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第32話 アンドリオンの相談

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、なぜか異世界に来てしまった。そして、なんとか生活力を身につけようと、野菜買い取り事業をする商会を作った。領主の息子の出資を受け、官僚二人が補佐につき、順調に進んだ。

一方、領主の息子アンドリオンは、どうしても進まぬ仕事に悩んでいた…。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!

 定期便事業のほうは参加する農家も顧客も少しずつ増えていき、順調な伸びとなっていた。


 しかし、冬は野菜が少ないので、秋にうちにその分の収益を上げなければならない。

 そんな9月の半ばのこと。ミナはアンドリオンに呼び出された。


「お呼びでしょうか。アンドリオン様」

 ミナは少し不安だった。何のために呼び出されたのだろう? 要件は聞いていない。


「君に少し聞きたいことがあってね」

「はい。わたくしにお答えできることでしょうか…」


「ああ、君にしかわからぬだろう」

「はあ…」


「君も知っているだろう。今は労役の時期だ。今、城郭の西側の城壁を高くしようとしている。そのために人足が必要なのだ。


 しかし、人数が集まらぬ。タンブリーに日帰りできる近隣の村は12だ。各村から少なくとも5人が出なければ、人夫が足りぬ」


「はあ…」

 それが自分になんの関係があるのか、ミナにはわからなかった。


「君は村の若者を集めて、働かせた。その方法で、人夫を集め、働かせることはできないか?」

「は? わたくしにはわかりかねますが…」


「その報奨とやらだ。何か考えれば、金を出さずとも働くであろう?」

「報奨ですか…」


 ミナは黙って少し考えた。報奨…インセンティブは現代社会で社員を動かすためには必須の手法だ。

 しかし、この世界でできること、しかもお金を掛けずにできることとなると…。


 ミナは日本のお寺の再建を思い出した。寄付をしたものは瓦に名前を書けるというあれだ。


「たとえばでございますが…、城壁の一部に、働いた者たちの名前を刻むことができれば、みな喜ぶのではないでしょうか」


「なに? 名前を刻む? それは名のある騎士や爵位のあるもののすることであろう? 農民が名を刻むと?」


「はい。わたくしの国では、労役というのはございませんが、寄付をした者の名前を建物の一部に刻むというのがございます。橋とか教会とかです。

 すると、金持ちではない一般の者たちから、たくさんの寄付が集まります。村人も自分の名前が城壁にあれば、それは名誉なことだと思うのではないでしょうか」


「ふむ。なるほど…」

「あとは…。多少の費用はかかりますが、参加した者には領主様にお声がけをいただき、参加した印のバッジ…、木札かなにかを与えるとか…」


「木札? それをもらって喜ぶのか?」


「家に飾ることができます。すると、家族に自慢できるのです。


『父さんはあの城壁を作る手伝いをしたんだぞ。そして、領主様からお褒めの言葉をいただいたんだぞ。これが証明だ』と。


 子供たちも『うちのお父さんはすごい』と誇りに思えるでしょう」


「なるほど…」


「要は、労役を罰か嫌なことのように感じさせるのではなく、名誉なことだと感じさせるのが良いと思います。


役人が村人を奴隷のようにこき使うのもいけません。


名誉ある仕事をする人として扱えば、村人も良いことをしたと感じられ、参加することに誇りを持ち、しっかりと働こうと思うでしょう」


「う…む。それは一理あるな」

 アンドリオンは顎を右のこぶしに載せてうなっていた。


「ミナ、いろいろなアイデアを出してまいれ」

「え?」

 ミナはひそかにムカッと来た。


(この忙しいのに、こんな仕事まで振るな~!)

 と言いたくなる。深呼吸をして息を整え、口を開いた。


「畏れながら、わたくしには荷が勝ちすぎていると思います。


と申しますのも、わたくしは労役を実際に見たことがなく、どのような人が参加するのか、役人がどのような指示をするのかなど、まったくわからないのでございます。


ですから、まずはそのお役目を担当する方々がお考えになったほうがよろしいかと思います。


領主様からのねぎらいの言葉をいただく、家族や村で自慢できるような名誉を与える、あるいは、めったに経験できない楽しみを与えるなどの方法を考えればよいだけです。


もし、それをお考えになったあとにわたくしの意見をご所望でしたら、また伺わせていただきます」


 そう言って、ミナは礼をした。


「むむ…。そうか…」


 それはアンドリオンも正論だと認めざるを得ない。ミナがこの世界をまったく知らないというのは理解しているからだ。


 こうして、ミナはこの件に関しては、これ以上首をつっこまなくてよくなった。


(ああ、ほっとした…。定期便事業以外にはアンドリオン様と会いたくないのよね。肩が凝るし、どうしていいかわからなくなるんだもん…)


