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王太子クルストはなんのためにブリアへ? アンドリオンの不安……

このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。


初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!


 ボリック・バンリオルはクルストをよく知っている。国王アルーストからよく話を聞くし、成人してからは宮廷でもときどき会うからだ。


 バンリオルは護衛のカイルを連れて、クルストの前に進み出る。

「殿下、ブリア侯。僭越ながら、私が見本市をご案内いたします」

「ああ、頼む」


 クルストはバンリオルの後ろにいるカイルに目をやった。王城でバンリオルに会うときに、護衛のカイルを何度か見たことがあったはずだが、今まで気にしたことがなかった。

 父のアルーストにミナのことを尋ねたとき、バンリオルの護衛がミナの夫だと教えてくれたのだ。


(これがミナの夫、カイルか……)

 自分よりはいくらか年上だが、まだ若い。黒い髪に黒い目。たくましい体つき。黒髪のミナにはよく似合う男だ。


 まずは、一番人気の異国の展示品を見に行く。

 それは、バンサラーのクッシャリエ商会の建てた宿、サルドーのロビーにある。

 そこに馬車で移動する。王太子とアンドリオン、ミナと王太子の護衛が乗った。


「殿下。街道はいかがでしたか?」

 気まずくなりそうなので、ミナが会話を進めることにした。

「ああ。素晴らしいな。石畳の道でここまで来られるとは」

「途中の宿はどちらにお泊りに?」

「ああ、宿はまずデラーの……」


 そんな話で時間をつぶす。ついでに宿の調査だ。


 ミナも意外とクルストが話しやすいので驚いた。

 あれから、クルストも変わったようだ。


(というか、もともとこんな人だったのに、親同士の争いの影響で攻撃的だっただけなのかも……)

 ミナは少し考えを改めた。


 サルドーに着くとザッカリムが出てきて、深々とお辞儀をする。

「これはこれは、王太子クルスト殿下。お初にお目にかかります。私はバンサラー国クッシャリエ商会の代表ザッカリムでございます。本日は誠に光栄に存じます……」


 中はザッカリムの案内で、さまざまなバンサラーの名品を見る。

 クルストの後ろにはアンドリオン、そしてミナがくっついている。


 クルストの様子をうかがいながらなので、結局、商品をじっくりと見ることができない。

(しかたない……)

 ミナの好奇心をなだめながら、クルストについて行く。


(そうか……。護衛ってこんな気分なのね)

 自分の好奇心を押さえながら、周囲に気を配り、主人を守る。そんな思いでそばに立っているとは想像していなかった。


 それなのに、主人が好奇心全開で護衛の注意を聞かなければ、護衛は確かに困るだろう。

(すみませんでした……)

 心の中でゾーイに謝っておく。


 * * *


 その夕方、アンドリオンは宿に戻り、夕食前の休憩時にミナを呼ぶ。


「ミナ。クルスト殿下はなぜ君とあんなに親しげなのだ? 私は報告を受けておらぬぞ」

 アンドリオンの焦った様子に、ミナも焦る。

「はい。申し訳ございません。前回王都を訪問したときに、『エビーナの招き』においでになっており、わたくしが翌日来るようにと呼ばれたのでございます」


 その報告を忘れていたのは事実だ。それだけで終わると思っていた。

 ミナも正直、なぜこのような展開になったのかよくわからない。アンドリオンが訝るのも無理はない。


「そして、その翌日、殿下がお望みの案をお出ししました。

 わたくしとしては、資料を1枚作ってご提案しただけでございますので、30分しかお話しておりません。たいしたことではなかったのです」


「ふむ……。ではなぜあのように、君に固執するのだ?」

「ボリックさんがおっしゃるには、クルスト殿下はわたくしを王都に呼びたいのだと……」

「なに?! またか……」


 アンドリオンは「はあ……」と大きなため息をついた。

(ミナの実力がわかると、ブリアなどにミナを置けぬということか……)


「でも、ご心配には及びません。わたくしはアンドリオン様のおそばを離れませんわ」

 アンドリオンを安心させようと、ミナはにっこりと微笑んだ。


 アンドリオンは黙ってミナを見る。

 その言葉はうれしいのだが、ニコリとはできない。眉根を寄せて小声で言った。

「しかし、相手は王族だぞ。その意味、わかっているのか?」

「王族でもなんでも、わたくしは自分がいたいところにいるのでございます」

「そ、そうか……」


 ミナの不思議な自信に、アンドリオンも少し不安が消えた。

「大丈夫でございます。ボリックさんによりますと、これは国王陛下がお望みのことではないようですので」

「そうか。……なら安心するとしよう」

 アンドリオンに笑顔が戻る。


「はい。アンドリオン様はご心配なさらなくてよいのです。ブリア領主として堂々となさっていてくださいませ」

 とミナはガッツポーズをする。


 その言葉が逆にアンドリオンを再び不安に引き戻す。

 ミナを連れ去られること以上の不安がアンドリオンにはあった。

(いやいや、ブリア領主だから堂々とできぬのだ)とアンドリオンは言いたい。


 仮にもアル―スト暗殺事件に関わった側なのだ。クルストに何か言質を取られ、無礼だと因縁をつけられて、また敵対してしまったら今までの苦労が水の泡だ。

 クルストは今のブリアにとって、一番接触したくない相手なのだ。


(ミナはブリアが王太子の敵だったということをもう忘れたのか……。アル―スト王には許されても、王太子に許されたかはわからぬ)


