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クルストがミナを訪ねてブリアへ? アンドリオンには意味不明

このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。


初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!


「で、クルスト殿下はミナさんに王都で地位を与えて、自分の側近にするつもりのようで……」

 とバンリオルが眉をしかめる。

「ええ?! そんなこと、だめですわ! わたくしはアンドリオン様のところで働くと決めているのですから」


「ですよね……。だから、なんとしても、クルスト殿下の思惑に乗らないようになさいませんと……」

「は、はい! わかりました」


 バンリオルも「はあ~」とため息をつく。

「私も申し訳ないとは思うのですよ。せっかくカイルと結婚なさったのに、いつも離れ離れで……」

 カイルが後ろで唇をぎゅっと噛む。何か言いたいようだけど、護衛としているので、言わないでいるのだ。


「ボリックさん。それはいいのです。カイルは諜報員で護衛なのですから、お役に立つ場所で働くことが一番です。それに、ずっと先に結婚するはずだったのが、早くなったのだと思えば、少ししか会えなくても我慢……いえ、満足できますし」

 ミナは苦し紛れのように笑った。


 そもそも、ふたりで王都で暮らしたところで、やはりカイルは諜報員であり、護衛であるため、そうそう家に帰ってこられないだろう。昨年の盗賊討伐のときのように、作戦中は長期で王都にもタンブリーにもいないこともあるのだ。


「お互いにやりたいことがあって、思い切りやっているのですから、これで満足していますわ。ボリックさんにはとても感謝しています。カイルがお役に立てれば幸いです。ですから、お気になさいませんように。

 ……それよりも、殿下はどのようなことをお望みなのかしら?」


「おそらくですが、まずは奨学金の話をもっと進めよとか、他にも、案を出せとかおっしゃるのでしょうね」


「そうなのですね……」


 ミナは何か対策はないかと考えるのだった。



第189話 王太子とアンドリオン



 タンブリーの城では、上を下への大騒動が始まった。

 いきなり王太子がブリアに来ると言う。

 そして、コブルー祝祭で挨拶をすると言う。


 エカーリアの婚礼で大騒ぎをした数か月がやっと終わり、ほっとしていた侍従、侍女たちは大慌てで準備に取り掛かる。

 といっても準備の時間が1日しかないのだ。一行の宿泊と食事を整えるだけで精いっぱいだ。たいしたことはできないだろう。


(とんでもないことになった……)

 アンドリオンはため息だ。

(なぜ突然コブルーに来るのか?)


 アンドリオンは眉にしわを寄せて、過去を思う。

 クルストのことは、2年ほど前にミナが話したことしか知らない。ミナの話では、クルストはミナを舞踏会で公然と侮辱したようだった。


 それも当然だ。クルストが敵対的だったのはミナがゼビルスの連れのブリアの官僚だからだ。それは前ブリア領主カリディオンのせいなのだ。


 王太子が父親を殺そうとしたラッスル公側の勢力を歓迎するはずなどない。クルストがまだブリアに良い感情を持っていないのは明白だ。


(エカーリアの結婚によって、ブリア侯とラッスル公はさらに強く結びついた。それを警戒しておいでなのかもしれない……。悪くすれば、ブリアに「出しゃばるな」という警告とか……?)


 アンドリオンがミナに事情を聞きたくても、ミナはコブルーだ。

(お怒りでなければいいのだが……)


 そう願うだけだ。


 * * *


「王太子クルスト殿下、ご到着でございます!」

 ラッパが鳴り、クルストと一行がブリア城に入ってくる。


 アンドリオンはクルストを初めて見た。まだ20歳前後の若者だ。

 しかし、その目は意外にも澄んでいて、ブリアに対する怒りはなさそうに見えた。


「ようこそお越しくださいました。クルスト王太子殿下。ブリア侯アンドリオンでございます」

 アンドリオンは跪く。


「いや、よい、ブリア侯。私は突然来たのだ。そんなに畏まらなくてもよい」

「は、はい……」


 意外な言葉に、アンドリオンは意表を突かれる。

 まずはにらみつけられると思っていた。嫌味の一つでも言われるのではないかと恐れていたのだ。

 ところが、クルストは他のことに思いがとらわれているようだった。

 ふたりはテーブルにつき、側近たちも周りに立った。


「ミナはいるか?」

「は、ミナ……とおっしゃいますと……?」

 アンドリオンはクルストがまさかミナに会いに来たとは思いもしなかった。


「ああ。行政顧問のミナだ。ほかにミナはおらぬであろう?」

「は。ミナは今コブルーにおりまする」

「ああ、そうなのか……」


「ミナにご用でおいでになったのでしょうか?」

「ああ。そうだ。ミナに聞きたいことがあってな」

「はあ……」

 クルストがミナと親し気な様子に驚く。2年前の舞踏会以外にも会ったような雰囲気だ。


「あの……殿下はミナにお会いになったことが?」

「ああ。つい最近会ったぞ。私に良い案を教えてくれた」

「そうなのですね。存じませんでした」


 クルストは意外そうだった。

「ミナはそういうことを話さないのか?」

「はい。今はとても忙しくしておりますので」

「そうか……」


 王太子の自分と会うことなど、めったにない。ふつうは大きな出来事として領主に報告しそうなものなのに。ミナの中では自分の存在感が大きくないような気がして、クルストは少し不満を感じた。



