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第25話 大商人バンリオル

アメリカで働いていたミナは、なぜか異世界に来てしまった。そして、なんとか生活力を身につけようと、野菜買い取り事業をする商会を作った。

領主の息子アンドリオンの支援を得て、官僚二人が派遣される。そして、財務官ガナスは、大商人バンリオルのところへ、野菜買い取りの話をもっていこうとしていた…。


初めてのかたは、下に用語集があります!

 荷馬車が完成して、村に運ばれてきた。ちょうど雨季が始まる前で、雨除けがある馬車をレイがすごく喜んでいる。木箱も200個揃っている。


 しかし、まだ注文が増えていない。しかし、農民の参加者は増えていた。


 プライク商会に任せるだけでは進まない。

 こうして、ガナスは財務部の情報を利用して、営業に行くことになった。


 タンブリーは西の山を背に城郭を戴き、城門を抜ければ市場と商会がひしめく城下町が広がる。大商人たちは街の西側の城郭のすぐそばの地域に住んでいる。


 今日はそこに住む大商人バンリオルにガナスはプライク商会のトージャーを連れて、2人で売り込みに行くのだ。


 大商人の屋敷には100人くらいの人がまとまって住んでいる。ここならば、大量の野菜を必要とするからだ。


 バンリオル商会は国全体に広がる販売網を持っており、海外にも支店がある国際商会だ。

 

 商会長自身は本部のある王都と王国南部最大の街であるタンブリーを行き来しており、月の半日はタンブリーにいるということだ。


「ようこそお越しくださいました。ガナスさん」

 バンリオル商会長のボリック・バンリオルが二人を出迎えた。


 ガナスはバンリオルの担当財務官だったので既知の仲だ。


 バンリオル商会長はその地位に見合わず、意外にも若い。まだ26歳だ。バンリオル商会の5代目なのである。

 短めの濃い茶色の髪がはねていて、威勢のよさを感じさせる。品の良い四角い顔の輪郭に、一文字の眉毛が印象的だ。育ちの良さを感じさせる物腰だ。


 ガナスはプライク商会のトージャーを紹介する。

 地方の一商会の一員であるトージャーにしてみると、国際的な大商会の会長に会うのはかなり緊張することなのである。


「早速ですが、領主嫡男であるアンドリオン様が大変力を入れておられる事業に、ぜひご協力いただきたく…」


 ガナスは事業の概要をざっと説明し、バンリオル側の利点も説明した。そして、あとはトージャーにバトンタッチする。


「弊社はまだ小さな商会ではございますが、この村の発展のために日々精進しております。ぜひ、こちらのお屋敷の農産物を弊社に扱わせていただきたく…」


「ふむ…」

 バンリオルはお茶を飲みながら、まつげを伏せて考えていた。そして、ゆっくりと口を開く。


「これはおもしろいものですな。盲点と言いますか…。野菜は農民が売り買いするものだという今までの思い込みが間違っていたということですな…」


 バンリオルは野菜の購入の検討以前に、プライク商会がその仕事をしようとしているという点に意識を向けた。


 野菜を大量に扱うのは、直轄地を持つ領主、荘園を持つ貴族であって、あとは農民が市場や常設店舗に卸すか、大量に購入する館は個人で売りに来る農民何人かに運ばせていたのだ。


「つまり…。アンドリオン様は税収増をお望みで…」

「こ、これは恐れ入りました…。さすがでございます」


 ガナスは驚きを隠せなかった。思わず冷や汗をかく。さすがに大商人。すぐにそこを読み取った。


「いやいや、そこに今まで気づかなかったという自らの不明を恥じておりますよ」

 そう言って、バンリオルは声を立てて笑った。


「で、プライク商会がそれを担当なさると…」

「は…」


 トージャーも汗をかき始めた。責められるのではないかという恐怖だ。なぜアンドリオンがバンリオルに話をせずにプライクにこれを許したのかをボリックが考えているのだろうと思った。


「私がこの企画の発案者とご縁をいただきまして…。僭越ではございますが、協力をお約束させていただきました。その後、アンドリオン様のご支援を賜ったのでございます」


「ほう…。発案者はアンドリオン様でも御社でもないと?」

「は、はい」

 トージャーは自分がミスをしたかと思って、口ごもった。


「実は、エルノー村の娘でして…。非常に賢い娘でございます。アンドリオン様もお気に召したようで…。いや、その賢さを、でございますが」


 ガナスが補足した。うっかりと誤解を受けそうな言い回しになったのを訂正しながら。


「娘? 村娘の発案だということですか? …それは興味深いですな」


 トージャーとガナスは大商人の前で汗をかいていた。


「その娘の名はなんと?」

「は、ミナと申します。自分で商会を立ち上げまして、テンソル商会として事業に参画しております」


 駆け引きのできないガナスは特に隠すことでもないと考えて、答えた。


「ほう…。村娘が自分で商会を立ち上げた?」

 バンリオルは片方の眉を上げた。


「はい、その娘は今3人雇っております」

「ほう…、なるほど。実に興味深い」


 バンリオルはしばらく考え込むと、テーブルのベルを4回鳴らした。


「お呼びでございますか?」

 扉を開けて入ってきたのは、きちんと上着を着た品の良い商人風の若い男だ。


「紹介しましょう。こちらはニキール。うちの番頭です。ニキール、こちらはプライク商会のトージャーさんと財務部のガナスさんだ。館と宿舎の野菜の納入について打ち合わせを頼む。条件をまず提示してもらえ。検討はそれからだ」