 だが、無邪気そうなミナの笑顔を見ていると、アンドリオンも自分が心配しすぎかと思えてくる。


「アンドリオン様、ご心配は杞憂ですわ。多少面倒なことはあるとは思いますけど……」

 ミナはアンドリオンがいつまでも不安そうにするので顔をのぞき込む。

「ふむ……」

 とりあえず、ため息をつきながら頷いた。


(ミナはブリアの立場がわかっていないらしい……)

 しかし、ミナに笑顔でそう言われると、アンドリオンはなぜか少し落ち着く。


 もっとも、ミナは封建社会で育っていないので、アンドリオンほど王族の意味がわかっていないだけなのだ。これもカイルに言わせれば、無謀なのかもしれなかった。




第190話 王太子とミナ



 競技会は王太子クルストの宣言で幕を開けた。さすがに王族はこういうことになれているらしく、見事な挨拶をした。


 そこから3日間の競技会を楽しみ、そしてその空き時間には見本市を楽しむ。

 そして、閉会式もクルストが宣言し、王太子の一行は3日の日程を終えて、アンドリオンとともにタンブリーに戻っていった。



 ブリア城で夕食を楽しみながら、クルストはアンドリオンに声をかける。

「ブリア侯。素晴らしい行事であったな」

「は。殿下もお役目を引き受けていただき、ありがとうございました。民も殿下に来ていただき、大変興奮しておりました」

 アンドリオンは軽く頭を下げる。


 ミナはまだ後処理が大量にあるので、しばらくは戻って来られないのだ。


「ときに、ブリア侯……」

 (来たぞ……)

 アンドリオンは身構える。


「ミナはなぜ、ブリアにおるのだ? ラッスル公もミナを王都に呼びたがっているのではないか?」

「は、それは……。ミナはブリアに必要なのです。コブルー港を開発することで、国の防衛を図る計画がございます。それを提案したのはミナでございますので。

 それに、レオスト殿下は、ミナはブリアにいるのが一番良いとおっしゃったのでございます」


「ほう? それはなぜだ?」

「ミナ本人がここにいるのを望みますので……」

「しかし、それは解せぬ」

「え? なぜでしょう?」


「ミナの夫はブリアにはほとんどおらぬ。王都のほうにおるであろう? ならば、ミナも王都に来るほうが良いはずだ」

「はい。……それはそうかもしれませんが、本人はそれを望んでおりませんので……」

「ふむ……。つまり、夫よりもブリアが良いということか? だが、ミナが望んで結婚し、王城の神殿で父上の隣席のもとで結婚式を挙げたのであろう? 仲が良くないのか?」


「いえ。仲はとても良いのですが、それぞれ、仕事に全力を尽くしておりまして……。昨年は、夫のカイルはほとんど盗賊掃討作戦のために軍におりましたようでございます。王都に住んだとしても一緒に暮らすことは難しいかと」


 クルストは考え込んだ。

(今の仕事のままでは、ミナは夫と暮らせぬということか……)


 その様子を見て、アンドリオンは言う。

「殿下、ミナに直接お尋ねくださいませ。レオスト殿下も、ミナはブリアにいるときが一番能力を発揮すると思われたからこそ、ここにおいておられるのでございます」

「そうだな。ミナに聞くとしよう」


 こうして、結局クルストは、ミナがタンブリーに戻るまで、ブリア城に滞在することになった。


クルストはミナにどう出るのか? ミナとクルストの攻防戦が始まる……?


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。

この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。

---今までのあらすじ---

ミナはブリア領主のため、妹エカーリアが王弟ラッスル公レオストの長男ゼビルスと結婚できるよう、大掛かりな策を成功させた。ゼビルスのいとこにあたる王太子クルストは彼を敵視し、その背後にいるミナを嫌う。しかし、ミナに出させた提案に驚き、クルストはミナの賢さを認めざるを得なかった。そして、いきなりブリア領を訪れ、コブルー競技会に参加すると言い出した。王太子の突然の訪問にブリアは大騒動となる。


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別小説、完結しています。よかったら、訪問してください!

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用語集

ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才官僚と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…

カイル … ミナの夫で、バンリオルの諜報員。レオスト付きの騎士。25歳

ボリック・バンリオル … 国内最大の商会の代表で、ミナの支援者であり、カイルの雇い主、31歳

クルスト … 現国王アル―ストの子で王太子

アンドリオン … コブルー港のあるブリアの領主でミナの上司。27歳

ゾーイ … ミナの護衛騎士

エビーナの招き … 王都で開催される大商人たちの年次会

ラッスル公レオスト … 王弟。その長男ゼビルスにアンドリオンの妹エカーリアが嫁いだ

アルースト暗殺事件 … 現国王アルーストが王太子のときに、王弟ラッスル公レオストと前ブリア領主がアル―ストの暗殺を企んだ事件

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