言えませんし、ここは注文を少しお断りするしか…」

「いいえ! それはなんとか避けたいです」

「とは言っても、人手が…」

 うーんと三人とも腕を組んだ。


「できれば、村の若者たちに助っ人をやってもらうというのはどうでしょうか」

「その費用はどうします?」

「基本的には農家持ちです。野菜が出荷できれば利益はありますし」

「どうですかね…。『だったら納品を休む』と言われたらこちらも困りますよ」

「う~ん…」


 確かに、今まで払ったことがない費用を払うというのは、抵抗があるだろう。


 しかし、定期便は購入者側も、量が安定しているから便利なのであって、ころころ量が変わるのでは面倒なのだ。農家だって、収穫しなければだめになる野菜があるから、それは嫌なはずだ。

「う~ん…」


 ミナは腕を組んで、うなり続けた。考え込む、というよりは、頭の中でいくつかの可能性を並べているような表情だ。


(こういうとき、どんなふうに解決したっけ?)

 現代社会でしてきたことを思い出す。


(人に仕事をしてもらいたい…。でも、お金は出せない。でも、役場なら何かを与えられる。お金以外の何か…。そう、村にしか出せないご褒美だ)


「リントンさん、ガナスさん、良い案があります」

 ミナは二人をテーブルに集め、心の中に浮かんだ案を説明した。

「え、そんな手が…」

 二人とも絶句だ。


「これなら、若者は集まります! お金を出さなくても働いてくれます! ということで、お二人ともご協力、お願いします! 3日のうちにまとめてください!」

「は、はあ…」


 二人は互いに顔を見合わせた。


 その4日後、村役場の外壁にある掲示板に、以下の告知が張り出された。

 集まってくれた村中の若者たちが、次々に寄ってきて、掲示板を読む。


「なに、これ! 本当かよ?!」

「えっ、俺、絶対これ~!!」

「キャ~! ぜ、絶対申し込まなきゃ!」


 口々に奇声を上げて騒ぎ出す。

 そこには、以下の文が書いてあった。


【麦の刈り入れ期に農家を手伝ってくれる若者募集中!】


 ・参加資格/一度でも刈り入れから麦袋封入までの作業をしたことがある16歳以上25歳以下の若者


 ・作業/刈り入れから麦袋納入に関する諸作業の手伝い


  条件/参加できる時だけで可

  ※ただし、合計3回以上の参加を条件とする。


 ・参加した若者には、次の特典に参加できる権利を進呈。


 ● 騎士団訓練所見学権 (参加者10名まで)


 ● 男女混合交流の旅・大商人街見学会参加権 (男子6名、女子6名まで)


 ● タンブリー教会祝祭の村の特別席利用権 (参加者6名まで)


(なお、来年も計画の予定あり。作業に参加した回数により、来年の優先参加資格を付与する)


「俺、この騎士団の見学に参加するぞ! 騎士って見たことないんだよな~! かっこいいだろうな~!」


「ふん! こっちの男女混合交流会のほうがいいに決まってる! かわいい女の子と一緒に街に行くんだぞ?! 俺も歩いたことないお屋敷街だぞ?!」


「私はこの祝祭の特別席に座りたい! これ、領主様やそのご子息様たちを間近で見られるのよ! キャーッ、どうしよう…」


 若者たちは大興奮だ。


「さあさあ、早いもの勝ちですよ。枠が埋まったら、締め切りとなります~」

 とミナは大きな声で言った。そばでリントンとガナスはおろおろと心配顔だ。


 少し離れたところでカイルとレイが見ている。

「なにやってんだ? ミナは…」

「え、いいじゃん? 俺、交流会に参加しようかな!」

「はん。お前、そっちかよ」

「じゃ、兄貴はどれさ?」

「俺は参加なんかしな…。いや…」


 カイルはちょっと考え込んだ。

「3回働けばいいんだな。だったら…ま、いいか。俺も騎士団の見学に参加する」


 そう言って、カイルはミナが待機する受付台に行き、「騎士団見学」に申し込んだ。

「え、カイル、それに申し込むの?」

 ミナはちょっと驚いた。


「ああ、騎士団がどれくらいの腕なのか、よく考えたら見たことないしな」

「なるほど…」


 ミナはニマリとした。カイルが申し込むほどなら、たくさんの人が申し込むに違いない。


 案の定、発表してからほんの2時間で、全枠が埋まってしまった。


「いや~、お見事でした、ミナさん」

 ガナスは大感激をしている。


「これで、収穫は問題ありませんね」

 リントンは安心した様子だ。


「ええ。きっとうまくいくでしょう」

 ミナはしたり顔だ。


 あえて「定期便参加者の手伝い」としなかったのは、その農家だけが村から特別扱いされるような印象になるからだ。一部の農家だけが得をする印象は村の分裂につながる。もちろん、定期便参加者には優先して手伝いを入れるが、28人の若者が集まれば、村全体にも対処できるだろう。


「いや~、騎士団長が喜んでくれるとは思いませんでした。団員希望者を集めるのに苦労しているとのことで、見学会というのを毎年やってくれと言われましたよ」


 リントンが言う。リントンは騎士団コース担当だ。

「うちはまあ、お屋敷を案内するだけですからね。当日、村人がぞろぞろ歩くのを私が引率すればいいだけで…。一応、財務部に許可は得ました。後は市場で買い食いですから、特に何も準備はしておりません」


 ガナスは大商人のお屋敷担当だ。あのあたりの大商人には詳しいので、案内役としてぴったりだ。しかも、役人の制服を着たものが案内していれば、怪しくはないだろう。


「ガルベルトさんも、祝祭の席の件は問題なしでしたからね。女の子たちは大喜びです」

 ミナはガルベルトに交渉したのだ。


「あとは、助っ人希望の農家の作業予定表をつくって、若者たちを割り振ってください」

「かしこまりました」

 リントンは快諾した。


これがのちに、カイルの運命を変えることになるとは……まだミナもカイルも気づいてはいなかった。


ここからだんだんと、領主や大商人ののミナの取り込みが始まります。


ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


お話はこれからですので、よろしくお願いします!

よかったら、ブックマーク、お願いします。

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