 ボリックは平手で二人を指し示しながら言った。

「は、かしこまりました。…では、こちらのほうにお越しくださいませ」


 こうして、別の部屋に案内され、二人は実際の交渉に入った。


 部屋に残ったバンリオルは、しばらく椅子に座ったまま、深く考え事をしている。

 そして、もう一度ベルを1回鳴らした。


「お呼びでございますか?」

 現れたのは、50代の執事であった。


「ああ。フライアを呼べ」

「は? フライアでございますか?」


「そうだ。急げ」

「は、かしこまりました」

 執事は一礼して、部屋を出た。


* * *


 数日後のこと。ミナは村役場から一人で家まで帰るところだった。


 道々、ミナはいろいろな可能性を考えている。

 もうすぐ穀物の収穫期になり、みんな忙しくなる。ミナにとっては初めての納税の時期だ。予想がつかない。


(穀物の収穫期には野菜の収穫は減るかな…?)


 そんなことを考えながら歩いていたが、ふと足を止めた。そして、また静かに歩き出す。


(う~ん…。最近、なんだか気になるのよね…)

 なんだか、誰かにつけられているような気がするのだ。


(クルムかな…。ううん…)

 クルムだったら、文句があるなら、こそこそしないで言いに来ると思う。


(あのルノワールの子? まさかね…)

 他に自分がつけられそうな人が思い浮かばない。


 いきなりさっと振り向く。

(誰もいない…)


「ただいま…」

 結局家についてしまった。


 ミナは夕食の時に、カイルに相談した。


「ね、カイル。最近私、誰かにつけられているような気がするのよね…」

「え? つけられている?」


「うん。ときどき、後ろからカサッて音がしたりとか。それで、何度かさっと振り向いたんだけど、誰もいないのよね」

「なんでミナをつけるんだ?」


「さあ? 街でも一度つけられたような気がしたし。村では今日を入れて二度くらいそんな気がしたわ。でも、振り返っても誰もいないの」


「それ、ミナの気のせいだろ。最近、少し過敏になっていないか?」

「そうなのかな…」


 料理を食べながら、ミナはまた考えていた。


 ミナが不安そうにしているのを見て、カイルは思い直した。

「明日、俺が後ろを付けて、誰かがいるか見てやるよ」


「ほんと?! ありがとう。助かる」

 結局カイルは頼りになるのだ。


 次の日も一人で家に帰る時になると、なんとなくつけられているように感じるのだ。

(今日はカイルが後ろから見守ってくれているはず…)


 そう思いつつ、音に注意しながらミナは歩いていた。見通しの悪い道になると、わざと立ち止まって、相手の虚をつく。…相手が本当にいれば、なのだが。


 そしてまた歩き出す。

(やっぱり誰かがいそう…。カイル、見てくれているかしら?)


 振り返りたいが、今回は振り返らず、何も気づいていないフリをして歩いた。

 …そしたら、いつの間にか家についてしまった。


(あれ? やっぱり誰もいないのかな?)


 ミナが着替えて家事を手伝っている間には、カイルは帰ってこなかった。

(どこに行ったんだろう…)


 食事が半分終わるころに、やっとカイルが帰ってきた。

「カイル! 無事だったのね。どうだった?」

「んん…」


 彼はため息をついた。そして、トーチを指さした。

「これを見ると、確かに俺とミナの間に誰かがいるんだ。でも、実際には見えないんだよな」


「えっ、そうなの?!」

 ミナは背筋が寒くなった。


「で、一瞬だけ、そいつが緩い土の上を歩いたようで、道に足跡がついた」

「えっ、どういうこと?」


「多分、そいつは女の魔法使いだ。姿を認識させない魔法を使っているんだろう」

「そ、そんなことができる人がいるの?!」


「いる。存在を消しているんじゃなくて、認識させないようにしているんだ。だから、足跡はつくし、天気が良ければ影も見えるはずだ」


「ええ~?! なんで私をつけるのかしら?」

「そいつ、ミナが家に入った後、しばらく家のまわりに張り付いていたぞ。そいつがいなくなってから、俺も帰ってきたんだ。…ミナ、なんか危ないことになってないか?」


 カイルが眉をひそめて、顔を覗き込んだ。

「うう…。私は危険人物ではないと思うんだけど…」


「狙いはなんだろうな。殺すほどの殺気はなかった。さらっていくつもりなら、とっくにさらってるだろうし。むしろ村でさらうより、街でさらうほうが簡単だ。女一人じゃミナをさらえないしな」


「そ、そうよね。…ということは、私を調べているってこと?」

「かもな」

「なんだろう。怖いな…」


「もう一人で歩くなよ。街ではレイと離れるな。村では帰りはドナオンと帰るといい」

「そ、そっか。わかった。ありがとう」


 ミナはその夜、気になって眠れなかった。


大商人は頭の回転が非常に早い。ひとつのことから、いくつもの隠されたものを見抜きます。

そして、このバンリオルが見抜いたのは、村娘ミナの驚くべき才能でした。

さて、バンリオルは次にどのように動くのか?


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。のちのブリア侯行政顧問

プライク商会 … ミナが野菜の買い取りを依頼している商会

タンブリー … ブリア領主の住む街

ガナス … ブリア領財務官

アンドリオン … ミナが住むブリア領主の息子

クルム … 村人でミナとカイルを嫌っている

カイル …ミナを助けてくれた冒険者。今は騎士団で訓練を受けている

トーチ … 索敵用の魔法具

ドナオン … カイルの義兄で村役場に勤めている



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