 アンドリオンの侍従がお茶を運ぶ。

「遠路お疲れでございましょう。まずはごゆるりとお過ごしくださいませ」

「うむ……。だがな、あの街道はすごいな。最近完成したというではないか」


「はい。王都線でございますね。あれは8月の終わりに開通いたしました」

「ほとんど疲れずにここまで来れた。2日半あれば王都から着くな」

「はい。それはよろしゅうございました」


 アンドリオンは作り笑いをする。

(ちょくちょく王都から来るつもりでないだろうな……)

 という心の中の懸念を隠すためだ。


「明日にはブリア侯もコブルーに行かれるのであろう? 私も同行させてもらおう」

「は、光栄に存じます」

 そう言って、アンドリオンは頭を下げる。



 心の中は戦々恐々としていたが、その夜は何事もなく、次の朝は早くから出発した。

 王太子は自分の馬車に側近と乗っていったので、アンドリオンはほっとした。


 * * *


 タンブリーからコブルーも石畳で舗装されているので、馬車で3時間で着くようになった。

 コブルー港が一望できる丘の上に立ち止まって、アンドリオンはクルストにコブルー港を見せる。


「殿下、こちらがコブルー港でございます」

「ほう……。かなり大きいのだな」

「はい。自由港となりましてから、かなり発展いたしまして、どんどん街が広がっております。今は埠頭を拡張中でございます」

「そうか。この事業をミナが担当しているのだな」

「はい。その通りにございます」



 クルストはミナに何を求めているのか、アンドリオンは気になる。こんなにも親しげなのに、ミナが何も報告していないことも怪しい。

(いったいどうなっているのだ……?)

 ミナが何かを隠しているような気がしてきて、余計に不安になる。


 それから、馬車は丘を降りていき、コブルーの高台のミナリオラに着く。ここが2人の宿なのだ。

 しばらくすると、準備委員会の者たちが、ふたりの到着を知って、挨拶と打ち合わせに来る。


 その中にミナもいた。


「王太子殿下、この度は遠路はるばる、コブルー祝祭のためにお越しいただき、誠にありがとうございます。王族のお声をいただけるとあって、一同、大変感激しております」

 バンリオル商会のカルジャンが一同を代表して挨拶をする。


「ああ。競技会が評判なのでな。見聞が広がるであろうと思ってな」

「はい。それはまことでございますとも。競技会はもちろん、アラゴンキアの最上の品、異国の珍しいものなど、見本市には並んでおりますし、お楽しみいただけることでございましょう」


 クルストはミナをちらちらと見ていたが、そのときには何も言わなかった。


「殿下。いかがなさいますか? 今から見本市をご覧になりますか?」

 カルジャンが尋ねる。

「ああ。そうだな。では向かうとしよう」

「では、バンリオルの代表ボリックが来ておりますので、バンリオルがご案内いたします」

 担当員は皆忙しいのだ。

「そうか。ボリックが……。ミナ。そなたは来るであろう?」


 いきなりクルストに声をかけられた。

「わたくしは商品に詳しくはございませんので、ご案内はできませんが……」

 アンドリオンの顔色をうかがいながら、ミナは答えた。


「よい。一緒にいればそれでよい」

「はい。かしこまりました」


 アンドリオンには、クルストの意図が何なのか、全然わからなかった。


アルーストがミナに近づく目的はなにか……?


いつもお読みいただき、ありがとうございます! おかげ様で少しずつブックマークが増えていて、嬉しいです!

この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。

---今までのあらすじ---

ミナはブリア領主のため、妹エカーリアが王弟ラッスル公レオストの長男ゼビルスと結婚できるよう、大掛かりな策を成功させた。ゼビルスのいとこにあたる王太子クルストは彼を敵視し、その背後にいるミナを嫌う。ミナの賢さを知る国王アル―ストは、王太子にミナに会って知恵を借りろと言う。いやいやながらその通りにしたクルストは、ミナの賢さに驚くこととなった。クルストはそのミナを放っておくのが惜しくなり……。

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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!

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用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才官僚と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…

カイル … ミナの夫で、バンリオルの諜報員。25歳

ボリック・バンリオル … 国内最大の商会で、ミナの支援者であり、ミナの夫カイルの雇い主。31歳

クルスト … 現国王アル―ストの子で王太子。20歳

アンドリオン … コブルーのあるブリアの領主でミナの上司。27歳

カリディオン … アンドリオンの父で前ブリア侯。王弟レオストと図って当時の王太子アルーストを暗殺しようとした。そのときの罰が許されたのは、ミナのコブルー港開発案のおかげだった。

公然と侮辱した事件 … ミナがクルストのいとこゼビルスと共に訪れた舞踏会で、クルストがゼビルスとミナを侮辱した。

ラッスル公レオスト … アルースト王の弟で、かつてカリディオンとともにアルーストを暗殺しようとした。嫡男はゼビルスでその嫁がアンドリオンの妹エカーリア



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