 これがミナの本音であった。


* * *


「お前たち、報奨の件、何か考えたか?」


 ロエルとラッシェンはすでにアンドリオンに何度か同じことを聞かれている。しかし、この二人も貴族出身なので、適当な返事しかできないのだ。


「こないだ俺が言った案はダメなのか?」

ラッシェンがアンドリオンに不満げに言った。


「お前の案はイロだろう。そんなもの、ダメに決まっているだろう」

「なんでだ?」


「ミナは『名誉』を与えろと言ったのだぞ。色事を与えて家族に自慢できるか」


「ミナは貴重な楽しみを与えろとも言ったんだろう?」

「お前は単純すぎるんだよ」

 アンドリオンはため息をつく。


「ロエルの案はなんなんだ?」

 ラッシェンがロエルを横目で見る。


「俺の案は…人夫たちに酒を飲ませてやることだ」

「却下だな」

 アンドリオンは手を縦に三度振った。


「金がかかるだろう。あいつらは飲むぞ。際限なく」

 ロエルは頬杖をついてアンドリオンを下から見上げるように見る。


「だいたい、無理なんだよ。俺たちに庶民を喜ばせろって言われても」

「ああ、ああ。理解した。聞いた私が間違っていたよ」


 そう言って、アンドリオンは再びため息をついた。


 知恵がミナに及ばない…。それが悔しくもあり、希望があるようにも思えた。


* * *


 タンブリーの南側には大きな川が流れている。プラウ川だ。


 タンブリーの城壁の南門に近いところには河岸があり、毎日たくさんの荷が積み下ろしされる。近年、この河岸を拡張するための工事が行われている。


 アンドリオンは護衛の騎士2人と文官1人を連れて、その様子を観察していた。

「ふ~む…」


 専門の建築業者たちと、領地の建設部の役人、監督官や文官たち、それに労役で参加している村人の労務者たちがいる。その働きぶりをじっと見ていた。


 監督官たちや役人たちはみな厳しい顔をしている。そして、労務者たちに怒鳴るように指示を出している。労務者たちはおし黙ったまま苦しそうに石や木杭を運び、土嚢を運び出す。


(報奨か…。領主の声掛け、貴重な体験、家族に自慢…)


 アンドリオンは河岸の現場事務所に入り、工事の責任者である建設部の役人を呼び出した。

「お呼びでございますか、アンドリオン様」


「工事の進行具合はどうだ? 遅れていると聞いているが」

「は、申し訳ございません。人夫が不足しておりまして…。なかなか思ったように進まず、2割ほどの遅れが…」


「このままでは冬になってしまうぞ。現場に活気が見られぬな」

「はあ…。しかしながら、このような土木現場はどこも似たようなものかと…」


 役人は汗をかきながら言い訳をする。


「ふむ。そのようなものなのか…」

 アンドリオンは気難しい顔をして黙り込んだ。


 役人を下がらせて、アンドリオンは再び現場に戻り、労務者たちを眺めていた。そして、恐る恐る彼らに近づき、何か言おうとするのだが、言葉が出ない。


(なんと言っていいのか…)

 アンドリオンは自分の無能ぶりに愕然とした。


(領主の声掛け、貴重な体験、家族に自慢…)


 何がそうなるのか、実際に労務者に聞きたいが、そもそもなんと声をかけてよいのかわからない。


(だめだ。侯爵家の嫡男として育てられた私に、労務者に声をかけろと言われても…)


 大きなため息をつきながら、アンドリオンはひとまず城に帰ることにした。


自分が援助しているはずのミナの助けが必要だと感じているアンドリオン。

だんだんと、ミナを自分のそばにおいて、仕事を頼みたくなってきています…。


よかったら、ブックマーク、伏してお願いいたしますm(__)m


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。のちのブリア侯行政顧問

アンドリオン … ミナが住むブリア領主の息子

タンブリー … ブリア領主の住む街

ロエルとラッシェン … アンドリオンの取り巻き


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