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第25話 足りない3箱

細かいですが、事業をしていると、上からも下からもクレーム、来ます。それにどう対処するか…。

 荷馬車が完成して、村に運ばれてきた。ちょうど雨季が始まる前で、レイがすごく喜んでいる。木箱もまず200個揃っている。いよいよ、1日40箱運ぶ目標を達成するときだ。コースの日程はそのままで、一度に運ぶ量を増やすのだ。


「今のところ、プライク商会からの注文はまだあまり増えておりません」

 ガナスが報告した。

「そうですか…」

「村人の参加希望者は今のところ7軒あります」

 村人担当のリントンの報告だ。


「ということは、村から出せる農産物は増えますが、まだ顧客が足りないということですね」

「そういうことです」


「うう~ん。これは、トージャーさんと少し話さなければいけません。やり方としては二つ。

一つは取引相手をプライク商会に一本化して、その顧客を増やす協力をこちらもすること。

もう一つは、取引する商会をもう一件増やすこと。その営業をこちらでする必要があります。

これはまずプライク商会の希望を聞くべきでしょう」


 ミナは言った。

「わかりました。では、私が明日、交渉に行ってまいります。ミナさんとしては、どちらのほうがよろしいでしょうか?」

 商会担当のガナスが言う。


「取引する相手が増えれば、その分の手続きは増えますから、できればプライク商会に一本化して販路を広げてもらいたいですね。とはいえ、いくらこちらが営業を協力すると言っても、彼らも倉庫の容量の限度や、人手不足もあるのでしょう。ですから、難しいと言われればそれまでなのですが…」


「確かに。税の取り立ても多数にわたるよりも一社の方が簡単ですからね」

 ガナスは頷いた。彼の視点は常に税なのであった。



 ある日の夕方、ゾーラとクリムラは野菜の目利きをしていて、少し眉をひそめた。

「なんだか今日は、不良品が多いわね…」

 それはニンジンに似たカプサという野菜だ。1か月前から出荷しているが、最近質の悪いものが混ざっていると言う。


「ねえ、どう? この葉、色が悪いわよね…」

 ゾーラはカプサに少し残っている葉の部分を指さす。

「ほんと。これもよ」


 クリムラは別の農家のカプサを一つ取り上げた。そして、パリッと折ってみた。

「やっぱり…」

 中身が茶色くなっており、スが入っている。これは病害だ。

「これもだわ」


結局、3軒の農家の出荷に問題があることがわかった。

 二人はリントンとミナに相談する。

「ゾーラさんとクリムラさんの見立てでは、いくつかの畑で、害病が流行っているのではないかということですね? それを調査に行った方がいいと…」

「そうなんです。もしかすると…ホキ病かも…」


「ミナさん、どうしますか?」

「明日は出荷があるので、あさって、二人で畑の調査に行きましょう。とりあえず、リントンさんは、明日の午前中にこの野菜3箱を出荷農家に返却していただけますか?」

「わかりました」



 出荷のあと、ミナが村に戻ると、リントンは慌てたように報告に来た。

「ミナさん、野菜の返却をしたときに、大変なことになりました…」


「何があったんですか?」

「農家が反論してきまして…。『それはうちの野菜ではない。木箱が替えられたんだろう』と言い出したのです」

「え、誰かが不正をして陥れているとでも?」

「そのようです。そんなことは絶対にないと言ったのですが…。ゾーラさんたちが疑われてしまって…」

「まあ、なんでそんなことを…」


 トレーサビリティーの欠陥が早くも露呈した。


「こちらもそこを疑われるとは思いませんでしたので、今後は、野菜の受け取りのときに目の前で検査する必要がありそうです…」


「ほんとですね。今後はそうしましょう。でも、それには少し早めに納品をお願いしないといけないですね。…で、明日、畑を検査しにいくのは大丈夫でしょうか?」


「はい。とりあえず、それは反対されませんでした。『うちの野菜じゃない』と言っているんですから、大丈夫だと思っているんでしょう」

「そうですか…。3軒ともそう言っているんですか?」

「今のところ、ギルタさんだけなのですが、あとの二軒にも影響が出そうです」

「ああ、あの方はすぐにあちこちに言いそうですもんね」


 ミナはギルタを思い出した。よくしゃべる中年の女性だ。

「プライクのほうはいかがでしたか?」

リントンは受け取り側を心配している。


「結局、3箱のカプサが足りないまま出荷することになったので、ちょっとズルをしました。市場に寄ってこっそりと3箱分のカプサを買ったのです。ですから、プライク商会のほうには影響は出ませんが、これでは赤字ですね」


