ミナの案を採用したかと思うと、クルストは……
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください。
初めてお読みになる方は、下にあらすじと用語集があります!
次の日にまたモガル宮を訪れた。
通されたのは昨日の小さな応接室ではなく、会議室だ。中に入ると、5人の文官や武官がいる。
ミナが入ってきたあとに、クルストが入ってきた。
「ミナ。持ってきたか?!」
座るや否や、クルストがミナに厳しい目で問う。
「はい。殿下」
ミナはニコリと微笑んで、資料を二部配る。
「お名前を広めるには、制度を残すことが一番です」
クルストも官僚たちも、資料をのぞき込んだ。
侍従も姿勢を崩さないまま、遠目でのぞき込む。
「ご提案いたしますのは、殿下のお名前を冠した、奨学金制度でございます。名付けて『クルスト奨学金制度』でございます」
「な、なに?!」
クルストは、自分の名前がそのまま使われていることに驚く。
「王族のお名前は、毎年人々の口に上る制度にすると、何10年、いえ、100年以上も残りますわ」
「な、なに? 100年以上も……」
クルストは驚愕する。そんなことが本当にあるのかと、眉をしかめる。
「あの……、『奨学金制度』……とは何でございますか?」
文官の一人が尋ねる。
(あれ? キトーさんはもらっていたはずだけど……。貴族は必要ないからあまり知らないのかな?)
「はい。奨学金と申しますのは、学生が学校に行くためのお金を与える制度でございます。王立技師養成所にはすでにこの制度がございます。これをもっと広く、一般の学校に広げるのでございます。
貧しい者はどんなに優秀でも学校にいけません。これは国にとって、大きな損失でございます。
このような者には殿下のお名前のついた資金からお金を与えて、領地の学校に通わせるのでございます」
「ほう……」
文官たちは資料をなめるように見つめる。
「それは……殿下が感謝されますな」
一部の文官はすぐに悟る。
「はい! そのとおりでございます」
現在、民衆のための学校は神殿の教室だ。そこから、成績の良いもので、お金に余裕があるものが領主の運営する学校に行く。だが、たいがい商人くらいだ。それもある程度の豊かさがなければ上の学校まで通えない。全寮制になっていればさらにハードルが高い。
ミナは説明を続ける。
「どの村や町にも、役場にこの告知板を掲げるのでございます。そして、この奨学金に価する者を選べるような制度を作ります。
毎年、春の時期に、試験をするなどして、優秀な者を選ぶのでございます」
「民が興味を持ちますか?」
一人の文官が問う。
「もちろん、持ちますわ! 生き方の選択肢ができるのです。農家の末っ子でも、頭が良ければ異なる道が開かれます。すると、夢や希望を与えるでしょう。
ですから、心の隅にいつも『クルスト奨学金』という名前が残り、殿下が希望を与えてくださるように感じるのですわ!」
「なるほど。必要なのは……まずは資金。それから、その選定をする者……でございますな」
別の文官がふむふむと頷く。
「はい。資金はかかりますが、あちこちから集めるのです。商人たちの寄付を募るのも良いでしょう。最初は少ない人数から始めて、だんだんと大きくしていくのが良いかと」
「商人がお金を出しますか?!」
文官が眉をひそめる。
「はい。商人は優秀な人材が欲しいのでございます。ですから、『クルスト奨学金』の中に、たとえばバンリオル基金、ダルザ基金などを作りますと、優秀な学生が卒業した後に、そこに雇われるという道筋になりますね。そうすると、商会としては名も上がりますし、良い人材が確保できるので、喜ぶでしょう」
「ふむ。なるほど……。これは一考の余地がありますな」
「しかし、これは国内には良いですが、外国には名が広まらないのでは?」
別の文官が問う。
「いえ。大丈夫でございます。外国には、『留学生基金』を設けるのでございます」
「りゅうがくせい……?」
「はい。外国貴族の優秀な学生をフリストルに迎えて、王立学院で学ばせます。
すると、クルスト殿下の名前をよく知るものが卒業後に国に帰りますので、殿下のお名前を外国の優秀な官僚が知る、ということになります。
10年後、20年後にはその留学生が各国で大臣や宰相になるかもしれません。アラゴンキアは彼らの恩人になれるのです」
「な、なんと……」
諸所に驚きの声が漏れる。
「し、しかし……。我がアラゴンキアの教育を他の国に知らしめるのはどうかと……」
眉をひそめる文官もいる。
「いいえ。教育というのは、思想なのでございます。ですから、同じ教育を学んだ者が外国の王府にいるというのは、互いに理解を深める良い効果があるのですわ」
「そ、そうなのですか?」
文官たちは「ふむ」「なるほど」と考えている。
「いや、お待ちください」
今度は武官が口を出す。
「これは良い案だと思いますが、しかし、殿下は文武両道のおかた。ですから、文官や商人を育てるだけでは、不十分かと」
ミナは思った。レオストが軍の最高司令官だから、軍事方面にもクルストの名が知れていないと片手落ちになると感じているのだと。
「ごもっともでございます。もちろん、武官候補生教練所の奨学金も良いと思いますわ。ただ、資金がどれだけあるか、ということが問題となりますね」
ミナはニコリとして答える。
「そうか。カネがあれば全部できるのだな」
クルストは少し明るい表情で言う。
「はい。さようでございます。武官のためには軍務庁から予算を少しいただくとか、文官のためには総務庁から少しいただくとか、あちこちから少しずつ集めればよいかと。
これは単なる支出ではございません。子育てと同じもの。つまり、未来への投資でございます」
「なるほど……」
「ふ~む……」
文官も武官も、それぞれのポーズで深く頷く。
「わかった! さっそくこれを検討させよう」
クルストは資料をトンと整えて、口元をぎゅっと閉めた。
「ご苦労であった、ミナ。もう下がってよいぞ!」
さっさと出て行けと言わんばかりだ。
「はい。では、失礼いたします」
そう言って、ミナは下がっていった。
(助かった。「では、そなたがやれ」なんて言われたら、私は困る。それは忙しすぎる……)
ほっとしたミナであった。
王弟クルストのミナへの接近はこれだけでは終わらなかった……
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 感謝感謝です。
この小説は、読みながらいつの間にかビジネス感覚が身につくという、世界初の機能小説です。よかったら、星の評価をつけて応援してくだると嬉しいです! よろしくお願いします。
---今までのあらすじ---
ミナはブリア領主のため、妹エカーリアが王弟ラッスル公レオストの長男ゼビルスと結婚できるよう、資金づくりを計画する。その際に、大掛かりな盗賊掃討戦、そして詐欺集団掃討戦を提案した。そして、アラゴンキア初の職人たちの技能競技会の開催、債券の発行など、新しい事業を次々と進めていった。そんなある日、ミナは王太子に呼び出される。そして、王太子は自分の名を広めるためにミナに案を出せと命じた。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア侯行政顧問で、王都では天才行政官と呼ばれる。見かけは18歳くらいだが、中身は…
モガル宮 … 王太子の住む宮殿
クルスト … 王太子。かつて舞踏会に来たミナに侮辱的な言葉を言った
キトー … ミナがみつけた王立技師養成所の学生
レオスト … 王弟で、ミナの支援者。クルストが敵だと思っている叔父