ミナは苦笑いをした。3箱ならばまだ全体としての利益はあるのだが、これが続くとまずい。注文された分が足りないということは、今までなかったことだ。多少の量のずれは、参加農家のどこかで調整で来ていた。とくにゾーラの家からの持ち出しだが。


 翌日改めて、ミナとリントンは3軒の畑を回ることにした。

ギルタは西4区に住んでいる。


「こんにちは、ギルタさん。こちら、出していただいたカプサの件でお伺いしました。少し、畑を拝見させていただきたいのですが、よろしいですか?」


リントンが帽子を取って挨拶をする。ギルタはこの家の女主人で、少し太った40代の女性である。

「きのう、私も一応畑を見たわ。少しはダメなものもあったけど…。たいして問題はなかったわよ」

「それはよかったです。では、私たちも確認させてください。そのほうが安心できますので」


 ミナはニコニコしながら、ギルタを促した。ここは「そんなはずは…」と言うと抵抗されてしまうので、まず同意するのがコツだ。


ギルタは何か言いたそうにしたが、あきらめて、黙ってリントンとミナを連れて畑のほうに向かった。庭から畑が続くカイルの家とは違い、家からはしばらく歩いたところにある。


「ここよ。ここがカプサの畑」

 ミナとリントンはカプサをひとつひとつ観察した。リントンは実際に農業をしたことがないので、彼も野菜に詳しくない。ゾーラに聞いた害病の特徴は葉の色だ。本当はゾーラを連れてくればいいのだが、ゾーラが悪者にされる可能性があるのでそれはやめた。


ミナは葉の色が悪いものをみつけると、1枚1枚、葉を調べた。

(うーん…。よくわからないなぁ…)


 確かに、ギルタの言う通りそんなに悪いものはみつからない。しかし、確かに品質の悪いものがかなり紛れ込んでいたのだから、何かがあるはずだ。ミナはせっせとカプサを調べた。


「ミナさん、これを見てください」

 リントンが畑から立ち上がった。リントンが見ていたのは、東にある大きな木のそばの畑だった。

「これはゾーラさんの言っていた…」

「あ、ほんとう! 葉の裏に粉のような…これは虫ですね?」


 小さすぎて目が悪ければほとんど見えないような虫が葉の裏についている。ギルタには見えなかったのか、それとも無視したのかわからないが、カプサの畑の一部が害病に侵されている。


「ギルタさん、これを見てください」

 ミナはギルタにはっぱを差し出した。

「このあたり、この害病にやられていますね」

とリントンが周りを指さす。

「えっ、そんな…」

 ギルタはかなりショックを受けたようで、頬が引きつっている。


「これは、ホキ病…まさか…」

「これは何か対処をしないと、他の畑にも被害が出そうです」

 ミナがそう言うと、リントンも大きく頷いた。

「まだ被害は大きくない。今のうちに対処しましょう」


「はい。…ギルタさん、私たちも協力しますから、安心してくださいね」

 ミナはそう言って、ギルタに微笑んだ。味方であるということをアピールしないと、余計なトラブルを作りそうな人だからだ。


(だてに心理学の単位、取ったんじゃないんだから…)

 心理学は交渉術に役立つのだ。



 リントンとミナは他の2軒を回った。もう2軒の畑もギルタの畑の周囲にあった。そこにもホキ病の野菜がいくつみられた。

「ミナさん、これは困りましたな。広がってしまうと、カプサの出荷が止まるかもしれません…」

「本当ですね。これは…ベテランの農家に対策を聞いた方がいいかもしれません」


 二人は急いで役場に帰り、参加農家の中からゾーラと、長老と言えるカミラ、それに元農家の副村長ジャービスを集めた。


「…というわけで、ホキ病が広がっています。今のところ、南西にある畑ばかりです。放っておくと、他にも広がりますから、いまのうちに食い止めないと…。こういうときは、今までどのような対策を?」


「そうさな。まずやることは、やられた野菜を引っこ抜いて焼くことだ。ちょうど雨季も始まっているし、問題は湿気だ。昔はもっと間引いたもんだが、最近の農家は少しでも収穫を増やそうとして詰めすぎている。風通しが悪い。それがまずかったんだろうな」

ジャービスが言った。


「それから、暖炉の灰を撒いたわ。足りなければ、焼いた野菜の灰でもいい。少し土の性質を変えるのよ」

「なるほど」


 ミナはゾーラの意見を聞いて、おそらく土をアルカリ性にするということなのだろうと思った。

「まあ、いまさらかもしれないけどね、うちではカプサの間にハーブを植えているのよ。そういうふうに、同じものを広く植えるんじゃなくて、パッチワークのように植えると、世話は少し手間だけど、その分、病気には強くなるわ」

 カミラも言った。


「ハーブ…。そうか。ハーブって、野菜を守ることもするんですね?!」

「ええ、そうよ。うちで植えているのはカマリね」

 カマリは肉を焼くときに使う香草だ。

ミナはカミラの言葉にふと思うことがあった。


「ゾーラ、ゾーラの畑には害病の被害ってあったかしら?」

「え、…そうねぇ。昔はあったと思うけど、あまり覚えがないわね。あっても、少しくらいじゃないかしら。大きな損になったことはないわ」


「それって、もしかすると、ユーリカを植えているからじゃ?」

「ああ、それはあるかもしれない。ユーリカは、20年前からヨードン…亡くなった夫が畑のあちこちの隙間に植えたの。この辺じゃ、普通は育たないのよ。あれは消毒になるからね。虫よけにもなるしね」


「ユーリカが畑を守っているんじゃないかしら? だとしたら、他の畑にも植えれば…。とりあえず、南西の畑にはもう広がらないように、ユーリカ油を撒くと効果があるかもしれないわ」


 ミナはリントンを見た。

「なるほど。私はそういうことは詳しくないのですが、農産部には農学者がいて研究室がありますので、意見を聞いてみましょう。そして、今いただいた対策をまとめて、村中の農家に告知するようにしましょう」



 ゾーラとカミラは帰っていき、ジャービスとリントン、ミナが残った。

「いずれにしても、カプサの収穫は減ります。どうしましょうか?」


リントンが心配そうに言う。

「ま、仕方ないな。村じゃ、こんなことはよくある。全部守ろうなんて無理なんだよ」

ジャービスがため息をついて言った。もしかすると、こういうことがあるから、ジャービスは畑をやめて役場で働いているのかもしれない。


「でも…不幸中の幸いだと思います」

「ミナさん?」

「だって、まだ受注は多くありません。これから参加したいという農家の要望に受注が

おいついていない今だからこそ、カプサを作っている農家で、これから参加したいというところに、補完してもらうことができます」

「なるほど。先にカプサで参加してもらうんですね」

リントンも少し笑顔が戻ってきた。


「そういうことです。ですから、今回はぎりぎりセーフ…、ぎりぎり問題なしです。将来の話ですが、同じ野菜を参加農家全体の最大収穫量の半分以下に抑えるということなど、検討しておく必要があります。


それから、これからはこのようなこともあると考えて、農家に対する指導が必要だと思います。同じ区画で同じ野菜を大量に作るということを勧めないとか、病害を防ぐやり方など、学者の先生にそういう指導もぜひお願いしたいです!」


「お任せください。学者先生も出番があると喜ばれるでしょう!」

 リントンはすっかり元気になっていた。


人に寄り添いながら、こちらの要求は通す。

これ、コツ。

次回はカイルの父について。

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